オスカー・ワイルドのサロメ
先日、ラジオで、アル・パチーノがオスカー・ワイルド著の戯曲「サロメ」について語っている番組を聴きました。彼が監督も手がけた最新の映画「Wilde Salome」は、この戯曲とワイルドに関するドキュメンタリーだという事で、彼は、ロンドンの舞台で、イギリスの役者、スティーブン・バーコフがヘロド役をやったサロメを見て以来、この作品に、非常に惹かれているのだそうです。かなり前の話ではありますが、私も、このスティーブン・バーコフのサロメは、ロンドンで見たのです。あの時、アル・バチーノが同じ劇場内で見ていたりして。ひょひょひょ!パチーノは学生時代大ファンでしたし、サロメも好きな戯曲ですので、このドキュメンタリー映画は、ぜひ見たいところです。
サロメの筋をざっと書くと・・・ユダヤの王のヘロドは、妃の連れ子である、美しいサロメを気に入っている。サロメは、サロメで、捕らわれの身の預言者ヨカナーン(洗礼者ジョン/洗礼者ヨハネ)に魅せられ、何とか彼の気を引こうとし、接吻を要求するものの、ヨカナーンは、彼女を冷たく拒絶。ヘロドに、自分のために踊りを踊れば、何でも好きな物をやるといわれ、承諾したサロメは、踊り終えた後、褒美に、ヨカナーンの首を請求する。ヘロドが何とか説得して、褒美を他の物に変えさせようとするのだが、サロメは一切ひかず。やがて、銀の皿に盛られて、サロメの元へ運ばれてきたヨカナーンの首。その唇に、サロメが接吻するのを見、ヘロドは、彼女を処刑する。
セリフは詩的で美しいのです。特に、恋に憑かれて言い寄るサロメと、それを振り払うヨカナーンのやりとりはいいです。この戯曲を英語で読むのは、こちらまで。
この作品は、ワイルドがパリに滞在中に、フランス語で書いたものだそうで、英語版は、後、彼の恋人アルフレッド・ダグラス(愛称ボージー)により翻訳されています。洗礼者ジョンが登場する宗教的題材を使用し、また、内容的にいかがわしいとされ、イギリスでは上演禁止となり、彼の在命中にイギリスで舞台化されたことはなかったそうですが、同性愛者であった彼が、イギリスで、わいせつ罪で逮捕され投獄中に、オリジナルのフランス語版が、パリで上演されたとの事。また、投獄中に、フランスの文筆家の友人達から激励の手紙などを受け、ワイルドの、フランス文化と文化人に対する尊敬と感謝の念は高まったようです。
サロメはまた、ここにも載せた、オーブリー・ビアズリーによる挿絵でも有名な戯曲です。
さて、ワイルドが投獄されてしまうのは、この恋人のアルフレッド・ダグラス(ボージー)が原因。ボージーの父であるクイーンズベリー侯爵に、「同性愛者」と侮辱をされたワイルドに、ボージーは、父を訴えるようせっつくのです。愛する恋人のため、自分の理性や友人達の助言に反し、クイーンズベリー侯爵を相手に、訴訟を起こしたところ、自分の方が、若者達をたぶらかして、同性愛へ誘い、道を踏み外させる邪悪な輩、と糾弾され(当時はホモは犯罪でしたので)、投獄される羽目になるのです。
自分の魅力を使い、ヘロドからヨカナーンの首を要求するサロメと、訴訟を通し、うっとおしい父の首を、ワイルドから要求するボージーに類似性が見られるなどと言われます。 どんなに頭脳が優れた人物でも、自分にとってよくないと思われる人間に惹かれ、どうしても離れることも忘れることもできず、破滅の道をまっしぐら・・・という事はあるものですね。恋は盲目とはこの事か。
妻子がありながら、ボージーとの恋愛に身を滅ぼすワイルドの姿は、1997年のイギリス映画オスカー・ワイルド(原題:Wilde)に描かれています。ぼてっとした顔が、実物にわりと似ているスティーブン・フライがオスカー・ワイルド役で、ボージー役はジュード・ロー。彼の、わがままいっぱいの美青年ぶりが、はまっていました。
同様にワイルドのボージーとの関係と、裁判を描いた、さらに古い1960年のイギリス映画に「The Trials of Oscar Wilde」(オスカー・ワイルドの裁判)があります。ワイルド役は、ピーター・フィンチ。ワイルドは、いつも、胸の飾りボタン穴に緑色のカーネーションを飾ってつけていたという逸話が盛り込まれ、この映画は「緑のカーネーションの男」とも呼ばれているそうです。ボージー役は、ジョン・フレイザーという、私はよく知らない俳優でしたが、タイプとしては、ジュード・ローと似た、男性マネキン系の顔。私は、こちらの映画の方が、好きです。特に、裁判で、最初は余裕をみせながら、言葉巧みに応答するワイルドが、だんだんと検察側に追い込まれていく、緊迫した様子が、良かった。ボージーとワイルドの関係が、肉体的なものであったかどうかなどが、スティーブン・フライのオスカー・ワイルドより、あいまいに、判明されずに描かれているのもいいです。ただ、こちらの映画は、日本語版が出ているかは不明です。
こんばんは
返信削除オスカーワイルドにまつわるお話、大変興味深く読ませて頂きました。時代の寵児としてのワイルドにイギリスの光と影を投影できるでしょうか?ジュードローはいい感じでしょうね。ところで、「幸福の王子」もワイルドですよね。あの作品は子供向きの物語なのですか?あまりに悲劇的で自己犠牲というのは理解しがたいと思うのですが、、。そしてワイルドの名言 Experience is the name everyone gives to his mistakes.
The Happy Princeは、ワイルドの児童文学です。私も、子供の時、翻訳物を読んだのを覚えています。
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