大草原の小さな町 Little Town on the Prairie

ローラ・インガルス・ワイルダー著「インガルス家の物語」シリーズの、「長い冬」(Long Winter)に続く作品が、「大草原の小さな町」(Little Town on the Prairie)。

長い冬l」で、寒さと飢餓を耐え忍んだ後の夏、インガルス一家は、自分たちのホームステッドにて、再び、土地を耕しながら、のびのびと生活を始めます。(ホームステッドについて詳しくは、以前の記事まで。こちら。)町に住む開拓者家族たちは、大体において、このホームステッドを持っており、法律により、登録したホームステッドを、実際に、自分のものとして手に入れるには、5年間、1年最低6ヶ月は、その地に住み、土地を農業用に耕す必要があったため、夏は、其々のホームステッドへ移り、畑仕事ができない冬の間のみ、町で過ごす、という家庭が多かったようです。子供たちなどもホームステッドへ移り、時に、家族と共に働くことも多かったためか、学校も、夏は行われず、農耕の時期が終わった季節に開くのが主であった感じです。

インガルス家のお父さんは、農場で自分の穀物や野菜を育てる傍ら、町まで出向き、大工の仕事も手伝い、金を稼ぎます。東部から移住者がどんどんと増えてくるため、家の建設の需要も大きくなってきているわけですから。また、独身の男性もたくさん、移住してきているため、自分の洋服を作ってくれる奥さんがおらず、町内では、すでに作ってあるシャツの需要も増えていき、夏の間、ローラも、そうした、新しく来たばかりの、独身男性用のシャツを作り販売する店で、朝から晩まで縫い物のアルバイトを開始。稼いだお金は、すべて、病気で視力を失っていた姉メアリーを、盲目の子女用の寄宿舎学校へ行かせる為の資金にと、両親に手渡すのです。

家族の努力のかいあって、秋には、メアリーは、アイオワの盲目学校へ行くため、家を去っていく。この時代の西部に、すでに、盲目の子供を考慮した教育施設があったのも驚きですが、この盲目学校のカリキュラムも、政治経済、高等数学、文学、縫い物、編み物、ビーズ細工、音楽と、かなり充実しているのです。教育期間も7年間と本格的。

冬が来る前に、家族は、農場の収穫を済ませ、再び、町で冬越しをするのですが、この冬は、さほど厳しいものとはならず、ローラも、妹のキャリーも、冬の間、無事、学校へ通います。生徒たちほぼ全員と仲良しであるものの、学校には、ミネソタのプラム・クリークにいた頃、同じ学校に通った、意地悪少女ネリーが再び登場。プラム・クリーク時代は、雑貨屋の娘で金持ちだったのが、家計が少々落ちぶれ、新しくこの周辺にホームステッドを得、東部に住む親戚に助けられながら生活しているというものの。ネリーの高すぎるプライドと、意地悪さは、変わらずで、学校で、新教師として着任した、後のローラの夫君アルマンゾ・ワイルダーの、お姉さんエリザ・ジェーンに、ローラの悪口を吹き込み、ローラと妹キャリーは、クラスで何かにつけエリザ・ジェーンの目の敵にされてしまうのです。最終的に、生徒たちに不人気だったエリザ・ジェーンは、ローラに同情的だった他のクラスメートたちの反抗的態度を抑えられずに、この学校で教えるのは一期でおしまい。

大きくなっていく町で、あまり戸外に出れない冬季に、町民たちの間では、色々、会合や催しも増え、文学の集いなども生まれ、ローラもバースデーパーティーに招かれたり、家族で必ず文学の集いに参加したりと、社交的には、充実した冬となるのです。この文学の集いでは、単語のスペルを競うゲーム(これは、ローラのお父さんが勝利)、コンサート、ダンスの披露など、盛りだくさん。

次の年も、同じように過ぎていくのですが、この冬には、学校での生徒たちの発表会があり、優等生のローラは、コロンブスによる新大陸の発見から始まる、アメリカの歴史の前半を、町民たちの前で、講義するする事になるのです。これが大成功を収め、それを見ていた町から12マイル離れた場所にある、新しい小さい集落の住人から、住み込みで、集落の学校の先生になって、一期教えてくれるようにと頼まれる。教師の資格を取れるのは、16歳から、という事になっているものの、16歳にまだ、ちょっと足りないローラ。ですが、何せ、開拓されつつある土地の事、事務関係や規則は、いささかあいまいで、検査官は、多少の年の低さには目をつぶり、ローラは即効で資格を得て、その週末に、いきなり、学校のある場所へと旅立つこととなり、そこで、この本は終わり、次作へと続くこととなります。家から、初めて離れるのが、不安であるものの、お給料は悪くなく、メアリーが盲目学校で教育を受け続ける手助けになる、という事で。

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赤毛のアンなどもそうでしたが、多少お勉強のできる女の子たちが、学校である程度の教育を受けてすぐやる事は、資格を取って、先生となる、というのは多かったのでしょう。そして、お婿さんを見つけるまで先生として働く。ローラのお母さんもかつては、先生だったという事になっていますが、実際、ローラがお母さんに、学校で何期教えたのか、と聞くと、実は、たったの一期だけ。理由は、お父さんと出会い結婚したから・・・というものでした。

「大草原の」小さな町」で、社会現象として面白かったのは、女の子たちの間で人気となったオートグラフ・アルバム Autograph Album(サイン帳)。友達にたのんで、記念として、自分へのメッセージと、サインをしてもらうためのノートです。小学校でクラス替えがある度に、私たちも、クラス内で、こんなサイン帳を回しあったりした記憶があります。が、実際、そのサイン帳は、どこへいってしまったのか・・・覚えていないのです、これが!今から思うと、ちょっと残念です。記憶から消え去ってしまっているクラスメートなどもいますから。

ローラの学校で、サイン帳の後に、人気となるのが、ネーム・カード Name Card。名刺の様なものですが、町の店で、好きなデザインのものを選び、それに自分の名前を印刷してもらい、友達や新しい知り合いに配る、というもの。

また、こんな、開拓者生活でも、女性は、ファッションの流行には気を使い、スカートに、ボリュームをつけて膨らませるため、スカートの下に着用するフープ(hoop)が流行ると、皆、一斉に、フープを購入し身につけるのです。おそらく、それに合わせて、ドレスの丈も少々長く作る必要も出てくるし、全くもって、実用性に欠けるという事実は、さておき。ローラのお母さんのような、実直な女性も、フープが流行ってきたから、フープを身に着けなきゃ・・・と、即効で流れに乗るのが不思議でした。男性の様にズボンをはけば、戸外での仕事は楽になるぞ、という考えは、まだまだ頭を過ぎりもしなかったのでしょう。それに、一人前の女性になった段階で、身に着けなければならないのがコルセット。これも、始終、胴体を圧迫されて大変だったことでしょう。想像するだに、息苦しくなります。前髪をたらす、というのも流行ってきて、ローラは、お母さんに、「気違い前髪 lunatic fringe」とからかわれながらも、自分で前髪を切って、お出かけ前に、ひとつづつ、くりくりカールするのです。

ローラは、クリスマスプレゼントに、両親から、同時代イギリスの桂冠詩人アルフレッド・テニスン(Alfred Tennyson)の詩集をもらうのですが、このテニスンという人、当時、イギリスのみならず、英語圏で、かなり人気を博した詩人だったのでしょう。やはり、赤毛のアンも、テニスンを学校で勉強して気に入っていました。

夏の間、ホームステッドで、ねずみに悩まされた家族は、子猫を購入。まだ、当時は、サウス・ダコタには、猫がいなかったとかで、この子猫も、フロンティアの開拓キャットです。猫は即座に、見事なねずみハンターの能力を見せるのですが、猫がやって来る前のねずみたちの大胆さは、かなりのものがありました。おとうさんが眠っている間に、お父さんの頭から、髪の毛を一束、ごそっと抜き取り、巣の素材に使おうとする・・・というくだりが、可笑しいやら、恐ろしいやら。お父さんは、結果、一時的に、10円はげができてしまい、それで、猫の購入を決心するわけですが。

また、収穫前のとうもろこし畑に、一斉にブラックバードが舞い降りて、大変な勢いでとうもろこしを食い散らしていき、とうもろこしを必死で集めようとするローラにも襲い掛かるという描写も、ちょっと、ダフネ・デュ・モーリアの小説「」のようで、怖かったですね。ここで言う、ブラックバードとは、イギリスのブラックバードと同じ種なのか?イギリスのブラックバードが、とうもろこしを食べるという話を聞いたことはないし、ブラックバードが人間に攻撃的になるのも見たことないです。いずれにせよ、お父さんは、何羽かブラックバードを撃ち落し、お母さんは、それで、ブラックバードのパイを作る。イギリスでも、昔は、ブラックバードの様な歌鳥も、確かにパイに入れて食べていたようです。お母さんは、焼きたてのブラックバードのパイをテーブルに出しながら、

Sing a song of sixpence
6ペンスの歌を歌おう

と、イギリスの古いナーサリーライムを歌いだすのです。子供たちも、それに合わせて、一緒に、続きを歌うのですが、ついでに、このナーサリーライムを載せて、訳しておきます。

Sing a song of sixpence
A pocket full of rye,
Four and twenty blackbirds,
Baked in a pie!
When the pie was opened
The birds began to sing.
Was not that a dainty dish
To set before the king?

6ペンスの歌を歌おう
ポケットいっぱいのライ麦
焼いたパイの中の
24羽のブラックバード
パイを切ってあけたとき
鳥たちは歌い始めた
なんと素敵な料理だろう
王様の前にも出せるような

物語の後半から、ローラを気に入った、若いホームステッダーの、アルマンゾ・ワイルダーが、教会などの外出先から、ローラをエスコートして、家の戸口まで歩いて送る、という事をはじめます。二人の関係の発展と、ローラの先生としての奮闘振りは、次の作品「この楽しき日々」(These Happy Golden Years)へと続きます。

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