大災難P.T.A.

其々の国、その国独特の、家族で過ごす事を一般的とする休日があります。そしてまた、そうした休日の直前は、国中の人々が故郷や家へ帰るため、民族大移動のような状況になる事も往々。日本ではお盆、正月がそれでしょうか。欧米はクリスマス前が、一番、頭に浮かぶところ。アメリカでは、クリスマス前の11月第4木曜日のサンクスギビング(感謝祭)の祝日にも、家族と共に過ごすため、仕事の後、長い旅路につく人たちも多いようです。翌日の金曜日は、国民の祝日では無いものの、連休として休みを取る人が多いため、年内の平日で、米国金融市場が一番静かな日と言われます。逆に、クリスマスショッピングに繰り出す人が多く、アメリカでは、一般的にクリスマス商戦の始まりの日。ブラック・フライデーと呼ばれて、このブラックは、店の帳簿が黒字になる事から来ていると言います。

(感謝祭の歴史に関しては、過去の記事をご参照ください。こちら。)

「プレーンズ・トレインズ・アンド・オートモービールズ」(Planes, Trains and Automobiles、邦題は、大災難P.T.A.)は、サンクスギビングのホリデーにむけて、妻子の待つシカゴの家へ必至でたどり着こうとする広告会社に勤めるニール(スティーブ・マーティン)の物語でした。何回か見ている映画ですが、その度に、ギャハハと笑って、最後は、ほのぼの、ほろり。

サンクスギビングの2日前の夕方、ニューヨークからシカゴへたどり着こうとするニールの災は、まずは、空港までのタクシー争奪戦から始まります。苦労してたどり着いた挙句、飛行機が遅れ、更には悪天候のため、飛行機がシカゴに着陸できず、代わりに、はるばるカンザス州ウィチタに着陸。ウィチタで足止めを食ったその夜、ニールは、ニューヨークの空港で知り合ったシャワーカーテンの輪っかを売るセールスマン、デル(ジョン・キャンディ)と、ぼろモーテルで部屋をシェアする羽目になり、2人の珍道中が展開される事となります。

まずは、凍える天気の中、トラックの荷台に乗って最寄の駅へ、やっと電車に乗り込んで、これで大丈夫と思いきや、電車がだだっ広い何もない景色の中で故障。長距離バスの停車場まで歩き、そこから更にミズーリ州セント・ルイスまでバス旅行。そして、セント・ルイスからレンタ・カー。ところが、デルは、運転中、ひょんな事から、反対車線を走り出し事故を起こす上、レンタ・カーをたばこの火で炎上させてしまう。こげこげ車で、たどり着いたモーテルで、再び夜を明かした後、最終の足は、牛乳を配達する大型トラックの冷蔵庫の中でふるえながら。2人は最終的に、シカゴ内の駅で、「ハッピーサンクスギビング」を交わして分かれるのですが・・・。

おしゃべりで、ホテルの部屋も汚しまくるデルをうざったく思っていたニールであったものの、家へ向かう電車の中で、ストレスいっぱい、不満いっぱいだったはずの、道中でのシーンを思い出しながら、デルとの旅が既に懐かしくい思い出となって、顔には微笑が浮かび始める。そして、デルがもらした言葉の端々から、ふと、デルには、感謝祭の休暇中に帰る家が無いのではないか、という事実に気がつき、別れた駅へ取って返し、まだ、ひとりぽつんと駅の待合室に座っていたデルを発見。案の定、良く話題にしていたデルの奥さんは、数年前に亡くなっているとわかり、ニールは、休暇を共に過ごすべく、デルを、自宅へつれて帰るのです。めでたし、めでたし。

私が、一番受けたのは、モーテルで朝を迎えたニールが、顔を洗った後、デルのデカパンで顔を拭いてしまうという子供っぽいギャグと、レンタカーが燃え始める場面・・・でした。

地図を見ると、ニューヨークとシカゴ間の距離と、ウィチタとシカゴ間の距離、あまり変わらない感じなのです。アメリカはでかいですね。イギリスのような小さい国で、電車がキャンセル、遅れなどで、良く知らない駅で足止めを食っても、「やれやれ、どうしてくれよう」と思うのに、こんな、何もないような土地に降ろされたら、途方にくれそうです。

しかも、ウィチタと言い、セントルイスと言い、彼らが旅する土地は、うら寂れて、ガラが悪そうな場所ばかり。比較的、貧しい地域だと言うのもあるのでしょうが。シカゴまで乗せていってくれた、ミルクのトラックの運ちゃんが、2人を冷蔵庫に入れて乗せていく、というのも、運転席の自分の隣のシートに、赤の他人を乗せるのが怖いという理由からのようで、犯罪も多いのかもしれません。

11月にして、風景もかなり寒そうです。こういう場所でホームレスとかになったら、かなりしんどいでしょうね。シャワーカーテンのリングを売るセールスマンなど、景気が悪くなると、ひどい事になりそうですし。ただ、デルは、それは巧妙なセールスマンで、イヤリングとしてシャワーカーテンリングを売って小銭をもうけるシーンなどもありましたから、彼は、不況にも何とか生き延びれるか?架空の人物の行く末を心配しても仕方ないですが。以前、親が仕事を無くして家のローンを払っていけなくなったため、デルとニールが泊まった様なしがないモーテルを仮の住居とする、アメリカの貧しい子供達のドキュメンタリーを見ましたが、料理をする設備も無いこういう場所に住んで、缶詰から直接物を食べている子供達の姿に唖然としました。貧民にはつらい国だな、というのがアメリカの印象です。2人で、最後にニールの大きなお屋敷のような家にたどり着くとき、デルが、「君は運がいい奴だな。」ともらすのも当然。もっとも、同じ規模の家をイギリスで買おうとするよりは、米の方がずっと安いのでしょうが。

主人公二人は、性格の違いもあるものの、ホワイトカラーの仕事と大きな家を持つ二ールと、持ち家も無いデルと、その社会的境遇もかなり違っています。アメリカには、イギリスのような階級制度は無いとは言うものの、やはり裕福な者、比較的貧しい者の嗜好、態度の違いはあるわけでしょうから。

長距離バスも、アメリカでは、貧しい人間の移動方法なので、飛行機でもファースト・クラスに乗りたがるニールには、めったにない体験。バスの中で、乗客皆で声を上げて歌を大合唱するシーンがありましたが、ニールが、映画「愛の泉」(Three Coins in the Fountain)の主題歌を歌いだすと、古すぎるのか、好みが中流すぎるのか、他の乗客みんなどっちらけ。変わって、もっと庶民的なデルがテレビアニメ「原始家族フリントストーン」のテーマをはじめると、これがうけて大合唱となるのです。この長距離バス内での合唱、というのは、実際に、頻繁にあることなのかどうかはともかく、もっと古い映画「或る夜の出来事」の中でも、夜行長距離バスで大合唱のシーンがありました。

11月のアメリカの風景を実感するのにも、サンクスギビングの前に、この映画、まだ見ていない人にはお勧めです。

原題:Planes, Trains and Automobiles
監督:John Hughes
言語:英語
1987年

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