スコットランドヤードのボビーたち

ニュースコットランドヤード(New Scotland Yard)・・・通常は、少し短めのスコットランドヤード(Scotland Yard)の名で呼ばれるのは、ロンドン警視庁(Metropolitan Police Service、時に略してThe Met)の本拠地です。

ロンドン警視庁は、それまで、しっかりした統制が取られておらず、てんでまちまちの感があった治安体制を整えるため、1829年に、時の内務大臣であり、後に英国首相となるロバート・ピール(Robert Peel)の下で通された、首都警察法(Metropolitan Police Act)により設立されます。警官たちは、生みの親ロバート・ピールにちなみ、ロバートの愛称であるボビーから、ボビーと呼ばれるようになります。ロンドン警視庁の最初の所在地は、トラファルガー広場に近いホワイトホール街4番地、建物の裏の、一般市民用入り口がグレート・スコットランド・ヤード(Great Scotland Yard)という通りに面していたため、ロンドン警視庁の本拠地=スコットランド・ヤードの方程式が確立。

やがてスコットランド・ヤードは、1890年に、リチャード・ノーマン・ショー(Richard Norman Show)設計により、新しく建設されたテムズ川沿いのヴィクトリア・エンバンクメントの2つの建物、ノーマン・ショー・ビルディングへ移動。この段階で、頭に、「ニュー」がついて、ニュー・スコットランド・ヤードと呼ばれるようになります。1935年から40年にかけて、その隣に新たな建物、カーティス・グリーン・ビルディングがウィリアム・カーティス・グリーン(William Curtis Green)設計により追加され、ニュー・スコットランド・ヤードは、こうしてテムズ川沿いに並んでたつ、3つの格式高そうな建物に収まります。上の写真は、ロンドンアイに乗ったときに取ったものですが、右手の白い建物がカーティス・グリーン・ビルディング、その隣の2つのレンガのものがノーマン・ショー・ビルディング。

1967年に2度目の引っ越しで、ヴィクトリア駅近郊のブロードウェイ(Broadway)にある、色気もそっけもない高層ビルへ移動。ビル前の、くるくる回る「New Scotland Yard」のサインボードでおなじみでした。なんでも、このサインは、目まぐるしくも、一日に、1万4千回、回転していたのだそうです。(上のサインボードの写真は、ロンドンの地方紙、イブニングスタンダード紙のスコットランドヤード移動に関する記事より拝借。)かなり前に、このサインボードをネタにしたコメディーのスケッチを見た事があるのですが、このサインボードの軸棒をたどって、建物の地下へ行くと、ある人物が、ハンドルをくるくる回している、要は、ニュー・スコットランド・ヤードの看板は手動で回っている・・・というギャグでした。モンティパイソンだったかな・・・、誰がやっていたかの記憶は定かではありません。

去年(2016年)末に、ニュー・スコットランド・ヤードは、3回目の引っ越しを行い、上記カーティス・グリーン・ビルディングを改造させて、この以前の、川に面した場所に舞い戻っています。有名な「New Scotland Yard」の回転看板は、古いものはあまりにも回転しすぎてぼろがきていたため、同じ新しいものを作り、やはり入り口に設置。いまや、ロンドン警視庁の、文字通り「看板」的存在ですので、無しで済ますわけにはいかないのでしょう。

さらに、建物内入り口すぐには、ロンドン警視庁生みの親のロバート・ピールの胸像が飾られているそうです。昨日のイブニング・スタンダードによると、この胸像は、ロバート・ピールの死後1851年に作成されたもので、長い間スコットランドヤードの階段の下の物置に箱に入れられたまま忘れ去られていたのが再発見されたのだそうです。新しい住所に設置するにあたって、汚れを取り除くなどの修復作業が行われたようですが、かつてボビーたちは、この胸像の鼻をつまむという事をやっていたようで、鼻が手の油で、茶色くなっていたのだとか。

さて、このお色直しした新しいニュースコットランドヤードの建物ですが、昨日(3月23日)、エリザベス女王によって公式のオープン式典が行われる予定であったのが、一昨日の22日に、すぐそばの、ウェストミンスター橋と国会で起こったテロ事件で延期となりました。犯人が橋上の歩行者を車でなぎ倒した後、国会の門内にナイフを持って一人突入。犯人が建物内に入るのを阻止しようとした、国会入り口を警備していたボビーが、犯人に刺されて命を失い。犯人は、警視庁の即効の反応で射殺。この事件から、こうしたテロの対象となりえる重要な場所を警備するボビーたちを、裸一貫で立たせておくのはまずいのではないか、常に、本人の護身のためにも、銃を持たせておくべきでないか、という意見もでてきています。いろいろ批判を受けることも多いロンドン警視庁ですが、こういう事件があると、やっぱり頼りになる、と改めて思うのです。体張って働いているボビーもたくさんいるわけで。

ウェストミンスター橋は、国会から川を隔てて、向かいにあるセント・トマス病院に、時折、検診で通うために、うちのだんなも、観光客に交じって、のろのろと歩くことが多い場所です。私も去年、10回以上は歩いて渡っていますから、こういう事件は、運が悪ければ、我が身。不運に巻き込まれてしまった人は本当に気の毒としか言いようがありません。どんなに気を付けたところで、危険を避けようとしたところで、避けられないこともある。だからと言って、おんもは危ないと、どこにも行かずに、家にこもって一生を送る人もいないわけですから、昨日のロンドンも、ビジネス・アズ・ユージュアルで、通常の顔をすでに取り戻していました。いざとなったら、駆けつけてきてくれるスコットランドヤードのボビーたちもいることですし。

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