二酸化炭素(CO2)の使用法

 

Water, water, everywhere

But not a drop to drink

水、水はそこらじゅうにあるが

一滴も飲むことはできぬ

これは、イギリスの詩人サミュエル・テイラー・コールリッジによる「老水夫行」(The Rime of the Ancient Mariner)内に出てくる有名な一節。

前回の記事でも言及したように、肥料用に硝酸アンモニウムなどを製造しているアメリカ所有の肥料会社が、エネルギーに使うガスの値段の高騰により、生産を中止したため、イギリスで、その副産物である二酸化炭素の不足が起こっています。エネルギーをあまりにガスに依存しすぎていたため、起こっている弊害。

(ちなみに、この工場でメインとして製造している硝酸アンモニウムって、ベイルートで巨大爆発を引き起こした、あれです。無害なイメージのする畑の肥料でありながら、不適当な長期保存をしておくと、ああいう危険な爆発を引き起こす代物。)

それこそ、海に、水ならたくさんあるけれど、飲むことはできないのと同様、地球温暖化で二酸化炭素はたくさーんあるはずなのに、いろいろな場面で使用できる二酸化炭素が不足しているという事態です。

それでは、産業用の二酸化炭素というのは、 実際どういうところで使われているのか。

 まず、一番最初に頭に上がるのは、ソフトドリンクをはじめとする、炭酸の入った飲み物ですよね。その他には、野菜や果物の移動などの際、腐敗を遅らせるためのパッキングに使用。また、乳製品や他の加工食品の棚持ちを長引かせるためにもつかわれています。肉類に関しては、にわとりや、豚などを、動物福祉にもとづいて、屠畜場で、まず、二酸化炭素で気絶させてから、殺すということをしているそうなのです。

食べ物以外では、医療現場で活躍することも多く、 薬品などの移動の際、また、手術室でも、色々な医療用ガスが使われているそうですが、二酸化炭素はその中でも使用度が高いものだということ。

このほかにも、探せばきっと、もっと色々使われている現場があるのでしょう。 ですから、この肥料会社が製造を止めてしまったことによる、二酸化炭素不足の危機感に対する悲鳴は、色々なビジネスからあがっています。なんでも、イギリスで使用されている二酸化炭素の60%は、この肥料会社により供給されているそうなのです。

このままでは、これからクリスマスにむけて忙しくなる食べ物業界、および、すでに存続の危機に瀕しているとしか思えない現在のイギリス医療(NHS)が、ますます大変なことになる、と政府は、この肥料会社に、援助費を与えて、製造の継続を依頼。

そういえば、この二酸化炭素不足で、屠畜が行われない、または遅れているため、現在、イギリスの豚人口(・・・豚の数)が増えているのだそうで、困った農家が、仕方なく経費を削減するために、泣く泣く、屠畜場に送るには、大きく育ちすぎた豚を、自ら殺しているというシュールな状態になっています。そうやって、農場で殺した豚は、おそらく、食品衛生上の規律などから、食用には用いられず、まるまるのロス。この状況は、二酸化炭素不足のみならず、屠畜場で働く人間、またトラック運転手などの、供給チェーン全体の人出不足も原因となっています。

なんとか、効率よく二酸化炭素だけ大気から抽出する方法って・・・ないものですかね。増えて大変といっても、大気中の1%に満たないガスですから、それのみを取り出すのは至難の業。 巨大な魔法のスポイトで、すいっと二酸化炭素だけ吸い取ることができたらねえ、温暖化も防げて一石二鳥なのに。

日本での産業用二酸化炭素供給は大丈夫ですか? おそらく同じような肥料工場あたりの副産物を使用しているのだと思いますが、主要供給をしているのがどの会社かなどと調べてみるのも、いいかもしれません。

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