スコンかスコーンか

イギリスのティールームなどで、クリームティー(cream tea)なるものを注文すると、紅茶と共に、スコーン(scone)というお菓子がついて出てきます。スコーンは、円形で、普通のケーキよりどしっと重い質感。時に、干しブドウなどのドライフルーツを入れて焼いてある場合もあり。食べ方としては、これを半分に切って、中に、クロッテドクリーム(clotted cream)、ジャムなどをぬって食します。おいしいですが、カロリーたっぷりでしょうから、1回に食べるのはひとつでいいかな・・・という感じ。いつか、ラベンダーの花畑を訪れた際に、そこのティールームでクリームティーをし、ラベンダー入りのスコーンを食べましたが、あれは、風味が良く、結構いけました。

ちなみに、クロッテドクリームとは、生クリームより、脂肪含有量が60パーセントと高く、やわらかな固形で、生クリームのように流れ出るタイプのものではありません。バターと生クリームの中間のような感じですね。いちごなどに、トロッとかけて食べる、イギリスの流動体の生クリームには、シングルとダブルと呼ばれるものがあり、シングルの脂肪含有量は20%、ダブルは48%。牛乳の搾りたてをそのままにしておくと、水より軽いクリームは、上部に浮かび上がります。このため、まだ、ほとんどの家庭が、ミルクマンに牛乳の配達を頼んでいた時代には、玄関口に置かれた牛乳瓶に、アオガラというかわいい小鳥がとまり、薄いアルミのふたを、くちばしでやぶって、瓶口に凝結したクリームを食べる・・・という光景もあったわけです。生クリームと異なり、クロッテドクリームは、牛乳から隔離したクリームを82度ほどで熱し、生クリームより、もちがいいそうです。色が黄色を帯びているのは、ベータカロチンを含むため。クロッテドクリームは、伝統的にイングランド南西部のデヴォン州、コーンウォール州で生産されるものが有名で、紅茶とスコーン、クロッテドクリーム、ジャムが出てくるクリームティーも、元来はこの地域で始まったもの。現在では、わざわざデヴォンまで行かずとも、イギリス国内、ほぼどこでもクリームティーを出すティールームはたくさんあります。

さて、クロッテドクリームから、今回の主なる話題のスコーンに話を戻し・・・甘いお菓子風のスコーンの他に、ハーブを入れたりチーズを入れて焼いた、少々塩味のものなどもあります。こちらは、さすがにジャム、クロッテドクリームはのせずに、そのままパクリ。

私は、いつもこれはスコーンと発音すると思っていたのですが、先日読んだ新聞記事によると、「スコン」と発音するイギリス人も多いのだそうです。そして、大体において、スコンと発音するのは、スコットランド、イングランド北部、北アイルランド出身の人間に多いと。そこでイングランド北部ヨークシャー出身のだんなに、Sconeは、「スコーンと発音するか、スコンと言うか?」と聞くと、「スコン!」という返事。なるほど、当たってる。

この話が話題になったのは、なんでもケンブリッジ大学が「Scone地図」なるものを発表したため。これは、どの地方で、「スコン」と発音するかと、色分けしたイギリス地図です。オレンジ色の部分が「スコン」と発音する地域で、この色が、黄色、緑、青となるにつれ、「スコン」派の割合が減るという事。確かに、北の方はオレンジが強く、ロンドン周辺と、イングランドの真ん中あたりが、青っぽく、「スコーン」派が主流。こんなものも研究の対象になるんですね、ふーむ。ちなみに、外人の私は、これはずっとスコーンだと思っていました。だって、円錐を意味する「Cone」という言葉の発音からして、コンではなくコーンなので。

さらに、スコットランドの地名に同じスペルの「Scone」という場所がありますが、こちらは、ややこしいことに、スコンでもスコーンでもなく、「スクーン」と発音されます。スコットランドの王様たちは、かつて、このスクーンにあった「運命の石 Stone of Destiny」の上で戴冠式を行っていましたが、これは、また、スクーンの石(Stone of Scone)とも呼ばれ。

観光客として、イギリスのティールームに入って、これを注文したいときは、「スクーンください。」などとさえ言わなければ、「スコン」でも「スコーン」でも特に問題はなく通じる事と思います。私は、やっぱり、慣れもあるので「スコーン」と呼び続けるでしょうが。

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