チャタムのロイヤル・ドックヤード(チャタム工廠)観光
チャタム・ドックヤード内の19世紀後半の艦船、HMS Gannet |
チャタムは、ロチェスター同様、チャールズ・ディケンズゆかりの地で、ディケンズが、幼少の頃に一時住んだ場所であり、彼にとって、子供時代の最高の思い出のある場所とされています。お金を湯水のように使ってしまうディケンズの父は、この後、チャタムからロンドンへ引っ越した後、ついに借金に首が回らなくなり、債務者監獄であるマーシャルシー監獄に投獄。このため、チャールズは、12歳にして一時学校を去り、悲惨な状況でテムズ川沿いの工場で働く・・・という羽目になりますから、それは、チャタムで、周辺を自由に走り回ったころの生活が夢のように感じた事でしょう。
ディケンズがチャタムに住んでいる時、父と、ロチェスター北部のハイアムにあるギャッツ・ヒルという屋敷の前を通りかかり、その時、父が、「一生懸命働けば、いつかこんな屋敷を買って住めるようになる。」と息子に言って聞かせ、その後、幼いディケンズは、幾度かわざわざチャタムから歩いて、この憧れの屋敷を見に行っていたのだそうです。ディケンズは、人生の後半の1856年に、この館が売りに出ているのに気づき購入、お気に入りの館となり、1870年、当館で息を引き取ることとなります。
などと、ディケンズの事をたくさん書きながら、私が今回チャタムを訪れた目的は、ディケンズの足跡を辿るためや、ちょっと子供だまし的なディケンズのテーマ・パーク、ディケンズ・ワールドを訪れるためではなく、チャタムに約400年間存在した、広大なロイヤル・ドックヤード(Royal Dockyard、チャタム工廠)を訪れるため。ここは、イギリス海軍の造船と船の修復を行ってきた、かなり大規模なドックヤードでしたが、いまは博物館となって一般公開されています。チャールズ・ディケンズの父は、イギリス海軍の事務を司っていたため、チャールズの生まれた、やはり軍港のポーツマスから、ケント州のシアネス、そして、チャタムへと転勤になり、ディケンズ一家は、一時的にここに住んでいた次第です。
さて、このチャタム・ロイヤル・ドックヤードの、簡単な歴史をざっと書くと・・・
ミッドウェイ川(River Medway)沿いのこの地は、ドックヤード設立以前から、冬季に軍船の停泊地として使用されていた場所でしたが、ヘンリー8世の治世の末、1547年から、イギリス海軍の船のロープ、マスト、その他の装備品を保管する場所としても使用され始めた事を機に、拡大発展することとなります。エリザベス1世の時代の1570代にはすでに、王室のドックヤードして確立。一番最初に、チャタム・ロイヤル・ドックヤードで造られた船は、スペイン無敵艦隊との海戦、アルマダの海戦に関与したということです。後の時代、海の帝国となるイングランドを反映し、徐々に場所が拡大されて行き、イングランド屈指のドックヤードとなります。そして18世紀、イングランドの歴史上、最も有名な軍船、ネルソンがトラファルガーの海戦に挑んだHMSヴィクトリー号(HMS Victory)も、この場所で造船されます。18世紀後半から、工廠内の、造船、その他の機械化が進み、2つの世界大戦の間も、イギリス海軍のドックヤードと駐屯地として使用され。戦後の1950年代から、海軍の縮小により徐々なる衰退を見せ、1984年についに閉鎖。閉鎖後、一部が、The Historic Dockyard Chathamとして、保存され、博物館として、一般公開されるようになるのです。
ドックヤードへのかつての正門 |
果てしなく続くドックヤードの外壁 |
敷地内は、自由に歩き回れますが、停泊されている船内や、ロープ工場を見学するためには、入場時にツアーを予約する必要があり、私たちは、上記の通り、潜水艦ツアーと、ロープツアーを予約。それが始まる時間まで、そぞろ歩きました。隅から隅まで、全部見ようと思うと、軽く半日以上はかかるでしょうね。
1704年に建てられた、Commissioner's House(長官邸)は、イングランド内に現存する海軍関連の最古の建物だそうです。
かつて、ネルソンのヴィクトリー号が造船されたドックのあった場所に、現在停泊しているのは、1944年に造られた、HMS Cavalier。
HMS Ocelot(潜水艦オセロット)内のツアーに参加したのは、私とだんなだけという貸し切りツアーのようでした。オセロットは、チャタムで、イギリス海軍のために作られた最後の戦艦。冷戦時代の60年代にスパイ活動に使用されたものです。とにかく、中は狭いですから、この中に、何か月もいるとなると、閉所恐怖症、パニックを起こしやすい人には無理な任務です。
ロープ製造工場正面 |
ロープ工場脇 |
ロープ作りのデモ |
ガイドさんによると、帆、錨の他にも、船内に設置された大砲が、動き回らないように固定させるのにもロープが使用されていたそうで、ロープで固定されていない大砲(cannon、キャノン)の事を、「loose cannon ルース・キャノン」(直訳:ゆるい大砲)と呼んだそうなのです。ルース・キャノンという英語は、現在では、「抑制無く何でも言ったり行動したりするタイプの人間、問題児」を意味する言葉でもあり、ロープで結わえ付けていない大砲が、球を打った後、その衝撃で動き回り、船内の周りの物や人物を破壊してしまう様子からきた言葉だという事です。
船上でのロープのその他の使用法には、乗組員に体罰を与えるための、「cat o'nine tails」(9つの尾を持つ猫)と称される、先が9つほどに分かれている、はたきのような形の鞭の製造。「9つの尾の猫」を使用した体罰は、船内だと、これを、思いっきり振る場所がないため、常に、甲板で、他の乗組員が見守る中行われており、この事から、狭い場所を描写するのに
No room to swing a cat
猫を振り回す場所もない
という表現が生まれたと言います。ですから、ここで言う猫は、本物の猫ではなく、ロープでできた体罰用の「9つの尾を持つ猫」の事であったのだと。
なるほどね~と、雑学の勉強にもなるツアーでした。
端から端まで歩くとそれは時間のかかるロープ工場内。現在もロープを作っている作業員は、移動の際には自転車を使って移動するそうで、内部に自転車が何台か置かれていました。
ツアー後に、私たちも、一応一番端まで歩きましたが、確かに、これ、何度も足で行ったり来たりは時間かかります。
ロープ工場を出てから、帰途に着くには、博物館入り口まで戻る必要は無く、行きは入れなかった、ドックヤードの反対端(ロチェスター側)から出ることができました。
ここからのんびりと、メッドウェイ川の夕暮れ景色を眺めながら、最寄りのバス停まで歩き、バスでロチェスターに戻りました。
チャタム・ロイヤル・ドックヤードは、ロバート・ダウニーJr主演、ガイ・リッチー監督の2009年の映画、「シャーロック・ホームズ」のロケ先の一つとして使用されています。このDVDを持っている人は、もう一度見直して見ると、このブログに載せた写真の風景が、いくつか目に留まることと思います。
The Historic Dockyard Chathamの公式サイトは下まで。
http://thedockyard.co.uk/
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