緋色の研究

ロンドンの街路樹の葉の色も変わりつつある今日この頃。海を渡ったアメリカでは、米大統領選挙も近づいてきました。今のところ、オバマ、ロムニー、どちらに転んでもおかしくないような状況ですが、もし、ミット・ロムニーが勝利すると、初のモルモン教信者の大統領誕生となります。今でこそ、無くなったものの、モルモンは設立当時からしばらくの間、その一夫多妻制で悪評でした。

ジョセフ・スミスにより、1830年、ニューヨークにて設立されたモルモン教(未日聖徒イエス・キリスト教会)。信者の数が増えると共に、糾弾を受けはじめ、ニューヨークから移動し、一時は、イリノイ州ナヴーに落ち着きます。が、再び、地元非信者からの糾弾が始まり、1840年代、ジョセフ・スミスは暴徒により殺害。ブリガム・ヤングを新しいリーダーとして、信者達は、ナヴーを去り、更なる約束の地を求めて米大陸を移動し、やがてたどり着いたユタ州ソルトレイクシティーに定着、現在に至っています。

このモルモン信者達の、ナヴーを後にしての、聖地を求めての移動と、一夫多妻制、モルモン社会内の戒律を破ったもに対する残酷なしうちが題材になっているのが、コナン・ドイル作、シャーロック・ホームズの第一作目「A Study in Scarlet 」(邦題:緋色の研究)でした。

「緋色の研究」出版は、1887年。よって、モルモン開拓者達のソルトレイクシティーへの移動からから、まだ50年経っておらず、モルモンが、一夫多妻制の廃止を決める1890年以前に書かれた物語。モルモン信者達の社会が否定的に描かれているのは、当時、一般のイギリス人たちに、このキリスト教新派がうさんくさく見られていたためでしょう。

ホームズ第一作ですので、この小説は、従軍医師として、アフガニスタンから負傷して、イギリスへ戻ったワトソンが、旧友のつてで、アパートをシェアできる相手を探していたホームズに紹介され、2人で、ベーカー街のアパート、221Bを見に行き、大いに気に入り即決で借り、共同生活に入るくだりから始まります。ワトソンは、この新しい友人兼同居人の風変わりな習慣や生活ぶりに興味津々。やがて、彼の探偵という職業がわかり、ワトソンは、初めて、犯罪の調査に同行するのです。

南ロンドンの空き家で発見された死体は、アメリカ人ドレッバーのもの。外傷は無いものの、毒殺と読む、ホームズ。床には女性の結婚指輪が転がり、壁には、血でRACHE(ドイツ語で復讐の意)の文字が。やがて、ドレッガーの秘書であったスタンガスンが、今度は、ロンドン内のホテルの一室で刺殺されているのが発見される。

スコットランドヤードの刑事達が、埒の明かない捜査を続ける中、ホームズは、着々と独自の推理と調査で、ロンドンの馬車のドライバーとして潜伏し、ドレッバーとスタンガスンへの復讐の機会をうかがっていたジェファーソン・ホープをベーカー街の自宅へおびき寄せ逮捕。ここまでが第1章。

つかまったジェファーソン・ホープの20年をかけた復讐劇にいたるまでのいきさつの物語が、第2章に描かれています。


1847年に、開拓者として砂漠を渡っていたジョン・フェリアは、周りの仲間達がみな死に行く中、両親を亡くし孤児となった少女ルーシーを連れ、水も無く瀕死の状態で、砂漠をさまよう。やがて、2人は、そばを通ったモルモン開拓者達に助けられる。

"We are of those who believe in those sacred writings, drawn in Egyptian letters on plates of beaten gold, which were handed unto the holy Joseph Smith at Palmyra. We have come from Nauvoo, in the State of Illinois, where we had founded our temple. We have come to seek a refuge from the violent man and from the godless, even though it be the heart of the desert."
The name of Nauvoo evidently recalled recollections to John Ferrier. "I see," he said, "you are the Mormons."
"we are the Mormons," answered his companions with one voice.

「我々はニューヨーク、パルミラにて聖ジョセフ・スミスが受け渡された、黄金の板にエジプト文字で刻まれた尊厳なる言葉を信じる者たちだ。我々は、教会を設立したイリノイのナヴーよりやって来た。暴徒と非信者から逃れるための聖地を求めてやって来たのだ、たとえ、そこが砂漠のただ中であろうと。」
ナヴーという地名に、ジョン・フェリアの記憶が呼び起こされた。「そうか、」フェリアは言った。「君達は、モルモン教徒か。」
「我々はモルモン教徒だ。」と彼らは、声を一にして答えた。

フェリアは、モルモン教の信者になることを約束することで、一同に加わり、旅することを許される。ソルトレイクシティーへたどり着いた後、フェリアは有用な人物として、裕福な生活を送り、娘として育てたルーシーは、美しく成長する。ところが、じゃじゃーん。ルーシーは、ソルトレイクシティーへ、銀鉱の掘り出しのための資金を集めに来ていた青年(若き日のジェファーソン・ホープ)と恋に落ちる。けれども、なにせ、一夫多妻のモルモン教であり、さらに、非信者との結婚も許されないわけで・・・。

What is the thirteenth rule in the code of the sainted Joseph Smith? "Let every maiden of the true faith marry one of the elect; for if she wed a Gentile, she commits a grievous sin."

聖ジョセフ・スミスの13番目の規則は何だ?「全ての真なる信者の乙女は、神に選ばれたもの妻となるべし。非信者との結婚は、重大なる罪である。」

というわけで、フェリアは、モルモン社会内の有力者であるドレッバーの息子か、スタンガスンの息子のどちらかを選び、ルーシーを嫁がせるよう告げられる。候補者2人ともすでに数人の妻がいる上、一夫多妻制には、どうしても共感できないフェリアは、ホープの助けを借りて、ルーシーを連れて逃亡を企てるものの、フェリアは追っ手に殺害され、ルーシーは連れ戻され無理やりドレッバーと結婚。後、すぐに死亡。ホープはルーシーの葬式に潜り込み、彼女の死体から結婚指輪を抜き取り、復讐を誓い、20年の間、ドレッバーとスタンガスンを追いかける。そして、ロンドンで、ついに念願のとどめをさすのです。

今日のモルモン教は、「緋色の研究」出版時に比べれば、歌手ダニー・オズモンドのザ・オズモンズもいたし、大統領候補も出すにあたり、うさんくささは、ずいぶん減ってはいます。ミット・ロムニーがらみのニュースで、ソルトレークシティーのモルモン信者の家族がインタヴューされているのを見ましたが、お父さんは、「酒もタバコもやらない。紅茶やコーヒーも飲まない。」なんて言ってました。究極のヘルシー・ライフ・スタイルです。お肌もつるつるで、清潔なイメージの家族。子供達の歯なども真っ白まっすぐで綺麗でした。(アメリカ人の歯並びは一概に、イギリス人や日本人よりずっと良い感はありますが。)

小説の原題「 A Study in Scarlet」は、ドレッバーの死体が発見された犯罪現場を訪れた後、ホームズがワトソンに、犯罪捜査というものを語るくだりに現れます。

I must thank you for it all. I might not have gone but for you, and so have missed the finest study I ever came across: a study in scarlet,eh? Why shouldn't we use a little art jargon. There's the scarlet thread of murder running through the colourless skein of life, and our duty is to unravel it, and isolate it, and expose every inch of it.

君には感謝しなければならんな。君がいなければ、(この犯罪現場に)行かずに、いままで経験した中で最上級の研究に関わるチャンスを逸する事になったかもしれない。緋色のデッサンというやつだよ。ちょっとした芸術の専門語を使ってみてもいいだろう。モノクロの日常生活の混沌の中を殺人という緋色の糸が走っている。そして、我々の任務は、それを解きほぐし、隔離し、1センチ残らず暴露することだ。

そういえば、先日、こんなクイズをテレビで見ました。

クイズの趣向は、4枚のカードを1つづつめくっていき、そこに書かれた言葉を見て、残りのまだめくられていないカードに書かれている、関連する言葉をあてる・・・というもの。まあ、連想ゲームみたいなのりです。1枚目をめくって出てきた言葉は、「Scarlet」でした。そして2枚目は 「Four」。私ですら、この段階で、残りの2つの言葉を当てられましたので、シャーロキアンだったら、エレメンタリー!・・・ですね。

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