ラジオ・タイムズよ、お前もか!
「ラジオ・タイムズ」(Radio Times)は、イギリスのテレビ・ラジオ番組を週ごとに網羅する情報週刊誌です。私が、この雑誌を買うのは一年に一回だけ。映画が多くかかり、他にあまりやる事もない、クリスマス期(12月後半)のダブル・イシューと呼ばれる、通常の1週間の番組案内ではなく、2週間分の番組案内が収まっているもの。今年も買って、見たい映画に丸印なんぞを付けてあります。
ラジオ番組よりも、テレビ番組の情報が主役なのに、何故に、「ラジオ・タイムズ」と呼ばれるのか・・・そのココロは、この雑誌が始めて出版されたときはテレビ番組が存在しなかったため。遡る事、1923年。テレビはおろか、ラジオもまだ創成期で、新聞等の出版メディアは、新しい媒体であるラジオなるものを、自らの販売量を減らす原因となる、ライバルとして見始めており、新聞出版協会は、BBCに対して、ラジオ番組のリスティングを新聞に掲載してほしければ、高額の料金を払えと請求。当時のBBC総督のジョン・リースは、それに対して、新聞社に頼らず、ラジオ番組のリスティングを載せた出版物を打ち上げることを考案し、
「ラジオ・タイムズ」が誕生することとなるのです。
早くも1928年に、ラジオ・タイムズは、実験的なテレビ放送の開始を発表し、BBCは、早朝30分間のテレビ放映などを行っていたそうですが、テレビ番組の定期的リスティングが始まるのは、1936年の11月から。これによって、ラジオ・タイムズは世界初のテレビ番組リスティングの雑誌の地位を獲得。戦時中は、テレビ放送は一時的に打ち止めとなり、再び、国民は、情報とエンターテイメントをBBCのラジオ放送のみに頼ることになるわけですが、ラジオ・タイムズ自体は発行され続け。戦後はテレビ番組の数の上昇と共にページ数も増えていき、現在では、当然BBCのみならず、すべてのテレビ、ラジオ番組を載せる雑誌となっています。なんでも、1988年のクリスマス版は、イギリスで過去発行された雑誌の中で最大の売り上げを収め、ギネス・ブック入りしているそうです。クリスマス版は、やはり、私みたいに、普段は買わないけど、この季節だけはと手を伸ばす人が出てくるのでしょう。もっとも、この季節をはずしても、未だに、ラジオ・タイムズは、イギリス内で売り上げが第3位の雑誌だということです。
もっとも、この長い歴史の間、ラジオ・タイムズはBBCの傘下にあったものの、2011年には、イミーディエット・メディア・カンパニーに売られてしまっています。BBCが2011年にラジオ・タイムズを含む雑誌部門を売るような金欠状態となっている原因のひとつは、絶えず、政治家や時の政府からくる、「受信料をあげるな」的なプレッシャーでしょう。更に、2001年には、時の労働党蔵相ゴードン・ブラウンが、シルバー世代の人気取りのために、75歳以上の老人のいる家庭はすべて、テレビ受信料を払う必要なしという方策まで取っています。シルバー世代が増え、寿命も延びている今日この頃のこと、この方策の結果、なんと6家庭に1件ほどの割合で、TV受信料を払っていないという状態になっているのだとか。当初は、受信料が減ることにより生じる差額は政府が埋めることになっていたのですが、保守党政権になってから、この差額はBBCが補うべきだとし、政府とBBCは喧々囂々と戦っていました。ついに、これもBBCが負けて、75歳以上の受信料無料によって生ずる差額を、自ら背負う事となり、今後、ますます資金繰りが大変になるかもしれません。これに限らず、国民(特に選挙での投票する割合が高い高齢者層)の人気取りのための政治家の思惑で、後の財政が難しくなる事態が次々と生じています。もっとも、BBC内部でも、上層部、人気キャスターやスターがびっくりするようなサラリーを受けていたりもしますから、BBC内部の構造自体にも問題はありなのでしょうが。
さて、私が、今年のラジオ・タイムズのクリスマス、ダブル・イシューを買った直後に、現在ラジオ・タイムズを所有するイミーディエット・メディア・カンパニーが、この最もイギリス的な歴史のある雑誌を、ドイツのHubert Burda社に売る予定であるというニュースを読みました。以前、当ブログで、現在は日本のミツカン社所有のブランストン・ピクルの事を書いたときに、イギリス的ブランドでありながら、蓋を開けると、外国の会社に所有権が渡ってしまっているものが、非常に多いという話をしましたが、このニュースには、「ラジオ・タイムズよ、お前もか!」という感じです。特に、ブランド名が確立しておらず、語れるような、ふるーい歴史のない会社であれば、外人に売ってしまっても、再び似たような会社の設立ができるでしょうが、こういう過去のイギリスの社会史と関わる名のあるブランドは、一夜では創造できないのに。更には、上記の通り、2011年に、BBCの手を離れてしまっているので、BBCが、ラジオタイムズの海外企業への販売に文句を言ったところで、拉致もあかないでしょうし。
そして、こうした資産の販売によって設けた金は、イギリスの場合、別の、国内または海外資産への投資というより、消費されてしまう事が多々のようです。高級ドイツ車買ったりして・・・。個人としても全体としても、将来の事は考えない、「明日は明日で、何とかなるさ」的お国柄と言ってしまえばそれまでですが。また、恐ろしいのは、イギリス内で、実際にラジオ・タイムズが、売られる予定であるという事、そして、その後の売り上げは、ドイツに流れるという事を知っている人間の割合が非常に少ないであろうという事実。庶民が消費に明け暮れたり、無料でテレビ受信を楽しんだりしている間に、じわじわとイギリス資産の海外への叩き売りは続いています。
参考
ドイツ出版社の「ラジオ・タイムズ」買収に関するガーディアン紙の記事
「ラジオ・タイムズ」の歴史に関するBBCの記事(上に載せた、ラジオ・タイムズ所版の写真も当サイトより)
ラジオ番組よりも、テレビ番組の情報が主役なのに、何故に、「ラジオ・タイムズ」と呼ばれるのか・・・そのココロは、この雑誌が始めて出版されたときはテレビ番組が存在しなかったため。遡る事、1923年。テレビはおろか、ラジオもまだ創成期で、新聞等の出版メディアは、新しい媒体であるラジオなるものを、自らの販売量を減らす原因となる、ライバルとして見始めており、新聞出版協会は、BBCに対して、ラジオ番組のリスティングを新聞に掲載してほしければ、高額の料金を払えと請求。当時のBBC総督のジョン・リースは、それに対して、新聞社に頼らず、ラジオ番組のリスティングを載せた出版物を打ち上げることを考案し、
ラジオ・タイムズの初版 |
早くも1928年に、ラジオ・タイムズは、実験的なテレビ放送の開始を発表し、BBCは、早朝30分間のテレビ放映などを行っていたそうですが、テレビ番組の定期的リスティングが始まるのは、1936年の11月から。これによって、ラジオ・タイムズは世界初のテレビ番組リスティングの雑誌の地位を獲得。戦時中は、テレビ放送は一時的に打ち止めとなり、再び、国民は、情報とエンターテイメントをBBCのラジオ放送のみに頼ることになるわけですが、ラジオ・タイムズ自体は発行され続け。戦後はテレビ番組の数の上昇と共にページ数も増えていき、現在では、当然BBCのみならず、すべてのテレビ、ラジオ番組を載せる雑誌となっています。なんでも、1988年のクリスマス版は、イギリスで過去発行された雑誌の中で最大の売り上げを収め、ギネス・ブック入りしているそうです。クリスマス版は、やはり、私みたいに、普段は買わないけど、この季節だけはと手を伸ばす人が出てくるのでしょう。もっとも、この季節をはずしても、未だに、ラジオ・タイムズは、イギリス内で売り上げが第3位の雑誌だということです。
もっとも、この長い歴史の間、ラジオ・タイムズはBBCの傘下にあったものの、2011年には、イミーディエット・メディア・カンパニーに売られてしまっています。BBCが2011年にラジオ・タイムズを含む雑誌部門を売るような金欠状態となっている原因のひとつは、絶えず、政治家や時の政府からくる、「受信料をあげるな」的なプレッシャーでしょう。更に、2001年には、時の労働党蔵相ゴードン・ブラウンが、シルバー世代の人気取りのために、75歳以上の老人のいる家庭はすべて、テレビ受信料を払う必要なしという方策まで取っています。シルバー世代が増え、寿命も延びている今日この頃のこと、この方策の結果、なんと6家庭に1件ほどの割合で、TV受信料を払っていないという状態になっているのだとか。当初は、受信料が減ることにより生じる差額は政府が埋めることになっていたのですが、保守党政権になってから、この差額はBBCが補うべきだとし、政府とBBCは喧々囂々と戦っていました。ついに、これもBBCが負けて、75歳以上の受信料無料によって生ずる差額を、自ら背負う事となり、今後、ますます資金繰りが大変になるかもしれません。これに限らず、国民(特に選挙での投票する割合が高い高齢者層)の人気取りのための政治家の思惑で、後の財政が難しくなる事態が次々と生じています。もっとも、BBC内部でも、上層部、人気キャスターやスターがびっくりするようなサラリーを受けていたりもしますから、BBC内部の構造自体にも問題はありなのでしょうが。
さて、私が、今年のラジオ・タイムズのクリスマス、ダブル・イシューを買った直後に、現在ラジオ・タイムズを所有するイミーディエット・メディア・カンパニーが、この最もイギリス的な歴史のある雑誌を、ドイツのHubert Burda社に売る予定であるというニュースを読みました。以前、当ブログで、現在は日本のミツカン社所有のブランストン・ピクルの事を書いたときに、イギリス的ブランドでありながら、蓋を開けると、外国の会社に所有権が渡ってしまっているものが、非常に多いという話をしましたが、このニュースには、「ラジオ・タイムズよ、お前もか!」という感じです。特に、ブランド名が確立しておらず、語れるような、ふるーい歴史のない会社であれば、外人に売ってしまっても、再び似たような会社の設立ができるでしょうが、こういう過去のイギリスの社会史と関わる名のあるブランドは、一夜では創造できないのに。更には、上記の通り、2011年に、BBCの手を離れてしまっているので、BBCが、ラジオタイムズの海外企業への販売に文句を言ったところで、拉致もあかないでしょうし。
そして、こうした資産の販売によって設けた金は、イギリスの場合、別の、国内または海外資産への投資というより、消費されてしまう事が多々のようです。高級ドイツ車買ったりして・・・。個人としても全体としても、将来の事は考えない、「明日は明日で、何とかなるさ」的お国柄と言ってしまえばそれまでですが。また、恐ろしいのは、イギリス内で、実際にラジオ・タイムズが、売られる予定であるという事、そして、その後の売り上げは、ドイツに流れるという事を知っている人間の割合が非常に少ないであろうという事実。庶民が消費に明け暮れたり、無料でテレビ受信を楽しんだりしている間に、じわじわとイギリス資産の海外への叩き売りは続いています。
参考
ドイツ出版社の「ラジオ・タイムズ」買収に関するガーディアン紙の記事
「ラジオ・タイムズ」の歴史に関するBBCの記事(上に載せた、ラジオ・タイムズ所版の写真も当サイトより)
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