フィリピンの看護師さん

白血病のうちのだんなに、第一回目のキモセラピー(化学療法)の薬を投入してくれたのは、フィリピン出身の男性看護師さんでした。この最初の投入は、看護師が、約30分ほどベッドの傍らに座って行う必要があり、たまたま私も居合わせたので、この間、3人で色々話をしました・・・特に、彼の身の上話を。

彼がフィリピンで看護師となる訓練を受けた頃、フィリピンでは、看護師の資格を持つ者が増えすぎ、職が探せず、資格を持ちながら、飛行機のスチュワーデスやスチュワードなど全く別の仕事をする人も多かった。彼も、セールス関係の仕事に就いていたようです。どうしても、看護師として働きたければ、アメリカやイギリスへ出るしかない。やがて、セールスの売り上げ成績の数字で頭がいっぱいの毎日に嫌気がさし、イギリスへやってきた彼。

やはりフィリピン人の奥さんも看護婦さんだそうで、キティーちゃんが大好きの娘が一人。私が日本人だとわかると、キティーちゃんの頭の形をした建物は、成田空港のそばにあるのか、などと聞かれ、それほど頻繁に日本に帰らない私は、そんなものがある事も知らなかったので、「しばらく帰ってないからよくわからない。」と言い訳。何でも、お嬢ちゃんが行きたいと騒ぐのだそうです。彼も、彼の奥さんも、憧れの日本にはいつか行ってみたいのだと。私が「ぜひ行ってよ。」と言うと、彼はニコッと笑ってました。

後で、故郷には毎年帰るのか、という話をした際、「うーん、残念ながら、3,4年に1回しか戻れない。」故郷に帰るのも経済的にままならなければ、日本に家族旅行だ何て、現段階では、彼らにとっては、夢のまた夢なわけです。故郷の両親へ仕送りなどもしているかもしれませんし。「ぜひ、行ってよ」なんて、何も考えずに言ってしまうのは、富裕国に生まれた人間のうかつさ。

彼はフィリピンの政治汚職の多さを嘆いていましたが、同時に故郷の近くにあるマヨン山(Mt Mayon)の事をなつかしそうに話していました。富士山と同じく、完璧な円錐形。普段はシャイで、雲に隠れ、姿が見えない事が多いけれど、姿を現すと畏敬の念を感じる人も多いそうです。ウィキペディアで調べてみると、確かに美しい山です。(写真上。ウィキペディアより拝借。)彼に言われるまで聞いたことも無かった山。当たり前ですけれど、また新たに、世界は広いなあ、と感じました。富士山の方が知名度が高いのも、日本が富裕国であることと、アクセスが良いことに関係あるのかもしれません。

彼は今、南ロンドンの、あまり良くないエリアに住んでいます。バス代節約のため、自転車通勤。だんなが、ロンドンでの職について間もない頃、やはり同じエリアに住み、自転車通勤をしていたので、
「自分は、xx通りを走って、こう行っていた。」
「ああ、知ってる、知ってる。あの先のラウンドアバウトは、ちょっとこぎにくい。」
「そうそう!」
と、しばし自転車通勤の話題に花を咲かせていました。

最近、買ったばかりのマウンテン・バイクを盗まれてしまったそうで、「誰が取ったか知らないが、盗んだ奴は、自転車を見る目がない。自分のマウンテン・バイクは新品でぴかぴかだったけれど、安物。隣に、もっと高級な自転車が置いてあったのに、そちらには、手を出さなかった。」

そしてまた、「家が買いたいんだけど、不動産の値段、落ちると思う?」たとえ、イギリスの他の場所で、家の値段が落ちても、ロンドンは、海外富裕層が大勢、不動産のお買い物に来るので、これも、しばらくは、夢??だんなは、彼の他にも、別の機会に、イギリス人の若い看護婦さんから、「警官の彼がいて、収入は2人合わせれば、まあまあ。家買いたいのだけど、家の値段落ちると思う?」と聞かれたそうです。「有益な仕事をしている若者が、まともな家も買えないで、日常、奮闘しなければならない社会はよくないよな・・・。」と、ぼそっとこぼしていました。

医者、看護師、食事係り、掃除婦・・・色々な国籍の人たちが働いていますが、看護師の中で、イギリス人の他に人数的に一番多いのは、やはりこのフィリピンの人たちでしょうか。ここで働いて、故郷の親戚にお金を送っている人たちも多く、実際、別の男性看護師さんは、故郷にいる弟の4人の子供達を養うために、稼いだお金の大半を送っていると言っていました。フィリピン経済は、こうした人たちが、海外から送る仕送り(remittances)に頼るところが大きい。病院内での彼らからは、笑顔のやさし働き者のイメージを受けます。

コメント

  1. 2年前、アイルランドに行った時に友人のマグが「アイルランドはフィリピン人看護師が多いけど、アイルランド人よりも優しいと評判がいいのよ」と言っていました。日本ではその頃ようやく受け入れが始まったばかりだったように思います。

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  2. 彼ら、やさしいですね。最近の新聞記事で、イギリスーオランダ間のフェリーのスタッフにも、フィリピン人が多いそうで、フェリーのオーナーが「でぶで、体が刺青だらけのイギリス人より、フィリピン人をやとった方がいい。」という発言をしてしまって、問題になってました。ただ、このフィリピン人の時給は2ポンドちょっとと最低賃金をはるかに下回るもので、食事や宿泊場は提供してるのかもしれないけれど、もう少し、あげたらどうか、という気がしました。

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  3. こんばんは
    今日はすっかり秋の気温です。温度差について行けません。風邪引きそうです。
    イギリスの病院は本当に人種のるつぼのようなんですね。日本では考えられません。看護士も介護士も人手不足だというのに、自由化はなされません。壁は高いですね。国際化という観点からすると、まったく閉鎖的で保守的です。フィリピンからやって来る女性の多くは差別的な目で見られ、蔑まれているようにも思えます。何をもって豊かで成熟した国というのか。考えさせられます。しして、病院こそ開放的で健康的で日常的であってほしいです。

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  4. こちらも新政府が、EU圏外からの労働者の数に規制をかけるという話が出てきています。「イギリスの仕事はイギリス人に!」なんていう人達も多々いるので、人気取りの政策だと思います。
    雇用者側は、EU圏外の労働者は、イギリス人がやりたがらない仕事を埋めるのに必要、また、国内だけでは十分な資格や能力を持った人間を探せないと言っているのに、どうするのでしょうね。

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