聖バーソロミュー・ザ・グレート教会

数あるロンドン内の教会の中、ウェストミンスター寺院と、セント・ポール大聖堂の2つの大聖堂以外で、見学するのに入場料を取る教会というのは、考える限り、テンプル騎士団ゆかりのテンプル教会と、ここのみではないでしょうか・・・地下鉄バービカン駅のそばにある、セント・バーソロミュー・ザ・グレート教会(St Bartholomew-the-Great)。かなり強気ですね。その歴史と重要性に自信がある証拠か。

外からのぱっと見は普通の教会ですが、ロマネスクと称されるノルマン朝の丸いアーチに支えられた内部は、なかなか厳かで、違った雰囲気があります。

当教会は、1994年の映画「フォー・ウェディング」(Four Weddings and a Funeral)で、4つ目の結婚式が執り行われた場所として知られています。4つ目の結婚式、とは言っても、映画内では、花婿が、他に愛している人がいると式の最中に告白して、怒った花嫁に顔面パンチを受け、聖壇の前でノックアウトされるという顛末なので、実際の結婚にはいたらなかったわけですが。この他にも、数々の映画に使用されており、ざっと有名どころを挙げると
1998年の「恋に落ちたシェークスピア」(Shakespeare in Love)
2007年の「エリザベス:ゴールデン・エイジ」(Elizabeth: The Golden Age)
2008年の「ブーリン家の姉妹」(The Other Boleyn Girl)
2009年の「シャーロック・ホームズ」(Sherlock Holms)
こうした人気メディアに登場する頻度が高いのも、強気の理由でしょう。上のU字型をした祭壇部分の写真を見て、「そう言われれば、確かに、映画で見たような記憶がある」なんていう人もいるかもしれません。「フォー・ウェディング」に使用されたこともあって、いまだ、結婚式のヴェニューとしても人気の様です。「フォーウェディング」は、公開されたときに、私は、ロンドンのスイス・コテージという場所の映画館に見に行ったのです。映画館はわりといっぱいで、噴き出したり、「えー!」と叫んだり、「くさーい!」のような声を挙げたりの、観客の反応などもよく覚えている、とても思い出深い映画です。

さて、このセント(聖)・バーソロミュー・ザ・グレート教会の設立の歴史をささっと見てみましょう。

1123年に、ラヒア(Rahere)という人物により、アウグスティヌス派修道院である、聖バーソロミュー修道院の一部として設立。修道院自体は、1539年にヘンリー8世により解散されています。

ラヒアは、ヘンリー1世の時代の宮廷人(道化師であったという説もあるようです)で、王のお気に入りであったと言います。ヘンリー1世の妻マティルダの死、更には2年後のヘンリーの世継ぎであるウィリアム王子の死、続く自分自身の身寄りの死という数々の不幸を目の当たりにした後、彼は、ローマへと巡礼の旅へ出かける。ローマで、ラヒアは、瀕死の重病にかかり、「これで生き延びたら、ロンドンに、貧民を助けるための病院を築きます」との誓いをたて祈るのです。この祈りがかなったか、ラヒアは無事回復。

再びイングランドへ戻る途中、聖バーソロミューがラヒアの前に姿を現し、「我は、汝の命を救ったバーソロミューである。ロンドンの外のスミスフィールドの土地に、教会を設立せよ」とのたまったのです。ラヒアは、聖バーソロミューのお告げと、自分の誓いに忠実に、ロンドン(現シティー・オブ・ロンドン)のすぐ外にあるスミスフィールドに、聖バーソロミュー修道院と聖バーソロミュー病院を設立。

聖バーソロミュー病院一角
こうして、やはりラヒアによって設立された聖バーソロミュー病院(St Bartholomew's Hospital、通称バーツ)は、聖バーソロミュー・ザ・グレート教会の南側に位置するロンドンで一番古い病院で、現在も病院として活躍しています。シャーロック・ホームズの相棒ワトソン博士は、ここで医者をしていた設定でした。また、ベネディクト・カンバーバッチ主演のテレビの「シャーロック」シリーズでは、シャーロックを愛するモリー・フーパーは、この聖バーソロミュー病院勤務という事になっており、シャーロックが、飛び降りた建物も、当病院の建物の屋根からですので、バーツは、「シャーロック」ファンには馴染みの病院であるかもしれません。なお、病院敷地内には、聖バーソロミュー・ザ・グレート教会より小型の、聖バーソロミュー・ザ・レス教会(St Bartholomew-the- Less、直訳:小さな聖バーソロミュー教会)という教会も存在します。

ラヒアの棺
ともあれ、俗世を捨てたラヒアは、完成した聖バーソロミュー修道院の院長、また聖バーソロミュー病院の長として仕え、自身の死の前には、自ら聖バーソロミュー病院で看護されたのではないかとされています。彼の棺は、修道院解散後も教区教会として生き残った当教会内にあります。

教会の入り口から入ってすぐのところに、金きら金の聖バーソロミューの像がおかれていました。ダミアン・ハーストによるものであるそうですが、ちょっと雰囲気に合わないんと違うかい・・・。聖バーソロミュー(バルトロマイ)は、皮剥ぎの刑で殉教したことになっていますので、像は、聖バーソロミューが、剥がれた自分の皮を掲げている姿で、「Exquisite Pain」(甘美なる痛み)というタイトルがついています。皮剥ぎだなんて、甘美どころか、しってんばっとうの痛みでしょうに。なんでも、この像の教会内での展示は、あと2,3年の一時的なものだそうなので、これが見たい人はお早めに。

他にも、ところどころにモダンアート風のものが飾られていました。これは、キリスト教というより、禅という感じです。教会側は、現代の生活にも関わりあるものを、と趣向を凝らそうとしているのかもしれません。

この教会に足を踏み入れずとも、すぐわきの付随のカフェに入ってお茶することもできます。食べ物の品数は多くないですが、建物の雰囲気は抜群で、静かな、いい休憩場所です。もっとも、ここまで足を運んだからには、入場料(現段階で5ポンド)を払ってでも教会内部を見る価値は十分あります。ロンドンの歴史にさほどの興味は無くても、映画ファンなら、ぜひ一度どうぞ。

当教会の公式サイトはこちらまで。

*聖バーソロミュー(St Bartholomew)

ミケランジェロの「最後の審判」内に描かれている聖バーソロミュー
英語では、セント・バーソロミューですが、日本語では、聖バルトロマイ。キリストの12使徒のひとりとされる人物。彼の殉教の仕方には諸説があるようですが、生きているうちに皮を剥がれるという、おそろしい刑にあったというのがもっぱらの見解の様で、 美術絵画では、上記のダミアン・ハーストの像の様に、ナイフや自分の皮を手に持った姿のものが多いようです。ローマのシスティーナ礼拝堂内のミケランジェロによる最後の審判の絵の中にも、ナイフと自分の皮を手にした聖バーソロミューの姿があります。ついでに、この聖バーソロミューの手から釣り下がった皮は、ミケランジェロの自画像であるとされています。

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