マルドン・シーソルト
マルドン・シーソルトという塩の名を最近良く見聞きするようになりました。有名シェフなども愛用しているということから、知名度が上がり、人気上昇のようです。サンドイッチ屋に入れば、レジの前に並んでいたポテトチップスの袋のひとつに、「マルドン・シーソルトで味付けした塩味」などとわざわざ書いてあるものがあるかと思えば、新聞のレシピを読んでいる時、材料のひとつに、マルドン塩などと、ただの塩ではなく、マルドンのものを指定していたり。マルドンの塩は、グルメに言わせると、他の塩に比べて、しょっぱさの他にかすかな甘味があるのがいいのだそうです。
マルドン(Maldon、英語の発音はどちらかというと「モルドン」に近いものがあります)は、エセックス州ブラックウォーター川の河口の町。エセックス州の海岸線では、塩の生産は2000年以上も前から行われていたそうです。
身体に必要であるというのみでなく、冷蔵庫の無い時代、塩は、食物の貯蔵のために大量に必要であったため、塩作りは大切な産業。イギリス内では比較的雨量の少ないマルドンを含むエセックス海岸線の土地は、河口の水に含まれる塩分が高く、シーソルト生産には適していたと言います。よって、潮の満ち引きを利用しての塩田は、マルドン周辺には、昔から多くあり、1086年のドゥームズデー・ブックによると、周辺に45の塩田が存在したと記載されているといいます。
ただし、塩田で、塩の結晶のみが残るまで自然乾燥できるような気候の国ではないので、最終的には、塩田から汲み取った濃厚な塩水を陶器に入れて熱するという作業が行われ、この火を焚いて塩生産を行っていた場所は、焼けた粘土の蓄積により、こんもりとした赤土層となり、レッド・ヒルと称されて、今も、昔の塩産業の名残として点在しています。塩がほど好い結晶体を作るためには、最適な火加減を維持する事が大切で、ただ火で乾かす、と言っても、なかなか微妙なわざを要したようです。
エセックスのシーソルト産業が徐々に死滅した原因としては、1800年代初め、それでなくとも、すでに高かった、塩にかけられる税金が跳ね上がったこと、また、チェシャーで効率の良い、岩塩採掘が始まったことがあげられています。現在、エセックスに存在する唯一のシーソルト生産会社が、このマルドン・クリスタル・ソルト・カンパニー。
マルドン・クリスタル・ソルト・カンパニーは、1882年創立の小規模ファミリー・ビジネス。マルドンの塩のそれぞれの結晶は、独特のピラミッド型をしており、上から見たピラミッドが会社のロゴとして使用されています。いまだ昔ながらの生産法を用い、手作業なども多いため、時に生産が需要におっつかないこともあるそうです。日本でも購入可能。小さなファミリービジネスでありながら、世界各地に商品出荷・・・というと近郊のチップトリーのウィルキン&サンズ社と似た感じです。双方、イギリス王室のご用達ですし。
さて、そのお味はいかに。塩の味見をするときには、なんでも、舌の先っぽを使ってちろっと舐めるのはバツで、舌の両側か奥の方の味覚を使うのが正当なのだそうです。さほどのグルメでない私の鈍い舌には、両側でも、奥の方でも、真ん中でも、シェフの言う甘味やら旨みやらは、さほどはっきり判別できません。ただ、さらさらの塩より結晶体の塩を使うほうが、ちょっと高級で美味そうな「気」がする・・・というのはあります。マルドンシーソルトには、スモーク(燻製)されたものもあり、こちらの風味はさすがに私にもわかります。イングリッシュ・オークを使用して燻製された、この塩はブラウンシュガーのようなうっすらした茶色をしています。上の写真の茶色の箱のものがそれです。
ただ単に塩、またはテーブルソルトとして売られているものに比べ、シーソルトやロックソルトと銘打って販売されているものは、マルドンのものでなくとも、値段がかなりはねあがります。以前、テレビで、それだけ違う値段を出して、シーソルトやロックソルトを買う価値があるのか、というのを調査していました。それによると、シーソルトやロックソルトは、ミネラルを含むといううたい文句で売られることがあるが、その含有量は取るに足りないものだそうです。また、味がいい、というのも、料理学校の生徒たち何人かに、普通のテーブルソルト、シーソルト、ロックソルトの目隠し味見をさせたところ、どれが一番味がいいかと聞かれて選んだものは、皆まちまち。結論としては、シーソルトでもロックソルトでも、普通の塩でも、ほとんど変わりはない・・・というものでした。ただし、マルドン・シーソルトは、この実験で使われてはいなかったようなので、「これだけは、味が絶対違う!」と意見する人もいるかもしれません。
また、塩の結晶は、ソルト・ミルを使える・・・ソルトミルでこりこりと塩を砕きながら、お皿の料理にかけるという作業が、普通にただ塩を振り掛けるより、なんとなく、グルメっぽい感覚を盛り上げるのに役立つのではないでしょうか。ちょっと、レストランで食べるような気分になれる。実際に、普通の塩より美味いかどうかは別として。
マルドンシーソルトは、フレーク状の結晶がやわらかいので、ちょいとつまんで、指の間でこりこりとやると、簡単にぱらぱらになります。やわらかく、細かいので、ソルトミルにはさほどむかず、私は、ソルトミルにはもっと固い結晶の塩、マルドンシーソルトは容器に入れて使っています。上の写真のものは、マルドンの塩用に、わざわざ作られたもので、ちゃんと前面に「Maldon Salt」と書かれているのです。「近郊の小さな村の焼き物アーティストが作ったものだから、ひとつひとつ形が違うのよ。ほらー。」などと、観光案内所のお姉さんに、言葉巧みに説得されて買った一品。ぽっくりと愛らしい形なので、買って後悔はしていませんが。小さな木のスプーンもついてきました。
それでは、次回は、マルドン塩のふるさとで、なかなか魅力的なマルドン(モルドン)という町を紹介しましょう。こちらまで。ああ、それにしても、またまた、日本語のカタカナ表記に困らせられます。マルドンとするべきか、モルドンとするべきか・・・それが問題じゃ!
*エセックスでの塩の生産に関する情報は、マルドン・クリスタル・ソルト・カンパニーのサイトを参考にしました。当サイトには、マーガレット・サッチャー、有名シェフのデリア・スミス、エリザベス女王などが、工場を訪問た際の写真なども載っています。
マルドン(Maldon、英語の発音はどちらかというと「モルドン」に近いものがあります)は、エセックス州ブラックウォーター川の河口の町。エセックス州の海岸線では、塩の生産は2000年以上も前から行われていたそうです。
身体に必要であるというのみでなく、冷蔵庫の無い時代、塩は、食物の貯蔵のために大量に必要であったため、塩作りは大切な産業。イギリス内では比較的雨量の少ないマルドンを含むエセックス海岸線の土地は、河口の水に含まれる塩分が高く、シーソルト生産には適していたと言います。よって、潮の満ち引きを利用しての塩田は、マルドン周辺には、昔から多くあり、1086年のドゥームズデー・ブックによると、周辺に45の塩田が存在したと記載されているといいます。
ただし、塩田で、塩の結晶のみが残るまで自然乾燥できるような気候の国ではないので、最終的には、塩田から汲み取った濃厚な塩水を陶器に入れて熱するという作業が行われ、この火を焚いて塩生産を行っていた場所は、焼けた粘土の蓄積により、こんもりとした赤土層となり、レッド・ヒルと称されて、今も、昔の塩産業の名残として点在しています。塩がほど好い結晶体を作るためには、最適な火加減を維持する事が大切で、ただ火で乾かす、と言っても、なかなか微妙なわざを要したようです。
エセックスのシーソルト産業が徐々に死滅した原因としては、1800年代初め、それでなくとも、すでに高かった、塩にかけられる税金が跳ね上がったこと、また、チェシャーで効率の良い、岩塩採掘が始まったことがあげられています。現在、エセックスに存在する唯一のシーソルト生産会社が、このマルドン・クリスタル・ソルト・カンパニー。
マルドン・クリスタル・ソルト・カンパニーは、1882年創立の小規模ファミリー・ビジネス。マルドンの塩のそれぞれの結晶は、独特のピラミッド型をしており、上から見たピラミッドが会社のロゴとして使用されています。いまだ昔ながらの生産法を用い、手作業なども多いため、時に生産が需要におっつかないこともあるそうです。日本でも購入可能。小さなファミリービジネスでありながら、世界各地に商品出荷・・・というと近郊のチップトリーのウィルキン&サンズ社と似た感じです。双方、イギリス王室のご用達ですし。
さて、そのお味はいかに。塩の味見をするときには、なんでも、舌の先っぽを使ってちろっと舐めるのはバツで、舌の両側か奥の方の味覚を使うのが正当なのだそうです。さほどのグルメでない私の鈍い舌には、両側でも、奥の方でも、真ん中でも、シェフの言う甘味やら旨みやらは、さほどはっきり判別できません。ただ、さらさらの塩より結晶体の塩を使うほうが、ちょっと高級で美味そうな「気」がする・・・というのはあります。マルドンシーソルトには、スモーク(燻製)されたものもあり、こちらの風味はさすがに私にもわかります。イングリッシュ・オークを使用して燻製された、この塩はブラウンシュガーのようなうっすらした茶色をしています。上の写真の茶色の箱のものがそれです。
ただ単に塩、またはテーブルソルトとして売られているものに比べ、シーソルトやロックソルトと銘打って販売されているものは、マルドンのものでなくとも、値段がかなりはねあがります。以前、テレビで、それだけ違う値段を出して、シーソルトやロックソルトを買う価値があるのか、というのを調査していました。それによると、シーソルトやロックソルトは、ミネラルを含むといううたい文句で売られることがあるが、その含有量は取るに足りないものだそうです。また、味がいい、というのも、料理学校の生徒たち何人かに、普通のテーブルソルト、シーソルト、ロックソルトの目隠し味見をさせたところ、どれが一番味がいいかと聞かれて選んだものは、皆まちまち。結論としては、シーソルトでもロックソルトでも、普通の塩でも、ほとんど変わりはない・・・というものでした。ただし、マルドン・シーソルトは、この実験で使われてはいなかったようなので、「これだけは、味が絶対違う!」と意見する人もいるかもしれません。
また、塩の結晶は、ソルト・ミルを使える・・・ソルトミルでこりこりと塩を砕きながら、お皿の料理にかけるという作業が、普通にただ塩を振り掛けるより、なんとなく、グルメっぽい感覚を盛り上げるのに役立つのではないでしょうか。ちょっと、レストランで食べるような気分になれる。実際に、普通の塩より美味いかどうかは別として。
マルドンシーソルトは、フレーク状の結晶がやわらかいので、ちょいとつまんで、指の間でこりこりとやると、簡単にぱらぱらになります。やわらかく、細かいので、ソルトミルにはさほどむかず、私は、ソルトミルにはもっと固い結晶の塩、マルドンシーソルトは容器に入れて使っています。上の写真のものは、マルドンの塩用に、わざわざ作られたもので、ちゃんと前面に「Maldon Salt」と書かれているのです。「近郊の小さな村の焼き物アーティストが作ったものだから、ひとつひとつ形が違うのよ。ほらー。」などと、観光案内所のお姉さんに、言葉巧みに説得されて買った一品。ぽっくりと愛らしい形なので、買って後悔はしていませんが。小さな木のスプーンもついてきました。
それでは、次回は、マルドン塩のふるさとで、なかなか魅力的なマルドン(モルドン)という町を紹介しましょう。こちらまで。ああ、それにしても、またまた、日本語のカタカナ表記に困らせられます。マルドンとするべきか、モルドンとするべきか・・・それが問題じゃ!
*エセックスでの塩の生産に関する情報は、マルドン・クリスタル・ソルト・カンパニーのサイトを参考にしました。当サイトには、マーガレット・サッチャー、有名シェフのデリア・スミス、エリザベス女王などが、工場を訪問た際の写真なども載っています。
ブログでリンクさせていただきました。ありがとうございました。
返信削除読んで頂いてうれしいです。
削除たかが塩ではありますが、味ももちろん、どこでどうやって製造されたががしっかりわかる物を購入できるというのも魅力です。