イギリスは動物愛護の国?山羊のミルク事件

牛乳より体に良いという話で、うちでは、かなり前から、牛乳から山羊のミルクに切り替えていました。山羊のミルクを生産する主なブランドは、セント・ヘレンズと言う名の、イギリス北部のヨークシャー州にあるブランド。(この事は以前の記事にも書きました。こちら。)セント・ヘレンズのゴート・ミルクは、健康ブームで人気も上がっていたのか、我が家のある小さな町のスーパーでも簡単に手に入る商品でした。

コロナウィルスの影響によるロックダウンが始まってから、週に1回、大手スーパーであるテスコに宅配をしてもらっていますが、セント・ヘレンズの山羊のセミ・スキム・ミルクも毎週欠かさず2カートン購入。ところが、先週から、テスコのオンラインサイトに、「この商品の販売は中止になりました」のメッセージが出て、「なんでだろう」と思いながら、仕方なく、再び牛乳を購入することとなったのですが、この理由が、昨日聞いていたラジオでわかりました。

セント・ヘレンズのロゴは、草を口にくわえて、にこっとしている山羊さん。それは健康で、牧歌的なイメージをかもしだしています。きっと山羊さんたちは、ヨークシャーの草原で、緑の草を食みながら、のびのびと生活して、農家の人たちからきちんと面倒を見てもらっているんだろうな、と思わせるのです。それこそ、アルプスの少女ハイジの世界のような。ところがどっこい・・・・

セント・ヘレンズ・ファームは、ヨークシャーの、いくつかの複数の農場から山羊の乳を供給させて、商品としてのミルクやヨーグルト、チーズを加工製造しているのですが、その中のひとつの農場に、動物愛護活動家の一人が隠しカメラをもって潜入して、内部での山羊の残酷な取り扱いを暴露。

そのビデオを見ると、農場の労働者たちは、山羊を蹴ったり叩いたり、耳でひきずったり、首を絞めつけて拘束したり、ひづめを短く切るのに、手荒く投げ飛ばしたりと、それはひどい扱い。まるで山羊の拷問所。外でのびのび、どころか、ずっと納屋の内部で飼育され、戸外での生活と違い、自然にひずめがすれる事もないため、定期的にひずめを切るという必要があるのだそうで。また、ミルクを出すために、絶えず妊娠出産を繰り返す必要があり、生まれた子やぎを荒々しく親からもぎ取り、柵のむこうに放り投げる様子もビデオに収まっていました。オスの子ヤギは役立たずなので殺されます。手荒な扱いに傷を負って足を引きずる山羊たちも、治療もせずそのまま。ビデオ内では、痛々しい山羊の悲鳴が、絶えず背後に流れて・・・アルプスの少女ハイジの世界どころか!このビデオを見た、テスコを含む大手スーパーは即座に、セント・ヘレンズ・ファームの製品の販売中止に乗り切ったというわけ。

それにしても、幸せそうに笑う山羊さんのイメージとはあまりに違いすぎるこの現実。こんな、いけしゃーしゃーとしたマーケティングに、何年もの間、騙されていた事に頭が来るやら、また、実際、動物をここまでひどい扱いをする人間の品位に絶望するやら。イギリスは動物愛護の国だなどと言われますが、それは色々な類の人間がいますから、そんなのも、個人差で、ぴんからきりまで。もっとも、これだけの大量生産をするのに、一体何頭くらいの山羊を、どうやって飼って乳しぼりをしているのかと、頭をよぎったことはありました。

動物保護法により、イギリスでは、農場の動物も一応は法律上で、痛みや苦しみを与えないように守られているとはいえ、こうして、動物愛護団体や活動家たちが、実際に潜伏レポートに乗り込まないと、陰では何をしているか分からないという状況も、困ったものです。消費者としては、できるだけ、倫理にかなったものを、と思って商品を選ぼうとしても、それを逆手にとって、健康的で動物にやさしいイメージを植え付けて、実はやってることはまるで逆、なんていうの、この山羊ミルク事件だけにかぎらず、色々あるのかもしれません。とりあえず、今回、スーパーの対応は迅速でしたが。新しく買い始めたテスコの牛乳のラベルには、一頭一頭の牛は、きちんとした扱いを受けています、と印刷されていますが、ホントかなあ。ホントだといいなあ。

これからEU市場圏を出ていくイギリスは、アメリカと新しく貿易協定を結ぶ必要がありますが、その結果、今後、アメリカから、現在EU圏では輸入禁止となっている、塩素で洗ったチキンや、ホルモン注射を受けているビーフの輸入が許可される可能性があります。鶏を塩素で洗うということ自体より、「塩素で洗う必要があるような状況で飼育されているチキンを食べたい?」というのがありますね。歩けないくらい太った鶏が納屋の中にぎっちり詰まって育ち、有害なバクテリア類が多く繁殖する不衛生な状態がその背後にあるのかもしれません。

動物保護のレベルが、EU諸国を含む他国に比べ、一応は良好とされるイギリス国内でさえ、今回のような事件が時に起こるのに、アメリカから、そのレベルに満たないものが大量に流れ込んでくるかもしれない、というのに、不安を示す声は多々聞かれます。更に、アメリカ側は、貿易協定を結ぶにあたり、今のところ、こうした肉類に関して、生産国がアメリカであるという事をラベルに明記したくないという雰囲気の様で、消費者は、そうした商品を避けたくても、避けなられない状態になるというのが、心配なところです。でも、商品、製品に、どうどうと自国の名を印刷したくない・・・というのも、考えて見れば、なんだか、寂しい話ではあります。

逆に言えば、イギリス産乳製品、肉類は、動物保護、エコ、その他もろもろで、かなり良い水準を満たしているという評判が定着すると、今後のEU圏から飛び出しての、単独貿易の荒波の中で、売り物になると思うので、本当に、こういう事は無いようにして欲しいところです。機械類に関して言えば、メイド・イン・ジャーマニー、メイド・イン・ジャパンの表記があると、なんとなく安心感を与えるのと同じで。

*山羊の虐待に関する記事は、インデペンダント紙に掲載されています。(英語)

コメント

  1. ショック!イギリスに行くと、必ず自分用に買うお土産の一つが、このセント・へレンズ山羊さんバターでした。コクがあって絶対に日本では無い山羊バターの美味しさに、牧畜国家の底力を見る思いでしたが…。
    『見ぬもの清し』という言葉が日本にはありますが、まさにそれ!? 
    あれだけ美味しいものを造ってくれていたメーカーですから、是非心を入れ替えて、復活して頂きたい!

    返信削除
    返信
    1. ビデオに写っていた労働者は解雇され、セント・ヘレンズは、問題のあった農場とは縁を切ったと宣言し、事をすませた感じです。でも、こういう事実を知らなかったわけはないですよ。スーパーの棚に商品が戻っても、徹底的な調査を第3者が行うまで、このブランドには手を出したくないです。

      delamereという、やはり山羊のミルク製品の会社があり、このミルクも買ったことがあります。こちらのサイトには、山羊のウェルフェアには最善を尽くしているような事を書いてます。誇張して書かれている可能性もあるかもしれませんが。飼育は、こちらも内部で、一般商品化のためのミルク用の山羊を、草原でのびのび飼うというのは無いようです。この会社もバター売ってますよ。代わりのお土産にになるカモ。

      削除

コメントを投稿