ガーデンノームも集う100周年のチェルシーフラワーショー

1913年から、ロンドンのチェルシー・ホスピタルの庭で開催されてきた、王立園芸協会(RHS、ロイヤル・ホーティカルチャラル・ソサエティー)主催の春の園芸ショーである、チェルシー・フラワー・ショーが、今年100年記念を迎えました。

以前はグレート・スプリング・ショーと呼ばれた、RHSの春の園芸ショーは、元を辿れば1862年に遡り、当初はケンジントンの庭園にて開催。1888年からは、開催地が、インナー・テンプルのガーデンへ移り、更に1913年から、現在のチェルシー・ホスピタルの庭で催されるようになります。以後、2回の大戦中の一時期を除けば、ずっと、この場所で行われ、ロンドンの春の恒例行事となります。

開催場の、チェルシー・ホスピタルは、病院・・・ではなく、チェルシー・ペンショナーと称される引退したイギリス軍人の隠居アパート。チェルシー・ペンショナーたちは、イギリスの郵便ポストもびっくりの、真っ赤な軍服を着ていることで知られています。普段は、一般公開されていない、ここの大きな庭に、お花と出店とショーガーデンが、びっしり設置されるのです。そのための準備たるや、かかること25日間。開催の初日はいつも、王族が訪れる、イギリスで一番有名なフラワーショーとあって、一度くらいは行ってみてもいいなと思っていたので、100周年記念の今年、ひょこひょこと繰り出すこととしました。

今年は、5月21日から25日まで開催。この5日間の来園者の数は、15万人を越すということ。あまりの混雑を避けるため、1日のチケット販売数は制限されており、かなり早い時期に売り切れます。当然、ダフ屋なども登場し。今回のチケットは特に、売り切れ後、400ポンド近くの値段で取引されたものもあった、などという新聞記事も読みました。

それでも、会場は、押すな押すなの大繁盛です。人気ショーガーデンの前などは、覗くのも大変なら、写真を撮るのも大変。ただ、人種のるつぼのロンドンにありながら、思うに入園者の90%以上は白人。時に、私のような東洋人は見たものの、他の人種はあまり見かけませんでした。

ショー開催中は、毎晩のようにBBCで、その様子が放送されるので、ショーガーデンなどは、テレビで見たほうが、隅々まで見れる、というアイロニーもありますが、まあ、雰囲気を楽しみ、変わったお花をクロースアップでしげしげ眺め、どんなものかという好奇心を満足させるため、一度は行ってみてよかったとは思います。

私の行った日は、2回ほど、10分くらいのにわか雨にやられたものの、時にお日様も出て、お天気は、ラッキーな方でした。寒いこの春、チェルシーに間に合うように花を咲かせるため、出展者たちは、あの手この手で、なかなか苦労したようです。なにせ、花の開花時期は、20日から30日くらい遅れている年ですので。

今年のベスト・ショーガーデンを獲得したのは、オーストラリアのナーサリーによるもの。上の写真の奥に写っているのがそうです。手前に写っているのは、チェルシー・フラワー・ショーの陰の立役者である、手押し車と、それを押して働く庭師たちを称えるための展示物。

ここを見下ろすようにして、上の写真の建物のテラスからBBCの放送の、メインの撮影が行われます。場内歩き回っていると、BBCのガーデナーズ・ワールドのプレゼンターや、著名ガーデナーなども、数人見かけました。

小型のアーティザン・ガーデンのカテゴリーでは、日本の石原氏の床の間ガーデンが最優秀賞を取ってました。5メートルx7メートルと小さなスペースにある日本庭園。なかなかの人気で、周辺の人ごみから「ビューティフル!」という声が、いくつも聞こえました。自分でデザインしたわけでもないのに、そういう声を聞くとうれしい気分となるのは、やっぱり、日本人なんですね~。日本人が、イギリスのコテージガーデンにあこがれるよう、イギリス人は、日本風ガーデンにちょいとした憧れを持っているのでしょうか。この庭園を造るにあたり、日本から持ってきたのは、建物だけで、植物から石に至るまで、残りは全てイギリスで入手したのだそうです。

上の写真の建物は、グレート・パビリオン。野外の展示場のほかに、このパビリオン内に、植物の展示が所狭しと並びます。以前は、パビリオンでなく、テントを使用しており、これは、世界で一番大きなテントとして、ギネスブック入りした代物だったそうです。巨大テントは2000年に、現パビリオンに取って代わられます。要らなくなったテントのキャンバス布は、小さく切られて、7000以上のバッグ、エプロン、ジャケットに姿を変えたという事。

チェルシーでは、海外からの参加者も多く、過去一番出展が多い国は、チューリップと球根の国のオランダ。上の写真の、天井から逆さに飾られたアマリリスと、背丈がきれいにそろっているアリウムの展示もオランダのナーサリーによるもの。お見事~。同ナーサリーは、チェルシーでは25年続けて展示。

上の写真のチューリップたちは、オランダではなく、イギリスのナーサリーのものでした。チョコレート色と、ピンクと白という色合いが綺麗。

こちらは、3000種のクレマチスを使用したアーチ。

いっせいに並んだ食虫植物たちは、つやつやして、食事をたらふく食べているのでしょう。プラスチックででもできているようです。

フラワーショーというと花と植物ばかり・・・ということもなく、とにかく庭関係の物、ガーデニング道具、グリーンハウス、彫刻、庭用家具と小物、芝刈り機にいたるまで出展されています。1913年は、出展者の総計は244で、そのうちの半分が植物ナーサリー、3分の1が園芸道具等の庭関係商品の商売人、残りがガーデンデザイナーやアマチュア園芸家だったということです。現在の出展者総数は、初年の倍くらいの数に増えています。

庭に置く彫刻類も、それは沢山ありました。一番気に入ったのは、下の巨大植物を模したものふたつ。
これは、勿忘草でしょうか。

こちらは、アリウムで、こちらは、すでに売れたのか、「値段は問い合わせにより」と書かれた札には、すでにオレンジの丸シールが張られていました。びーっくりするようなお値段でしょうね、きっと。2万ポンドはするかな。

私がお土産に買って帰ったのは、ケニアで作られたという、太い針金の先にとまった形になっている、空き缶を再使用したトンボ2匹。わりと良くできているのに、ひとつ2ポンドという値段は、巨大アリウムの象を買えない一般庶民には魅力的。公式パンフレットですら、10ポンドするのだから、同じ値段で、トンボが5匹買える。それに、手で持って歩くにも便利なので、場内で、このトンボを買って持って歩いている人を、それは沢山目撃しました。私は、帰り際に買ったのですが、「これをもってる人沢山見た」と売り子さんに言ったら、「本当、良く売れた。そろそろ、在庫が切れてしまう。」との返事。チェルシーのお土産でのナンバーワンヒットではないでしょうか。私も、買った後、トンボを風船のように、頭上に掲げながら歩いて、出口へ向かう途中、他の人に、「それ、どこの屋台で買ったの?」と聞かれました。

最終日の午後4時からは、展示植物が一般に売りに出されるので、植物を買った人々は、鉢や巨大花束を抱えて、地下鉄、バスへと消えていくこととなります。私も家が近ければ最終日に行くことも考えたんですけどね。まあ、2匹のトンボと思い出で満足です。

チェルシーフラワーショーは、通常、彩色を用いた彫刻類を展示することが禁止という、ちょっと気取った規律があるため、今まで、ガーデン・ノームをショーガーデンに飾ることが許されなかったのですが、今年のみ、特別にガーデン・ノームも解禁。エルトン・ジョンをはじめ、何人かの有名人により彩色されたノームたちが、オークションにかけられ、売り上げは学校でのガーデニング教育奨励のための基金に回されるようです。

これを機に、この国でのガーデンノームの歴史などにも、BBCの放送で触れていました。ガーデンノームたちはイギリスが誕生の地でなく、クリスマスツリーと同じく、ヴィクトリア朝に、ドイツから導入されたものなのだそうです。

イギリスに初めて置かれたガーデンノームは、ランピー君という方。(上の写真。)背景に映る、ノーサンプトンシャー州ランポートホールという屋敷の主であったチャールズ・アイシャムなる人物がドイツ旅行中に、初めてガーデンノームを見て一目ぼれ。何個も購入。ガーデニング好きであった氏は、自ら作った館のロック・ガーデンに、これらのノームを沢山配置し、ランピーも、その中の氏のコレクションのひとつであったそうです。氏は、何でも、ノームたちは、日が暮れると動き出す、と本当に信じていたというのですが、コナン・ドイルなども、フェアリーの存在を信じていたというので、当時、スーパーナチュラルを信じる人、わりといたのかもしれません。

この館の庭が、一般公開されるようになり、雑誌や新聞などにも取り上げられるようになると、ガーデンノームは一般にも有名になり、人気を博し、まねをして購入、庭に置く人も増えていった次第。が、この館に限っては、氏の死後、子孫たちは、ガーデンノームをほとんど破壊。ランピーのみ、溝に落っこちてしまったため、破壊を免れ、後に発見され、現在は館で大切に保存されているそうです。そして、イギリスで一番古いガーデンノームである、ランピー君の現在の価値は・・・なんと、100万ポンド以上!

私は、ノームが好きなので、こういう趣きあるノーム、何個か欲しいですね。今のところひとつしか持っていないので。最近、ガーデンセンターで売ってるものは、なんだか、デズニーの白雪姫の小人達みたいな顔をしたのが大半なので、あんなのは、庭に置きたくない。我が家のノームはわりといい顔していると思ってます。来年からは、またチェルシーでは、ノームはご法度となりますが、うちの庭では少しずつ増やしていきたいところです。

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