しとしとぴっちゃん異文化考察
少し前の話となりますが、日本人の友人が、大五郎風の可愛い顔で、超短い髪形をした子供をのせた、巨大乳母車を押している女性を見て、こう言いました。「あの人、しとしとぴっちゃんみたい。」イメージがどんぴしゃだったので、これには、私は大笑い。笑いながら、ふと思ったのが、ここに、日本語の喋れるイギリス人がいたら、このジョークを聞いて、一緒に笑うことができるかな・・・ということ。もし、できたら、その人の日本語、いや、言語だけでなく、日本の社会文化理解度の深さはかなりの上級レベルです。
異国の言葉を習うとき、読み書き文法、スピーキング、ヒヤリングもばっちりできるようになって、それで、何でも、その国の人間が言っている事がわかるようになるか、会話についていけるか・・・というと、そう簡単にはいかないもの。その国独自の歴史背景、政治社会事情はもちろん、ディケンズなど、よく話に引用される文学作品を多少心得ていることは、大切。かてて加えて、映画、そしてテレビなどのポップ・カルチャーも、有名なものはある程度知っていないと、人の言っている事が完全に把握できない、というケースは多々あります。アメリカ映画などを見ていて、時に、だんなが、「なんか、この意味よくわからんな。アメリカ独特の表現かな。」などと私に言うことがありますから、同じ英語圏でも、社会文化を共有していないと、こういう状況が出てくるのです。「子連れ狼」を見たことも聞いたこともない人には、「しとしとぴっちゃん」が何なのか皆目見当がつかないのと同じ。
この「しとしとぴっちゃん事件」があった直後に、スターバックスの店での新しいカスタマーサービスの話が、ラジオから流れてきたのを聞いていました。スターバックスのカウンターでは、フレンドリーにするために、客の名前を聞く・・・という事を始めたという内容のものでした。私は、スタバにはほとんど入らないので、今もそんな事をしているのかはわかりませんが、イギリス人の中には、コーヒーを買うだけなのに、なんで名を聞いたりするんだ、馬鹿げていると、嫌がる人も多かったようで、名前を聞かれて、反抗して言わなかったり、「ダース・ベイダー」などとふざけて答える人もいたそうです。そして、そのラジオの報道によると、ある人が、スタバのカウンターの列に並んで待っているとき、自分の2人前の人物が名前を聞かれたのが耳に入り、その人に向かって、
「Don't tell him, Pike !」
言っちゃだめだぞ、パイク!
と大声で言ったのだそうです。これには、スタバ内にいた客たちが、一斉に大笑いしたと。
このジョークが笑えるようになるには、イギリスの古いテレビ・コメディー「Dad's Army、ダッズ・アーミー」(直訳は、父ちゃん軍隊)を見ていなければわからない。何度も何度も再放送をしているので、若い世代でも知っている番組です。わりと最近、キャサリン・ゼタ・ジョーンズが花をつけてゲスト出演し、別のキャストで映画化もされていました。
第2次世界大戦中の話で、ダッズ・アーミーとは、ナチス・ドイツの侵略に備えるための、イギリスのホーム・ガード(自衛軍)の愛称。大体がヨーロッパの戦地に乗り込むには年を取りすぎているおじさんたちがメンバーなので、「父ちゃん軍隊」として知られることとなります。彼らのずっこけぶりを描いたコメディーで、1960年代終わりから70年代にかけての放映。「Don't tell him, Pike !」は、このテレビシリーズの中で、一番有名なセリフ。捕虜として捕らわれたドイツ人が、小さなメモ帳を開いて、ダッズ・アーミーのメンバーに「ドイツが戦争に勝った暁には、お前たちを処分してくれる。だからお前たちの名をリストにしてメモっておく。名を言え!」と聞いていく。若いメンバーのパイクがこうして名を聞かれたとき、ダッズ・アーミーのキャプテンは
「言っちゃだめだぞ、パイク!」
と叫び、ドイツの捕虜は、「ああ、パイクね。」と名前をメモ帳につづる・・・というおち。スタバに居合わせた客たちは、ほぼ全員、このセリフを知っていて、皆で大笑い、和気あいあいとなったのでしょう。
また、この後、今度は、あるテレビ番組で、大きなかつての貴族の屋敷でのシャンデリアの掃除の様子を見せていた時のこと。プレゼンターが、「こんなのを見ていると、デルボーイのシャンデリア場面を思い出してしまいますね。」と言ったのです。これも、見ている側が、デルボーイのシャンデリア場面とは何なのかを知っている・・・というのを前提とした話しぶり。そして、確かに、大体のイギリス人が知っているのです。
デルボーイ(Del Boy)は、1980年代のテレビの人気コメディー「オンリー・フールズ・アンド・ホーシズ、Only Fools and Horses」(直訳は、馬鹿と馬だけ)の主人公で、口八丁の何でも屋。問題のシャンデリアの巻で、デルボーイは、知り合いになった上流階級の男性に、シャンデリアの専門家だと嘘をつき、弟ロドニーと、祖父と共に、館に、シャンデリアの掃除にやって来る。天井の裏からシャンデリアを外す役は、祖父、デルボーイとロドニーは、はしごにのり、その下に布を広げ、シャンデリアを受け止める準備。ところが、祖父が外していたのは、別のシャンデリアで、背後で、その別のものがどしゃーんと床に落ち、ばらばらに砕け散ってしまい、3人は大慌てで逃げ出す・・・という内容。
日本の「子連れ狼」に始まり、往年のテレビ番組の話ばかりとなりましたが、昔の人気テレビシリーズは、今のようにインターネットなどが発達していなかった当時、家族みんなで一緒に見て、話題にする、共同経験。そういう意味で、幅広く、人々の記憶に残り、文化背景の一部として、浸透しています。ですから、ふとした場面で、ぽろりと、人の口から出てくる。幼少青春期を他国ですごして、移民してきた外人には、こうした共通の文化背景が抜けているわけですから、言語としての英語をマスターしたら、今度は、アメリカ、イギリス、カナダ、その他もろもろの英語圏の国での、それぞれの社会文化にアンテナを広げるのも、すべてを理解したいと思うと必要となってくるものです。そんな事知らなくてって、意思の疎通ができればいい、生きていける、と言ってしまえばそれまでですが、知っていると楽しいことも多いです。
異国の言葉を習うとき、読み書き文法、スピーキング、ヒヤリングもばっちりできるようになって、それで、何でも、その国の人間が言っている事がわかるようになるか、会話についていけるか・・・というと、そう簡単にはいかないもの。その国独自の歴史背景、政治社会事情はもちろん、ディケンズなど、よく話に引用される文学作品を多少心得ていることは、大切。かてて加えて、映画、そしてテレビなどのポップ・カルチャーも、有名なものはある程度知っていないと、人の言っている事が完全に把握できない、というケースは多々あります。アメリカ映画などを見ていて、時に、だんなが、「なんか、この意味よくわからんな。アメリカ独特の表現かな。」などと私に言うことがありますから、同じ英語圏でも、社会文化を共有していないと、こういう状況が出てくるのです。「子連れ狼」を見たことも聞いたこともない人には、「しとしとぴっちゃん」が何なのか皆目見当がつかないのと同じ。
この「しとしとぴっちゃん事件」があった直後に、スターバックスの店での新しいカスタマーサービスの話が、ラジオから流れてきたのを聞いていました。スターバックスのカウンターでは、フレンドリーにするために、客の名前を聞く・・・という事を始めたという内容のものでした。私は、スタバにはほとんど入らないので、今もそんな事をしているのかはわかりませんが、イギリス人の中には、コーヒーを買うだけなのに、なんで名を聞いたりするんだ、馬鹿げていると、嫌がる人も多かったようで、名前を聞かれて、反抗して言わなかったり、「ダース・ベイダー」などとふざけて答える人もいたそうです。そして、そのラジオの報道によると、ある人が、スタバのカウンターの列に並んで待っているとき、自分の2人前の人物が名前を聞かれたのが耳に入り、その人に向かって、
「Don't tell him, Pike !」
言っちゃだめだぞ、パイク!
と大声で言ったのだそうです。これには、スタバ内にいた客たちが、一斉に大笑いしたと。
「お前の名はなんだ?」 「言っちゃだめだぞ、パイク!」 |
第2次世界大戦中の話で、ダッズ・アーミーとは、ナチス・ドイツの侵略に備えるための、イギリスのホーム・ガード(自衛軍)の愛称。大体がヨーロッパの戦地に乗り込むには年を取りすぎているおじさんたちがメンバーなので、「父ちゃん軍隊」として知られることとなります。彼らのずっこけぶりを描いたコメディーで、1960年代終わりから70年代にかけての放映。「Don't tell him, Pike !」は、このテレビシリーズの中で、一番有名なセリフ。捕虜として捕らわれたドイツ人が、小さなメモ帳を開いて、ダッズ・アーミーのメンバーに「ドイツが戦争に勝った暁には、お前たちを処分してくれる。だからお前たちの名をリストにしてメモっておく。名を言え!」と聞いていく。若いメンバーのパイクがこうして名を聞かれたとき、ダッズ・アーミーのキャプテンは
「言っちゃだめだぞ、パイク!」
と叫び、ドイツの捕虜は、「ああ、パイクね。」と名前をメモ帳につづる・・・というおち。スタバに居合わせた客たちは、ほぼ全員、このセリフを知っていて、皆で大笑い、和気あいあいとなったのでしょう。
また、この後、今度は、あるテレビ番組で、大きなかつての貴族の屋敷でのシャンデリアの掃除の様子を見せていた時のこと。プレゼンターが、「こんなのを見ていると、デルボーイのシャンデリア場面を思い出してしまいますね。」と言ったのです。これも、見ている側が、デルボーイのシャンデリア場面とは何なのかを知っている・・・というのを前提とした話しぶり。そして、確かに、大体のイギリス人が知っているのです。
デルボーイ(Del Boy)は、1980年代のテレビの人気コメディー「オンリー・フールズ・アンド・ホーシズ、Only Fools and Horses」(直訳は、馬鹿と馬だけ)の主人公で、口八丁の何でも屋。問題のシャンデリアの巻で、デルボーイは、知り合いになった上流階級の男性に、シャンデリアの専門家だと嘘をつき、弟ロドニーと、祖父と共に、館に、シャンデリアの掃除にやって来る。天井の裏からシャンデリアを外す役は、祖父、デルボーイとロドニーは、はしごにのり、その下に布を広げ、シャンデリアを受け止める準備。ところが、祖父が外していたのは、別のシャンデリアで、背後で、その別のものがどしゃーんと床に落ち、ばらばらに砕け散ってしまい、3人は大慌てで逃げ出す・・・という内容。
日本の「子連れ狼」に始まり、往年のテレビ番組の話ばかりとなりましたが、昔の人気テレビシリーズは、今のようにインターネットなどが発達していなかった当時、家族みんなで一緒に見て、話題にする、共同経験。そういう意味で、幅広く、人々の記憶に残り、文化背景の一部として、浸透しています。ですから、ふとした場面で、ぽろりと、人の口から出てくる。幼少青春期を他国ですごして、移民してきた外人には、こうした共通の文化背景が抜けているわけですから、言語としての英語をマスターしたら、今度は、アメリカ、イギリス、カナダ、その他もろもろの英語圏の国での、それぞれの社会文化にアンテナを広げるのも、すべてを理解したいと思うと必要となってくるものです。そんな事知らなくてって、意思の疎通ができればいい、生きていける、と言ってしまえばそれまでですが、知っていると楽しいことも多いです。
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