トゥルー・カラーズ

昨日は、ぐっと気温が下がり、普段は歩いていると暑くなるロンドンの巷も、ズボンの下のおしりが冷える寒さでした。今年は、紅葉が比較的綺麗だったので、11月中に何度か、森林や、庭園を歩き、できる限り、秋の風景を楽しみましたが、それも終わりです。

紅葉と日本語では書くものの、モミジなどの少ないイギリスでは、黄葉とした方がよさそうな感じです。それでも、日差しが強い時などは、黄色の葉が金色に輝き、美しくはあります。

夏の間に、光合成を行うため、お日様の光を吸収する役割を果たすクロロフィル(葉緑素)の存在のおかげで、エネルギー製造工場である木の葉は、緑色をしているわけです。秋となり、日の光も乏しくなってくると、木は、葉に残っているできる限りの養分を取り込み、クロロフィルは分解して消えうせる。そして、葉の中に他に存在しており、夏季はクロロフィルの緑に隠され見えなかった、キサントフィル(Xanthophyll)カロチン(Carotene)などの黄色、オレンジ色の色素が現れてくる・・・。よって、紅葉は、クロロフィルの存在で見えなかった本当の色が、魔法の様に秋の風景を染めるという現象なのだそうです。また、ある種の木は、更に化学変化により、葉の中にアントシアニン(Anthocyanin)色素が登場し、赤や紫に変化。


英語で
show one's true colours
本性を表す(直訳:自分の本当の色を見せる)
というイディオムがあります。

この語源は、紅葉や木の葉とは関係が無く、昔、大海原を航海中の船が、お互いの国籍などを識別できるのは、マストに掲げた旗の色であった事に由来するそうです。海賊が、標的とした商船などと同じ色の旗を掲げて、相手を惑わし、接近してから、「この旗嘘だよ!実は俺たち海賊だー!」と本性を現して、お宝頂戴攻撃をかけた事からきたのです。黒地にどくろマークのトゥルー・カラーズは、最初は隠しておかないと。

潜在的に持っていた木の美しいトゥルー・カラーズ(本当の色)の只中を歩くのは、意気高揚する経験ですが、何かがきっかけで、人間のたてまえが崩れ落ち、そのトゥルー・カラーズが見えたとき、当然ですが、その色は人によりまちまち。今年、ポピュリズム政治の結果、西洋諸国あちこちで数々起こる事件の中で、目をそむけたくなるような、人の心に潜んでいた、どす黒いトゥルー・カラーズを目の当たりにし、ため息が出ることも多かったのです。陰でこんな事を思っている人間がこんなに沢山いたのか・・・と。かと思うと、その色があまりに鮮やかで、葉に多少の黒点があっても、まったく気にならないほど美しいトゥルー・カラーズの人もいる。

今年イギリスの、ブレグジットの国民投票直前に殺害されてしまったジョー・コックスMPの犯人に、無期懲役の判決が下りましたが、その裁判の最中、目撃者の証言によって明らかになった、彼女の最後の言葉は心打たれるものでした。何度もナイフで刺されながら、自分を助けようとして、そばにいた2人のアシスタントに「危害を受けるのは私だけでいい、あなたたちは、逃げて!」と叫んだのだそうです。重傷を負い、おそらく死ぬとわかりながら、最後に自分の親しい人間たちを守りたいという態度、私は絶対にまねできないですね。もともと、人あたりの良い女性であったようですが、彼女のトゥルー・カラーズも本当に美しかった。こんな人間が、世界から一人、暴力によって減ってしまったと思うと、残念です。また、ハンドバッグなどを振りかざして、犯人を阻害しようとしたというアシスタントも、犯人に飛び掛かって自分も負傷したという老人も大したものでした。私がその場に居合わせたら、きっと、安全圏までのがれて、そこから警察に電話をかけ、その後「ヘルプー!」と叫ぶくらいが関の山ではないかという気がします。

偏見、やっかみ、自信過剰、自己中心、自己反省皆無の他人批判、自分の都合に合わせた事実の曲解・・・。誰もがある程度は持っている要素ではありましょうが、そればかりがあまりに強くなると、トゥルー・カラーズは美しい色ではなく、限りなく、黒に近づく、その上、社会がそれを正当化すると、更なる化学反応で海賊のどくろマークも浮かび上がる。そういう色を呈する他人のふり見て、我がふり直せ、ではないですが、できる限り、黒い要素は持っていたくない。持っているとわかったら、化学変化で、どくろではなく、綺麗なものに変えていけないものか。深紅とはいかなくても、せめて、茶色?美しいトゥルー・カラーズを持つ人たちとできる限り交わり、そのおこぼれを浴びていれば、少しはましになるかしらん。

先日訪れた庭園には、樹齢800年という古いオークの木がありました。オークは、秋も深まる、一番最後に葉の色が変わる木のひとつですが、その色は、茶色と表現した方がいい色です。それでもお日様の光が通ると、綺麗な黄色に輝く。自分のトゥルー・カラーズが、いつの日か、ちょっと黒点を交えたオークの秋の色くらいになれたら、まず万々歳とします。

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