柳のピクニック・バスケット

昔スタイルの、柳のピクニック・バスケット。ピクニック・ハンパーなどとも称されます。うちのだんなの両親が、約50年前に購入して、長らく、ドライブとピクニックのお供に使っていたものです。半世紀を経ているわりには、留め金の皮が切れてしまった以外は、いまだ、立派ないでたちで、現在は、我が家で、テーブルクロス収納に使用しています。

植物繊維や枝を使用して編みこんで作られた製品を、英語では、一般にウィッカー細工(wickerwork)と言います。ウィッカー・チェア、ウィッカー・バスケットなど。もっとも、植物繊維以外の、ワイヤーを使用したロイドルーム・チェアなども、ウィッカー・チェアと称されるので、植物と限定せず、細い枝風の材料で編みこんだもの一般が、ウィッカー細工と言えるかもしれません。「ウィッカーマン」という、スコットランドの小さな島を舞台にした映画がありました、そう言えば。これは、太陽崇拝をする妙な宗教を信じる島民達が、柳で作った巨大な人型のウィッカーマンの中に、人間の生贄を入れて、豊作を願って、ウィッカーマンごと燃やしてしまう、というすごい話。

日本で言う、籐椅子、籐籠などの籐は、熱帯植物ラタンの事ですが、イギリスでのウィッカー細工は、うちのバスケット同様、柳の枝を使用したものが主流です。ラタンは、当然、イギリスでは育たないので、ラタン製品が輸入されはじめる前は、特に。

イギリス内で、編み細工に使用される柳の枝の生産地は、サマーセット州が有名で、うちのピクニック・バスケットも、だんなによると、サマーセット州の柳細工の店で購入したものだそうです。現在、巷に出回っている、比較的安価で購入できる籠類は、大半が中国製ではないかと思います。人件費、素材費、場所代を考えると、どうがんばっても、今のイギリス製は、値段と量では、輸入物に太刀打ちできないですから。

ウィッカー・バスケットにご馳走をつめてのピクニックというと、いまだ、子供時代に読んだ、児童文学「たのしい川べ」(Wind in the Willows)の第一章の、川ネズミと、モグラのピクニックのシーンを思い出します。せっかく、立派なピクニック・バスケットがあるのだから、車でお出かけの際は、川ネズミのランチ・バスケット同様、ご馳走で膨らんだバスケットを持って行って、川沿いの景色の良い場所でご飯・・・などとやってみたいとは思ってはいるのですが、準備と後片付けが、なんとなく面倒で。今夏は、一度くらいやってみようかな・・・。

冒頭に書いた通り、こうしたバスケットは、ハンパーと称される事もあり、特に、デパートや、高級食料品店などでは、瓶詰め、缶詰、ビスケットなどの食べ物を、ハンパーにつめて、ギフト用に売られていたりもします。また、特にクリスマス期には、クリスマス用の食べ物飲み物をつめた、クリスマス・ハンパーと呼ばれるものもあり、やはり贈り物として人気です。

先日、小雨しょぼ降る中、町に買い物に出かけた際、通りかかったチャリティーショップ(セコハンの洋服や品物を売って利益を慈善事業に回す店)のショーウィンドーに、うちのよりも、少々小型のピクニック・バスケットが飾られているのを目撃。わりとコンディションが良さそうな上、値札を見ると3ポンド。これは買わない手は無いと、店内に踏み込み、棚から籠を下ろし、レジへと抱えて行きました。レジのおじさん、「あ、これ、5分前にショーウィンドーに飾ったばかりだったんだよ。」と喜んでくれました。「もうひとつ、一回り小さいも一緒に飾ったんだけど。対で買ってくれるといいなと思って。」「小さい方はいくら?」「2ポンド。」「OK、それじゃ、そっちも買う。」すると、おじさん、そそくさと小さいほうも持って来て、「ほら、対でぴったり!」セールスが上手なおじさんでした。小さい籠を、大きい籠の内部に納めて、バスケットを下げて店からでました。この後、ピクニック籠を下げた怪しげな姿で、スーパーで買い物。ほうれん草や、トマトを籠につめこんで、雨に少々濡れながら帰宅しました。

この2つの籠は、おそらく中国製で、家に戻ってからよく見ると、小型のものには、一部、透明な糊の塊がついていました。伝統工芸品と銘打って、付加価値をつけて販売している、手作りイギリス製のものは、さすがに、糊は使わないでしょう。また、うちの古いピクニック・バスケットに比べ、角の部分と、ハンドルの取り付け方が、少々ざつな感は否めないです。でも、2つで5ポンドのバーゲン価格で、一応はしっかり作られてますから、「買ってよかった」と大満足です。さあ、こちらには、何を入れて使いましょうかね。

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籠編みに使用される柳について

イギリスで、籠編み等に使用される柳(学名:salix)は、主に、「Salix viminalis」と「Salix triandra」という種のものが主流。生産者によっては、枝の色が赤などのバラエティーを育てているところもあるようです。一般に柳というと、川面に、緑の枝をたらしている、しだれ柳を連想しますが、商業用に使用されている柳たちは、毎年、地面の近くまで刈り込まれ、枝は上に向かって生えていくので、木というより、茂みのイメージ。成長は早く、ほとんどの枝は、その年のうちに刈り込まれ、細工できるよう、処理されます。昔は、手作業で刈り取っていたものを、現在は、機械での刈り込みがほとんどということ。収穫された柳の枝は、ウィジーズ(withies)と呼ばれ、自分で、柳籠を作ってみたいという人は、このウィジーズを購入することも可能。

ウィジーズの処理の仕方も色々あるようで、刈って皮をつけたまま乾燥したもの、煮たもの、蒸気をあてたもの、冬季に刈って春まで水底に浸したもの、などなど。それぞれ、色や性質が違ってくるようです。いずれにしても、一度乾燥させた後、柔軟性を与えるため、編む前に、再び、何時間か水に浸す必要があるのだそうで、なかなか、下準備も大変です。

自分で、適当な柳の枝を探し集めて、籠あむんじゃ!という人は、とにかく柔軟な枝を選ぶことが大切で、手で90度くらいに曲げてもボキンと折れないものを集め、上述のように、一度完全に乾燥させ、その後、再び水に浸す作業は必至のようです。よほど、節約をしようというのでなければ、プロが処理した枝を買った方が早いでしょうけれど。

参考サイト:Willow for Basket Making and Structures

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