ウォルター・ローリーの少年時代

上の絵は、ロンドンのテート・ブリテン美術館蔵、ジョン・エヴァレット・ミレー(John Everett Millais)により1870年に描かれた、「The Boyhood of Raleigh」(ウォルター・ローリーの少年時代)。これは、私の両親が持っていた西洋の画集に大きく載っていた一枚でもあり、私にはとても懐かしい絵でもあります。はじめて、テート美術館でこれを見た時には、「おお、こんなところにいたのか、あんたは!」と旧友に遭遇したようなご対面。感激しました。

ウォルター・ローリー(Walter Raleigh)は、エリザベス1世のお気に入りの探検家として御馴染み。やはりエリザベス女王の海の犬として、7つの海を大暴れしたフランシス・ドレイクと同じく、イングランド南西部のデヴォン州出身。

絵は、少年ウォルター・ローリーが、兄と共に、デヴォンの海岸で、日に焼けたジェノヴァの船乗りから、スペインの新大陸植民地での冒険の話を、食い入るように聞いている様子を描いたものです。左手前方にあるおもちゃの船が、後のローリー自身の冒険を暗示しています。これを描くに当たって、ミレーは、自分の2人の息子をローリーとその兄のモデルにし、船乗りには、プロのモデルを使用。

ローリーは、同郷人フランシス・ドレイクとも、早くから交友があったようで、年上のドレイクからも、冒険談を色々聞かされ、デヴォン海岸線を小さな船で行ったりきたりしながら、「いつの日か自分も」と夢を見たのでしょう。実際、デヴォンをはじめ、イングランドの南西部(West Country、ウェスト・カントリー)出身の船乗りというのは、多かったようで、海賊もこの周辺の出身多数などと言われます。そのためか、映画に登場する海賊なども、時に、ウェスト・カントリー訛りで喋ったりするのです。冒険小説「宝島」のイギリスでの舞台も、イングランド南西部でした。

この絵の他に、過去、当ブログで触れた他のジョン・エヴァレット・ミレーの作品は、下まで。

ユグノー(The Hugenot)
塔の中の王子達(The Princes in the Tower)
シャボン玉(Bubbles)
秋の葉(Autumn Leaves)

わりとありますね、私、ミレー好きなので・・・。

さて、ついでに、テート・ブリテン(上の写真)について、少々触れておきます。

ロンドンにはテートと呼ばれる美術館は2つ。ひとつは、このジョン・エヴァレット・ミレーはじめ、イギリスのラファエル前派や、ターナーの絵など、イギリス絵画が勢ぞろいしている、テート・ブリテン(Tate Britain)。もうひとつは、現代画や実験的アートを展示するテート・モダン(Tate Modern)。キャンバスの上に真っ黒の四角がひとつ描かれたものを「おお!」と崇めたり、ぐちゃぐちゃのベッドを展示し、その意味の深さを吟味するような現代芸術が嫌いな、頭の古い私は、テート・ブリテンの方が、足を運ぶ事も多く、ずっとしっくりきます。

昨日の投稿で、美術館内でのカメラ撮影について書いたばかりですが、観光シーズンも去った後の静かなテート・ブリテン内で、特に他人をイラつかせる事も無く、さくさくっと写真を撮ったことがあります。

この時は、ウォルター・ローリーの少年時代の絵の前にも立つ人はおらず。

ミレーのおそらく最も有名な絵、川で溺れ、流されていく「オフェリア」(Ophelia)も、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの「レーディーオブシャロット」(The Lady of Shalott)も、バーン・ジョーンズも、このテイト・ブリテンで遭遇できます。

ジョン・コンスタブルが、ロンドンへ移る前に、なつかしの故郷へのさよならをこめて描いた「フラットフォードの水車小屋」(Flatford Mill)も、テート・ブリテンの壁にかかっています。大好きなコンスタブル・カントリーは先日も訪れたばかりで、この絵のままの風景の中を歩いてきました。

上の綺麗な絵は、ジョン・シンガー・サージェントの「カーネーション、リリー、リリー、ローズ」(Carnation, Lilly,Lilly, Rose)。

絵の前でセルフィーを取るより、絵に見入っている人や、模写をしている人などが入った写真を撮る方が面白いですね。それこそ、その方が、絵になります。

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