明日なんか見えない・・・

少し前の話となりますが、こんなニュースがありました。大学でメディア・スタディー(いわゆるマスコミ関係の勉強)なる学科を取っていた女の子。マスコミ関係に進むか先生になりたかったようですが、コースに満足しなかったのか、途中でやめ、以後、申し込んだ仕事を片っ端から断られ、断られた仕事の数は200件。先生のアシスタントやマスコミどころか、ウェイトレス、近くのスーパーの仕事すら探せず、ついに絶望して睡眠薬で自殺。遺書には、「もう、私でいるのが嫌になった」。

これから、この国は、若者多難の時代。高くなりつつある失業率も若者層は特に深刻。取り立てた技術がないとやっていけない時代かもしれません。高卒では職が探せないかもしれない、それなら大学へ行こうと、大学への申し込みが殺到しているというニュースも入りました。大学への申し込み者数は、史上最高の数に達し、イギリス国内では十分な数の大学コースが無いため、約20万人の若者が大学にも入れない・・・という話です。

当たり前ですが、大学もぴんからきりまであるわけで、いわゆエクス・ポリテクニック(昔技術学校だったものが大学と呼ばれるようになったもの)と称される大学は、昔からある大学と比べて、学力的には劣る生徒が行くと思われているという事実もあります。自殺した彼女が入ったのもエクス・ポリテクニックの大学。それを、さらに途中でやめてしまったのだから、履歴書は、たしかに芳しくは無い。こうした昔の技術学校が、名前を変えて、どっちつかずの中途半端なコースを増やして、学問の場のイメージを強調しようとしたところで、何になるのか。昔ながらの、しっかりした技術を生徒に教えて、卒業した際に、何らかの仕事に就けるようにしてあげることの方が良い気がしますが。

仮に、大学に入ったとしても、いわゆる文系卒業生と理数系卒業生では、最近では、後者の方が良い仕事を探せる可能性は高いと聞きます。(オックスブリッジあたりの文系なら話はまた別でしょうが。)なのに、前者を選択する若者がこの国では、とても多いらしいのです。これは、私も文系だったので、えらそうには語れませんが。

また、自殺した彼女が取っていたメディア・スタディーなる学科は、昨今人気のようです。メディアやジャーナリズムなど、楽しく好きな事をして金を稼ぎたいというのは、人情。特にセレブレティー・カルチャー(有名人カルチャー)などといわれる現代、テレビや雑誌で有名人がこんな暮らしをしています・・・というニュースと話題を追っている世代は、自分にもこうなれる、と思ってしまうのか。そして、大学やカレッジ側も、若者の興味を引くため、メディア・スタディー、映画の歴史を初め、「これは学問というより趣味じゃないのかしら。」などと思えるような学科を作り上げて、その学科を取れば、その業界で働けるというイリュージョンを作り上げて。18歳で、まだ社会がどう動くか、将来役に立つ技術は何か、どういうコースを取れば有利なのかも定かでない若者相手に、こういった大学側の態度も、いささか無責任。一方、経営に金のかかる化学部門などを閉める大学などもありました。メディア・スタディー卒業生ばかりいっぱいのこの国の将来・・・はっきり言って考えたくありません。

大学で眉をひそめ数式の計算をしたり、研究室で実験、その後は長時間、実験のレポート書きに追われるより、大学ではある程度社交も楽しみ、役に立つより好きな学科を選択し、後はマスコミ関係で生きがいも金も手に入れたい。パッション・フィールド(情熱分野)と称される、マスコミ、ファッション、芸術関係に進みたく、その道に繋がるように思われる大学やカレッジのコースを選ぶイギリスの若者は多いといいます。供給ばかりが増えてしまえば、当然がっかりする人間の数も多いわけで。実際のところ、現役で活躍するニュース・レポーターやジャーナリストは、名の知れない大学のメディア・スタディーより、古い大学で伝統的な科目をやった人間が圧倒的に大いはず。

知り合いにも一人、ロンドンの某有名アート・スクールを卒業した人がいますが、仕事はパート・タイムの博物館の監視員。フルタイムの職も得られないので、博物館側が、人員削減を決めたら明日にでも仕事はなくなります。彼の場合は、年もかなり上なので、若者より、つぶしが利かず辛いところがあるかも。彼の若い同僚達も、大学でフィルム・スタディーや、芸術関係を取った人が多く、監視員は当然、彼らの「夢の仕事」ではないのです。本当なら、博物館館長や、どんなものを展示するかの判断を下すような職につければ、というのがあるのでしょうが、こういった仕事は、現職の人がリタイアーするまで空かないものです。また、空きが出来ても、コネが強く働くことが多々あり、最終的にはすでに裕福な人間にポジションがまわるといった、影の事実もあります。

そうなんです。本当にやりたい事をやって食べている人はほとんどいないのです。それなのに、その現実をはっきりさせずに、若者に、夢を見続けることを推進し、役立たずのコースを提供する大学やカレッジは増える一方。

最近また、米でのこんな話を読みました。ビデオ・ゲームのデザイナになることに憧れていた女の子。その手のコースがある、アート・インスティテュートなる私立のカレッジ(一部ゴールドマン・サックス社所有)で学んだものの、コースは役立たず。7万ドルの授業料をはたいての卒業後、得た仕事はゲーム会社のリクルート。時給は12ドル。これも1年後には、リクルート部門の閉鎖で、彼女は失業。ちゃんとした仕事を探せぬまま、今では、なんと、フロリダのキャバレーでトップレス・ダンサーとして稼いでいる・・・。自殺してしまうよりはましだし、そのたくましさには脱帽。稼いだ金で、今度は、ちゃんとした仕事に繋がるようなコースをとって勉強したいという事なので、彼女には第2のチャンスがめぐってくるかもしれません。ただ、彼女にしてみれば、このカレッジはとんだ時間と金の無駄となったわけです。この英文記事は、こちら

それにしても、このカレッジのマーケティングは、「将来その業界でごっそり稼げるような誤解を招く」ようなものだったとか。米のこうした、パッション分野系カレッジは、ものによっては英より悪質な感もあり、そのセールス方法も、かなり押し売り要素があるようです。生徒がひとりコースに申し込むと、スタッフはボーナスまがいの物質的賞与を受けることも、よくあるとか。どこのどいつが考え出している商法か知りませんが、若者に、将来の現実的なアドバイスを与えるどころか、彼らの夢につけこんで金儲けするのも悪趣味です。

最近の若者(特に裕福な親を持たないと)、上がりきったまま、なかなか下落の様子を見せないイギリスの不動産価格の影響で、まともな家も買えない。政府も、イングランド銀行も、家の値段が下がらないよう必至の工作をしているようで、こちらも解決の見通し今のところ無い感じです。

数日前、ラジオである青年のインタビューを聞きました。清掃会社のマネージャーをしており、時折、自分も掃除を手伝ったりしていた。贅沢をできるほどの収入ではなかったが、それなりの生きがいがあった。それが、解雇の憂き目に会い、1年半、必至の職探しの生活。一緒に住んでいた当時の恋人(という事は今はおそらく別れたのでしょうが)は、妊娠していたのが、ストレスで流産。ようやく近くの園芸店で時給7ポンドの職をみつけ、ほっとしたと。時給7ポンドは、かなりの低賃金です。まじめにやれば、他の可能性もひろがるかもしれない、と彼は言っていたものの、大変なことです。

なんだか、ふと、ラッツ&スターの、「Tシャツに口紅」という昔の歌謡曲を思い出してしまいました。若いカップルが、ロマンスだけで生きられない現実生活の大変さにぶちあたり、夜明けの海で別れを考える・・・という設定の歌でしたっけ。その歌詞の一部が、おしゃれ系歌謡曲としては、妙にシビアでした。

みんな夢だよ
今を生きるだけで
ほら、息が切れて
明日なんか見えない

色あせたTシャツに口紅・・・

それでも、1983年(27年前!)のバブル期の日本の事、この2人、別れても其々何とか人生取り戻し、別々の未来で、こんな昔をなつかしく思うかもね・・・という気分が、やさしいメロディーの底辺にあったようにも思えます。夜明けというのも、終わりよりも始まりの歌のイメージで。

夢と若者はつきもの。夢を見て悪いことではないのでしょうが、夢の帆をあげ、難破したとき、荒波の中、浜辺までえっちら漕いでいける技術と知識を身につけられる教育を受けるのは、これからの世の中、必要かもしれません。そして、再び、明日が見えるように、(トップレス・ダンサーは究極の選択ですが、)視点を変え、機転をきかせることができるしたたかさも。

*写真は全て、National Geographic及び、 Gardian on lineから拝借しました。

コメント

  1. こんばんは
    なんだかイギリスの話しなのに日本の話しなのかと思って読みましたよ。成熟した社会は若者に夢を与えられないのでしょうか。つくづく自分は幸せな時代を生きてこれたのだと思います。それなりに人より努力をすれば成りたい職業に就け、ステップアップも可能だった時代。36年の仕事人生の過程で4度転職したけど、どれも自分で望んだ転職だったのですから。
    幸いながら私の子供達は自分で望んだ仕事に就けているようですが、正規の仕事に就けない若者は多いようです。
    ただ、日本の場合は人手不足の現場もあるのですが、そういった仕事は若者には人気がないようです。日本も今は中国人始めとした外国人が多く働くようになってきていますがね、一般的に彼らの方が仕事に対して貪欲なので、どうしても彼らを採用する会社が多くなっているようです。実際問題、ハードな現場で求人をしても、日本人は全く応募してこず、日本語の堪能な中国人ばかり応募してくると話しはあちこちにあります。日本のような富める国に生まれ、富める国で育った若者にハングリー精神をと望むのは難しいのかもしれません。だからこそ日本でも名ばかりの大学や、魔法を信じさせるような専門学校が次々とできているのでしょうね。ただ、世の中も会社もその状態のまま(良しも悪しきも)というものはありません。いつでも方向転換できるスキルを常に身につけながら働くという姿勢は、結局自分を守ることになるのだと思います。人間には無限の人生が与えられています。それをどう選ぶかはその人にかかっていると思います。

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  2. 日本人がやりたくない仕事は中国人ですか。こちらは、工場や、野菜の収穫、工事現場など、ポーランドを初めとする東欧人が多く働いています。イギリスの若者は、応募しないし、したとしても、1日で来なくなったり、態度は悪く、時間にルーズ。東欧人の方が雇い主もありがたい様子です。こちら、おそらく日本より失業手当が良いので、仕事もしないほうが楽に暮らせるというケースも多々あり。
    医者や歯医者、会計士等、なるのに努力のいる仕事は、インド系の人がびっくりするほど多いです。文化的に考え方が違うのでしょう。国際競争で生きていけるだけの素質を持った若者が少ない、と時折話題になっています。考えてみれば、下の仕事だけでなく、大学教授や金融などにも外人が多いです。
    という自分も、夢に走って、いい加減に生きながら、バブル期の日本と唯一続けた英語に助けられて食べてきた気がし、今の時代だったらどうしていたかと、ふと考えたりします。本当に食うのに困ったら、プライドも何もかなぐり捨てて、野原で野菜摘むとは思いますが。

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  3. こんばんは
    日本だけの話ではないのですね。グローバルな超資本主義社会が生まれつつあるのかしら?小さな村の小さな幸せとかどこかにないかしら?贅沢は言いません。慎ましく健気に、そして愉快に暮らしたいです。私の世代まではなんとかそんな暮らしも出来た気がしますが、これからどうなっちゃうのかしら? 娘には幸せになってもらいたいけれど、、。 まだまだ猛暑日が続いています。ちょっと夏バテです。
    イギリスはもう秋の気配でしょうか?

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  4. せつこさん、
    イギリスはもう秋ですよ。日本の猛暑は大変そうですね。

    つつましく健気に愉快に、そして、健康に・・・というのは、主人が突然の病気で明日から治療のため5週間の入院となってしまい、しばらくこのブログも少し休むかもしれません。本日聞かされて、明日の入院、少々、気が動転しています。せつこさん、お体に気をつけて。また、気が落ち着いて、再開できる日が早くくるといいですが。

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  5. ミニさん
    突然のご主人の入院、ご心配のことでしょう。私も心配しています。どうか、ゆっくり静養なさって、一日も早いご回復を願っています。ミニさんもお疲れになりませんように。でも看護に専念してください。 心からお見舞い申し上げます。

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  6. ミニさん、ご主人の入院とのこと、本当に心配ですね。それに5週間とは長いですね。ミニさんもどうかお疲れが出ませんように、看病に専念してくださいね。一日も早いご回復をお祈りしています。

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  7. ご心配おかけしています。
    急性骨髄性白血病で、緊急入院しました。5週間おきに約10日間、帰宅を許され、それを3、4回繰り返すので、約6ヶ月の長丁場となりそうです。
    今のところ順調、患者は、非常に楽観的で、ご飯が少ないことだけを文句を言っている状態です。私も、病院に行けなくなると困るので、健康には特に気をつけ、生活しています。楽観的に、気持ちだけは元気に・・・をモットーにしてみます。
    皆様も、お体に気をつけて

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  8. こんばんは
    今日も猛暑日でした。そして、私は夏風邪を引いてしまいました。
    ご主人の治療計画が明らかになって、一安心ですね。
    医学の進歩は目を見張ります。お医者様を信頼し、お二人で乗り越えて行ってください。応援しています。
    一日も早いご回復、心からお祈りいたします。
    春が待ち遠しいですね。

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