ミッション
ブラジルのサッカー・ワールド・カップにちなんで、もう一度見てみたくなった映画のひとつが、これ、「ミッション」。昔、映画館で見て、どどーっと流れるイグアスの滝と、ジェレミー・アイアンズのうるうるとしたつぶらな瞳が印象に残っています。そして、あの気分高揚するエンニオ・モリコーネの音楽。
スペインは、バスク人のイグナチオ・デ・ロヨラを中心としたメンバーにより、1530年代に創設されたキリスト教団体イエズス会。教育に重きを置き、世界各地でのキリスト教布教活動で知られ、日本では、フランシスコ・ザビエルでおなじみ。海外での布教では、イエズス会は、その地の民族の文化言語を尊重し、イエズス会宣教師たちは、布教先の言語取得にも余念がなかったようです。
先住民族へのキリスト教布教と西洋文化伝授を目的とした、イエズス会の南米での活動は、すでに16世紀半ばから始まり、各地に、イエズス会伝授所・ミッション(albeias)が設立され、改宗した原住民達の労働により、非常に効率の良いサトウキビ、マテ茶などを生産するプランテーションも経営。ところが、自らの農場で原住民を奴隷として使用したいという思惑のある南米の移住者達にとっては、、イエズス会は、面白くない存在であり、イエズス会が、南米に根を下ろしてまもなく、すでに、南米移住者達とイエズス会の間での衝突が始まるのです。この映画「ミッション」は、そんな、南米各地であった、植民地移住者達とイエズス会とのいさかいの中、18世紀に起こった最悪の衝突をもとにして、「我が命つきるとも(全ての季節の男)」などを書いたロバート・ボルトがストーリーと脚本を担当したドラマ。
ドラマの背景史実を書くと・・・
現パラグアイ、アルゼンチン、ブラジルの境界線にあたる土地に、スペインからのイエズス会により設立された伝道所がいくつかありました。原住民のグアラニー族は、比較的温和で、多くがすすんで、キリスト教に改宗。それに目を付けるのは、サンパウロなどからの奴隷商人たち。すでにイエズス会農場で働き、西洋的習慣にも慣れたグアラニー族は、奴隷としては非常に魅力的。映画の物語の設定となる時代以前から、すでに奴隷狩りは、この周辺のミッションをターゲットとして行われていたため、イエズス会は、伝道所の場所を、南西へと幾度か移動させていたものの、奴隷商人たちは、めげることなく、しつこく更に深いジャングルの中まで追ってくる。伝道所のあらたなる移動場所を追っての奴隷狩りの活動が、最終的には、ブラジルの領土の拡大にもつながっていくのです。
18世紀半ば、この周辺の土地で、スペインとポルトガルの境界線論争がもちあがり、政治的緊張感も強まる中、イエズス会と植民地移住者たちの利害も絡まり、イエズス会のミッションは、スペイン、ポルトガルにとっても、頭の痛い存在。
前回の記事のブラジルの歴史で、スペインとポルトガルが新世界の領土を分けた、1494年のトルデンリャス条約に言及しましたが、スペインとポルトガルは、境界線問題を解決すべく、1750年のマドリード条約にて、両者の南米領土の線の引き直しをします。この条約によると、イエズス会のいくつかの伝道所は、スペイン領から、ポルトガル領(ブラジル)へと変わってしまう場所にあり、ミッションはポルトガルから退去を命じられます。
これにしたがい、1754年にイエズス会の宣教師達がミッションを立ち退いた後も、グアラニー族は、退去を拒否し、スペイン・ポルトガル軍を相手取って、抵抗運動を起こすのです。(グアラニー戦争1754-1756年)抵抗運動は、当然、やがては西洋軍に鎮圧され、ミッションが点在した地は、一時的にスペイン・ポルトガル両国の管轄下に入るものの、1761年のエル・パルド条約にて、再びスペイン領土に。
イエズス会は、やっかいものとして、この後間もなく、スペイン、ポルトガル両南米領土から追放命令を受ける事となり、イエズス会撤退によって開放された農場や現地労働力は、植民地農園主たちの懐を暖める事となります。1773年には、ローマ教皇からのイエズス会禁止令が出るのですが、ナポレオン戦争後の1814年に、会は再び復活し現在にいたっています。現ローマ教皇、フランシスコもイエズス会のメンバーでした、そういえば。
さて、映画「ミッション」のざっとしたあらすじは、
スペインのイエズス会に所属するガブリエル神父(ジェレミー・アイアンズ)は、音楽を通してグアラニー族の心をやわらげ、彼らのキリスト教改宗に成功し、滝の上の地にミッションを設立。この地で、時折、奴隷狩りを行い、金もうけをしていたのが、奴隷商人ロドリゴ・メンドーザ(ロバート・デ・ニーロ)。ある日、メンドーザは、愛する女性と自分の弟が恋仲になってしまった事を知り、大切にしていた弟を刺し殺してしまう。罪の意識にさいなまれるメンドーザは、ガブリエル神父の誘いで、ミッションに加わり、かつては自分が狩っていたグアラニー族に暖かく迎えられ、イエズス会のメンバーとなる。
やがて、マドリード条約にて、ミッションのある土地がスペイン領からポルトガル領へと移ってしまう。ミッションの解体を申し渡されたイエズス会は、それを拒否。武力でミッションを守るため、グアラニー族に、西洋の戦闘方を伝授するメンドーザ。一方、神は愛であるはずだ、武力が正当で、愛の存在余地の無い世界で生きていく事はできないと、非暴力での抵抗を覚悟するガブリエル神父。最終的には、双方、西洋の武力の前に、倒れる事に。
原題:The Mission
監督:Roland Joffe
言語:英語
1986年
北米のインディアンの運命も悲しいものですが、西洋が南米大陸の先住民にした事の酷さも、「え、そんな!」と、おののくものがあります。イエズス会も、全ての人類はキリスト教に改宗すべきと言う、おしつけがましいところもあり、実際、イエズス会宣教師達も、心ならずながら、新大陸に西洋の病気を持ち込むのに一役買ってしまったのですが、少なくとも、彼らの意図したところは、主に善であっただろうし、自分が南米先住民だったら、奴隷商人よりも、イエズス会のミッションに見つけて欲しいですからね。
スペインは、バスク人のイグナチオ・デ・ロヨラを中心としたメンバーにより、1530年代に創設されたキリスト教団体イエズス会。教育に重きを置き、世界各地でのキリスト教布教活動で知られ、日本では、フランシスコ・ザビエルでおなじみ。海外での布教では、イエズス会は、その地の民族の文化言語を尊重し、イエズス会宣教師たちは、布教先の言語取得にも余念がなかったようです。
先住民族へのキリスト教布教と西洋文化伝授を目的とした、イエズス会の南米での活動は、すでに16世紀半ばから始まり、各地に、イエズス会伝授所・ミッション(albeias)が設立され、改宗した原住民達の労働により、非常に効率の良いサトウキビ、マテ茶などを生産するプランテーションも経営。ところが、自らの農場で原住民を奴隷として使用したいという思惑のある南米の移住者達にとっては、、イエズス会は、面白くない存在であり、イエズス会が、南米に根を下ろしてまもなく、すでに、南米移住者達とイエズス会の間での衝突が始まるのです。この映画「ミッション」は、そんな、南米各地であった、植民地移住者達とイエズス会とのいさかいの中、18世紀に起こった最悪の衝突をもとにして、「我が命つきるとも(全ての季節の男)」などを書いたロバート・ボルトがストーリーと脚本を担当したドラマ。
ドラマの背景史実を書くと・・・
現パラグアイ、アルゼンチン、ブラジルの境界線にあたる土地に、スペインからのイエズス会により設立された伝道所がいくつかありました。原住民のグアラニー族は、比較的温和で、多くがすすんで、キリスト教に改宗。それに目を付けるのは、サンパウロなどからの奴隷商人たち。すでにイエズス会農場で働き、西洋的習慣にも慣れたグアラニー族は、奴隷としては非常に魅力的。映画の物語の設定となる時代以前から、すでに奴隷狩りは、この周辺のミッションをターゲットとして行われていたため、イエズス会は、伝道所の場所を、南西へと幾度か移動させていたものの、奴隷商人たちは、めげることなく、しつこく更に深いジャングルの中まで追ってくる。伝道所のあらたなる移動場所を追っての奴隷狩りの活動が、最終的には、ブラジルの領土の拡大にもつながっていくのです。
18世紀半ば、この周辺の土地で、スペインとポルトガルの境界線論争がもちあがり、政治的緊張感も強まる中、イエズス会と植民地移住者たちの利害も絡まり、イエズス会のミッションは、スペイン、ポルトガルにとっても、頭の痛い存在。
前回の記事のブラジルの歴史で、スペインとポルトガルが新世界の領土を分けた、1494年のトルデンリャス条約に言及しましたが、スペインとポルトガルは、境界線問題を解決すべく、1750年のマドリード条約にて、両者の南米領土の線の引き直しをします。この条約によると、イエズス会のいくつかの伝道所は、スペイン領から、ポルトガル領(ブラジル)へと変わってしまう場所にあり、ミッションはポルトガルから退去を命じられます。
これにしたがい、1754年にイエズス会の宣教師達がミッションを立ち退いた後も、グアラニー族は、退去を拒否し、スペイン・ポルトガル軍を相手取って、抵抗運動を起こすのです。(グアラニー戦争1754-1756年)抵抗運動は、当然、やがては西洋軍に鎮圧され、ミッションが点在した地は、一時的にスペイン・ポルトガル両国の管轄下に入るものの、1761年のエル・パルド条約にて、再びスペイン領土に。
イエズス会は、やっかいものとして、この後間もなく、スペイン、ポルトガル両南米領土から追放命令を受ける事となり、イエズス会撤退によって開放された農場や現地労働力は、植民地農園主たちの懐を暖める事となります。1773年には、ローマ教皇からのイエズス会禁止令が出るのですが、ナポレオン戦争後の1814年に、会は再び復活し現在にいたっています。現ローマ教皇、フランシスコもイエズス会のメンバーでした、そういえば。
さて、映画「ミッション」のざっとしたあらすじは、
スペインのイエズス会に所属するガブリエル神父(ジェレミー・アイアンズ)は、音楽を通してグアラニー族の心をやわらげ、彼らのキリスト教改宗に成功し、滝の上の地にミッションを設立。この地で、時折、奴隷狩りを行い、金もうけをしていたのが、奴隷商人ロドリゴ・メンドーザ(ロバート・デ・ニーロ)。ある日、メンドーザは、愛する女性と自分の弟が恋仲になってしまった事を知り、大切にしていた弟を刺し殺してしまう。罪の意識にさいなまれるメンドーザは、ガブリエル神父の誘いで、ミッションに加わり、かつては自分が狩っていたグアラニー族に暖かく迎えられ、イエズス会のメンバーとなる。
やがて、マドリード条約にて、ミッションのある土地がスペイン領からポルトガル領へと移ってしまう。ミッションの解体を申し渡されたイエズス会は、それを拒否。武力でミッションを守るため、グアラニー族に、西洋の戦闘方を伝授するメンドーザ。一方、神は愛であるはずだ、武力が正当で、愛の存在余地の無い世界で生きていく事はできないと、非暴力での抵抗を覚悟するガブリエル神父。最終的には、双方、西洋の武力の前に、倒れる事に。
原題:The Mission
監督:Roland Joffe
言語:英語
1986年
北米のインディアンの運命も悲しいものですが、西洋が南米大陸の先住民にした事の酷さも、「え、そんな!」と、おののくものがあります。イエズス会も、全ての人類はキリスト教に改宗すべきと言う、おしつけがましいところもあり、実際、イエズス会宣教師達も、心ならずながら、新大陸に西洋の病気を持ち込むのに一役買ってしまったのですが、少なくとも、彼らの意図したところは、主に善であっただろうし、自分が南米先住民だったら、奴隷商人よりも、イエズス会のミッションに見つけて欲しいですからね。
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