悲惨なるサザンレール通勤

現在イギリスの鉄道は、鉄道の線路自体はネットワークレールと称され、国営ですが、その上を走る列車の運行は、地方により異なった私営の列車運行会社によって行われています。運航権は、わりと短期で更新、または他社に移行されるため、うちの周辺を走る路線も、過去何回か、経営会社変更のため名前が変わっています。この、運航権を与えられる期間が比較的短期というのは、良くないのですよね。会社が、営業権を更新されなかった時のために、長期的な計画をたてられず、大規模の投資をしないで終わるので。

さて、サザン(Southern)と称される路線は、主に、イギリス南部の海辺の町、サセックス州ブライトンとロンドンの間を走っています。この路線は、去年2016年の春から、幾度ともないストライキを引き起こし、この列車を使ってロンドンに通勤する人たちの生活を、かなり惨めなものにしています。

今年も引き続き、年明け早々、サザンレールは、先週3回のストライキ。その頻度があまりにも多く、通勤者が、仕事場に到着できなかったり、あまりにも遅れてついたりするため、この路線に住む人たちは、求職の面接などで、サザンレールを使っているとわかると、それを理由に採用を拒否されるという話も出ています。ストレスのあまり神経障害を起こす人も増え、先日はラジオで、ストライキに次ぐストライキと、ダイヤの乱れのために、ある日、やっと乗り込んだ列車が、自分の降りるはずの駅を素通りしてしまい、ついに耐え切れず、列車の中で声を上げて泣き出してしまった、などと言う人もいました。また、沿線にある学校では、ストの日に、生徒が授業にたどり着けずに、教室が半分からだったというニュースも読み。風刺やコメディー番組では、最近、必ずと言っていいほど、サザンレールが取り上げられ、おちょくられていますが、沿線に住み通勤する人たちには、笑い事ではないでしょう。比較的ましな方の、うちの路線でさえ、5分や10分の遅れは、わりと頻繁で、通勤している時は、何度かいらいらさせられたものです。

もともと、サザンのストライキの、事の起こりは・・・DOO(Driver Only Operation ドライバー・オンリー・オペレーション)をめぐっての論争。このDOOとは、今まで、駅を出発するときに扉を閉めるのは、車掌の役割であったのが、これを、2016年の春から、すべて運転手がやることとなり、車掌は列車内などを歩いて、切符の点検などをする仕事に専念させることにした・・・というもの。

今の段階で、ロンドンの地下鉄を含む、イギリスの路線の3分の1では、このDOOがすでに行われているものの、労組は、サザンレールが新たにDOOを導入することによって、車掌がいなくとも列車の運行が可能になることから、車掌がストライキに参加し、待遇改善のネゴを行うことができなくなる、そして、やがては、車掌を解雇することも容易になるとして、DOO導入に反対しストを起こしているものです。運転手がドアを閉めるという余分な作業を行うことによって、しっかりとした確認ができずに列車を動かす可能性が出て、乗客への危険度が高まるなどという事も労組側は反対の理由としてあげていますが、上述の通り、すでに3分の1の路線が行っている運行方法であり、安全面での論議はあまり信憑性はありません。つまるところは、車掌側の、後々、ストを起こす能力が無くなる事、また、仕事自体が消えてしまう事への危機感、そして運転手側は、同じ給料で、仕事量が増えること、そして、車掌への同情がストライキの主な原動力でしょう。

このながーく続いている論争が。ちょっと見より複雑なのは、政府とサザンレールとの関り。普通、列車運行会社は、運航する権利を政府に与えられ、切符販売により収益を上げ、ストを含めた問題が起こり、予定通りに列車を走らせることができない場合、それによって生じたロスは会社自ら埋めることになっています。が、現保守党政権は、サザンレール運航の会社に直接金を払い、その代わりに、切符や定期販売で生じた収入は政府により回収されるという契約を交わしているらしいのです。そして、ストライキによって起こったロスや、通勤者への賠償金は、政府が肩代わりをする事になっているのだと。これは、政府がサザンレールの運航会社に、当路線にDOOを強行導入させる代わりに、こうした特殊な取り扱いをしたようなのです。よって、ストライキが長続きしようが、列車を走らせることができなかろうが、サザンレールの経営会社は、一切損失を受けることなく、それどころか、列車を走らせずとも、定期的に政府から金が入ってくるので、逆にストライキのおかげで苦しむどころか、収益があがっているのではないか、などという、信じられない状態に陥っています。おまけに、政府は、ストライキによる乗客への賠償金で更なる国民からの税金を、ばらまくことになっているのです。

労組は労働党支持団体でしょうから、保守党政府としては、労組の力が弱まるのは、願ったりでDOO導入にも積極的なのでしょうが、こうした政党政治の思惑で、どちらの党が政権を握っているかにより、インフラ対策はもちろん、国の将来にとって、大切な、学校制度までが、各党の支持者層を喜ばせるための方針を打ち立て、大幅にあっちに行きこっちに行きと変化し、混とん状態に陥ったりするのです。こうした大切な事項は政党政治を越えて、国会一致団結で、長期的計画をねって欲しいのに。

そして、このサザンレール運航会社と労組のにらみ合いは、一向に終わる気配を見せない。ここのところ、ずっとサザンレールは、ストライキの日のみならず、列車の運行本数が減っていたり不定期であったりするようで、仕事のストレスにかてて加えて、気の遠くなるような時間がかかる通勤のストレスと毎日戦っている、ブライトン初め、サザンレールの通勤者たちには、心からお悔やみを申し上げます・・・という感じです。

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