クーム・ヒルからの眺め

チルターン・ヒルズ(Chiltern Hills チルターン丘陵)は、オックスフォードシャー、バッキンガムシャー、ベッドフォードシャー、ハートフォードシャー州と4つの州を股にかけ、南西から北東へ斜めに走る白亜(チョーク)の丘陵地帯。

バッキンガムシャー州ウェンドーバーにあるクーム・ヒル(Coombe Hill)は、このチルターン丘陵内にあり、海抜約260メートル。丘周辺は、ナショナル・トラストにより管理されています。ちなみに、チルターン内で最も高い丘であるハディントン・ヒルは267メートル。山でなく、あくまで「丘」ですので、さほどの高さではないですが、眺めはなかなか。Coombe(クーム)という言葉には、森に囲まれた、川の流れない谷の意味があります。

やっと夏らしい日々が続くようになってきたので、えっちらおっちら、クーム・ヒル周辺のハイキングへと出かけてきました。ロンドンのメリルボーン駅から、チルターン・レイルウェイズで、約1時間とお手軽な距離であるのも魅力です。

クーム・ヒル上に立つのは、1904年に設置された、南アフリカでの第2次ボーア戦争(1899-1902年)の記念碑。当戦争で命を落とした、バッキンガムシャー出身の兵士達の慰霊碑です。過去、雷に数回打たれたという事ですが、まあ、100年以上も立っていると、ある程度の被害は避けられないでしょう。この記念碑が丘の上にそそり立つ姿は、周辺の土地からも良く見えます。

ハイキング中、ほとんど人を見かけなかったのですが、さすがにこの記念碑の周辺は、常に誰かしらが次々に現れ、景色を楽しんでいました。私たちも、ここでランチタイム。

ね、結構、いい風景でしょう。食も進みます。

HS2(ハイスピード2)と呼ばれるロンドンーバーミンガムを結ぶ高速列車の路線が、この周辺に建設される予定なのですが、地元民の間で一大反対運動が起こっています。あちこちで、「HS2反対」の立て札が見られ、私たちが座ってお昼をしたベンチにも、「あなたの眼前のこの景色の中を、HS2が走ることになるのじゃ」などと書かれた札がくくりつけてありました。さて、どうなるでしょうね。比較的裕福なこのあたりの住民達の圧力に負けて政府が折れるかどうか。

丘の西側には、1921年以来、英国首相の別荘として使用されているチェッカーズ(Chequers)が、森に囲まれている様子が望めます。

丘を下って、チェッカーズ周辺をぐるりと回って歩いてみました。さすがに、あまり近くには寄れません。セキュリティー検査も、首相からのご招待も無しで、建物付近まで近づけるのは羊達だけ。

白亜層ですので、ハイキング道は、チョークの白い色。白亜層に関しては、過去の記事「イングランドの白い崖」をご参照ください。

上の写真の、つるりと丸いぽっこり丘の下を歩いている時、「ジャックとジル」というナーサリー・ライム(マザーグースの唄)が頭をよぎりました。

Jack and Jill
Went up the hill,
To fetch a pail of water;
Jack fell down
And broke his crown,
And Jill came tumbling after.

ジャックとジルが
丘を登った
お水を一杯くむために
ジャックはころんで
おつむを怪我し
ジルは後から転がり落ちた

ジャックとジルとばけつが、ころんころんと転がってきたのは、こんな丘だったのじゃないかなと。ダンボール箱をつぶした上に乗っかって、この丘の頂上から滑り降りてみたい。

チェッカーズの周りを歩いた後、途中、ゴルフコースなども突っ切り、再び、最後にもう一度、別の場所からクーム・ヒルを登りました。が、この斜面は、45度もあろうかと思うほどの急角度で、しばらく腿の筋肉がぴくぴく。日ごろの鍛錬が足らんのか。ジャックとジルのように、後ろにのけぞり転がり落ちなかっただけでもみっけものです。

夏は特に、都会の喧騒の中、汗にまみれて人ごみを押し分けへし分け歩くより、こういうところでしばしリフレッシュするのが一番なのであります。この夜は、それはぐっすり眠りました。

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