グレシャムの法則

トーマス・グレシャム 前回の ロイヤル・エクスチェンジ (王立取引所)の記事で、16世紀の商人で、エリザベス女王の財政アドバイザーでもあったトーマス・グレシャムのグレシャムの法則(Gresham's Law)に触れたので、本日は、このグレシャムの法則について書くことにします。 グレシャムの法則とは Bad money drives out good. 「悪貨は良貨を駆逐する」 もともと「グレシャムの法則」なる言葉を初めて使ったのは、19世紀のイギリスの経済学者ヘンリー・マクロードで、グレシャム以外にも、またそれ以前にも、この原理に気付いていた人間はいたでしょうから、グレシャムが初めて考え出したというわけではないようです。ただ、ヴィクトリア朝には、焼け落ちたロイヤル・エクスチェンジの再建などもあり、最初のロイヤル・エクスチェンジを建てたトーマス・グレシャムの人物像、そして彼が何をしたかという事も再発見され、新たに注目を集めていたという事実が、この法則にグレシャムの名が付いた理由のひとつのようです。 この法則の前提としてあるのは、グレシャムの時代、貨幣は、金や銀など、それ自体に価値がある貴金属であったこと。 エリザベス女王のお父さんのヘンリー8世は、 修道院解散 などで、裕福な修道院の土地や所有物を没収することで多額をせしめたものの、贅沢三昧と戦争資金のため、それでも金欠で、更なる金儲けの方法をあれこれ試案。そんなこんなで、1542年、ヘンリーは、密かに、金と銀の含有量を減らした金貨と銅貨(悪貨)を製造させるに至り、それをその後の2年間、貯蔵。同時期に、今まで通りの、金貨銀貨(良貨)も通常道理製造され続け。やがて、この貯蔵されていた悪貨が、1544年5月に流通開始。この大掛かりな、ヘンリー8世の悪貨製造は、「The Great Debasement」として知られています。なんでも、含有量を大幅に減らした銀貨に至っては、銀の代わりに銅が多く使用され、銅貨に薄い銀が張り付けてあるような状態にあったようです。そして、そんな質の悪い銀貨にに打ち込まれていたヘンリー8世の肖像の、盛り上がった鼻の部分から、すぐに銀が剥がれ落ちてしまい、下に隠されていた銅が出現したため、ヘンリー8世は、「Old Copper Nose」(銅鼻じいさん)という情け...