宴のあと

ああ、オリンピックが終わってしまった・・・のです。

開催前、金の無駄使いだ、おんぼろのイギリスの交通網がパンクする、云々の批判の声も多くあり、私の知り合いにも、オリンピックには全く関心ない、という人もいましたが、「蓋を開けてみれば、楽しかった」というのが、全体のムードだと思います。

お祭り気分の、浮かれた日々が終わり、メダルランキングも堂々3位で通過し、閉会式も済んだ翌日のイギリスは、二日酔いの頭を抱えながら、前夜の宴会のあとの散らかったテーブルや、床に転がる瓶を片付ける時の様な、ちょっとした脱力感が漂います。サッカーのワールドカップを主催したあとの日本も、こんな感じだったのでしょうね。また、この後、すぐに、パラリンピックが始まるわけではありますが。ちなみに、このパラリンピック、今の段階ですでに、過去最多のチケットの売り行きだと言います。

私のロンドン・オリンピックの期間のちょっとした後悔は、ボランティアとして参加しなかった事。ボランティアへの応募は、期限前に済ませ、なかなか面接の知らせが来ないな、と思っているうちに、だんなの白血病再発。やっと面接の通知が来たのは、だんなの骨髄移植のすぐ後だったため、「これは、夏は、オリンピックどころか、だんなの葬式という事も有り得るか・・・」などと悲観的な考えもあり、面接の機会を逸したのです。まあ、考えようによっては、見かけは、再び健康優良児に戻っただんなと、オリンピックを楽しく観戦できたので、めでたし、めでたしではあります。

オリンピックを、身近に体験できる機会など、もう無いかもしれないので、半分諦めていた、オリンピック・スタジアムでの陸上競技のチケットが入手できたときは、それは、嬉しかったのです。しかも、男子200メートル決勝の日の夜。

なかなか良い席で、200メートルのスタート地点にも近かったため、ボルトもわりと良く見れました。ただし、ボルト登場いなや、全員総立ちするので、人の頭越しに見ることとなりましたが。

金銀銅は、予想されたように、それぞれ、ウサイン・ボルト、ヨハン・ブレーク、ウォレン・ウィアーと、ジャマイカ勢が総なめ。先週6日の月曜日は、ジャマイカのイギリスからの独立50周年記念でもあり、ボルトとジャマイカ軍団の活躍は、独立記念に花を添えた感じです。おめでとさん。上の写真は、勝利の後、スタジオ内を一周して歩くボルトとブレーク。ボルトが、新しいチャレンジを求めて、次に何をするのか。

また、世界新記録を達成した800メートルのケニアのデービッド・ルディシャの走りっぷりにも、スタジアムは大いに沸いて。歓声は、走者を追いかけるように、スタジアム内を駆け回り、その反響は、巨大な音の竜巻のようでした。

上の写真は、十種競技に参加した右代啓祐選手。この人、後で調べたら身長、196センチもあるのです。

十種競技の選手達は、何でもこなすオールラウンドのスポーツマン達なので、立派な均整の取れた体格の人が多い感じです。この日の夜、やり投げと、1500メートルをもって、全競技を終了し、その後、全員で、スタジアムを回っていましたが、皆、ギリシャかローマの彫刻になりそうな体形。

とにかく、大いに盛り上がったスタジアム。メキシカン・ウェーブも2回やってきました。メディア席のところで、ウェーブが止まってしまうと、ちょっとブーイングが起こったのも愉快でした。

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最終日の昨日は、男子マラソン観戦のため、好天のシティー・オブ・ロンドンへ繰り出して来ました。友達家族と待ち合わせ、選手達が飲み物を受け取るフィーディング・ステーション前の沿道に陣取りました。今回のコースは、同じループを3回まわるので、1粒で3度美味しい、と言ったところ。世界クラスの選手達を、無料で、3度も見れ、掛け声かけることができたのです。

金を取ったウガンダのスティーブン・キプロティック。さすが強い、アフリカ勢。

6位で終了した日本の中本健太郎選手にも「がんばれー」。

また、メダル争いからはるかに離れ、最後にゴールインしたというのは、南アフリカのど真ん中にぽつねんとある小国、レソトの選手(上の写真)。ドリンクを手渡しているボランティア女性が被っている笠は、レソトの国旗にも組み込まれているお国衣装のようです。閉会式にも、レソトの選手は、この笠被って出場してるのを目撃しました。レソトは、貧しい国で、彼自身も、なんとか両親を経済的に助けられないか、と期待を持ってマラソンを始めたそうです。彼、今回、マラソン競技に出場するのは、なんと2回目。最後のほうは、ほぼ歩くようにしてゴールインしたそうですが、それでも完走。ようやった!このレソトの選手の話は、またそのうちに別の記事で書こうと思っています。

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こうして、色々な思い出を残して終わったオリンピック。BBCの放送は、それなりに良かったのですが、どうしても英国中心の放送となり、有名選手が出ていない他国の競技の報道は、かなり手薄。まあ、どこの国でもそうなんでしょうけどね。

確かにジェシカ・エニスの金は爽快でした。粋なブラッドリー・ウィギンスの、ツール直後の金は超人的。モー・ファラーの10000メートルと5000メートルの二冠も、フェアリーテールのよう。でも、昨日、リソトのランナーに声援を送りながら、思ったのは、そうしたイギリス選手の栄光の瞬間を、何度も何度も、飽きるほど繰り返して見せる代わりに、主催国の報道局として、BBCは、オリンピックの様な機会がなければ、耳にする事も無い様な小国の選手たちを、順番に取り上げて、報道して欲しかった。たとえ、ボルトのようなスーパースターがいない国でも、たとえ、マラソンを最後にゴールインする国でも。

BBCのみならず、各イギリスのメディアの報道の仕方は、思いがけない、メダルランキングの好成績と、雰囲気的にも成功と呼べるようなオリンピックになったために、特に最後の方は、極度の自己陶酔に近づきつつありました。宴の終結は寂しくはあるものの、己のすばらしさに悪酔いしすぎ、へべれけに立ち上がれなくなる前に終わって、良かったのかもしれません。

本日、色々な国からの選手達が、其々の感慨を胸にヒースロー空港から去っていきます。勝っても負けても、金でもビリでも、滑っても転んでも、ロンドン五輪の何かしらの、いい思い出を持って帰って行ってくれるとよいなと思うのです。

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