クリケット観戦

イギリスに住み始めて、もうかなりの年月が経ったというのに、クリケットなるものを実際に見に行った事がなかったのです。英人に、何度かルールを説明されても、右の耳から入り左から抜ける感じでした。クリケットは、試合が非常に長く、何日にも渡る事もあり、また、最近は、重要な試合結果はニュースでは話題に上がるものの、特別な場合以外は、スカイのみでしかテレビ放送されないので、あまり馴染みないのが、積極的に見てみようという気にならなかった原因。

先週、5月晴れのある日、「天気もいいし、クリケット見に行かないか」と友人に誘われ、ついに初観戦をしてきました。4月から9月辺りまでが、クリケットのシーズンですが、見に行ったのは、カウンティー・チャンピョンシップなる、日本で言えば、県対抗トーナメントのようなもの。一試合は、最長4日間に渡り、その1日目を見に行きました。11時頃開始、6時頃終了。途中、ランチやティータイムの時間なども入りますが、ほぼ半日。さすがに、最初からいても飽きると思い、午後の3時頃に合流して、約3時間の観戦。

最初から最後まで興奮して見るスポーツではなく、イギリスの、のどかな長い夏の午後を、友達と喋りながら、お茶飲みながら、時に他の事をしながら見るスポーツ。席も比較的沢山空いていて、場内では、編み物をしている人も見かけました。古いイギリスの映画などでも、クリケットをながめながら、紳士淑女たちが、デッキチェアに座って、紅茶をすすって、噂話しているシーンなど、良くありますもんね。

田舎道を散歩中に、緑に囲まれ、教会の塔が背景にのぞめるような、村のクリケット・フィールドで、試合が行われている光景も、とてもイギリス的です。

また、クリケットは、伝統のパブリック・スクールなどでプレーされる他、典型的エンパイヤー・スポーツというやつで、陽の沈まない国、大英帝国華やかなりし頃、イギリス人は、色々な植民地へクリケットを持っていき紹介したわけで、クリケットを今もプレーする国は、インド、パキスタン、西インド諸島、オーストラリア、ニュージーランド、南アなどなど、英国旧領土、植民地がメインです。

と、いう事で、ここで簡単な基本ルールをまとめてみる事とします。えへん。

各チームのプレーヤーは11人。テニスと同じく、試合前のコイントスで、どちらのチームが先攻するか・・・バッティング(攻撃)に回るか、ボーリング(守備)に回るかを決めます。

試合は、イニングと称される単位で区切られますが、1イニング内、1つのチームが攻撃し、別のチームは守備をし、そのイニングが終わると、攻撃と守備をするチームが変わります。私の観戦したカウンティー・チャンピョンシップ(最長4日間)や、また、テスト・マッチ(最長5日間)と呼ばれる伝統的国際試合では、各チーム2イニングをプレーします。要は、各チーム、2回バッティングをするということ。私の見に行った日は、1イニングをプレーし、その後、守備攻撃を交替した別のイニングが始まって少しで終わりましたので、残りは、続く3日間に持ち越されるわけです。なんとも、呑気な話でござんしょ。

クリケットのフィールドは、円形か楕円形(オーバル)で、その中心に、上の写真の様に、長方形ののピッチがあり、この両端から、投げる、打つ・・・。この22ヤード(約20メートル)のピッチの両端には、3本の木の棒に上に短い横棒が渡してある、小さな柵の様なものが立てられてます。これが、ウィケットと称されるものです。

バッティング側の目的は、このウィケットがボールに当てられないよう、バットでボールをはじくか、かっとばして、守る事。ボーリング側の目的は、ウィケットをボールで当てる事、または、バッツマン(バッター)が打ったボールをキャッチする事。ウィケットを当てられてしまったり、バットで打った後、バウンドしないでボールをキャッチされてしまったバッツマンは、アウトとなり、次に待つバッツマンと入れ代わります。アウトとなったバッツマンは同イニング中には再度プレーできません。ただし、アウトにならない限り、バッツマンは、ずっと、フィールドに残り、プレーを続けることができます。バッツマンが、ウィケットを、バットでなく、自分の足等で守ってしまうのは、バツで、これをしてもアウトとなります。

バッツマンは、常時、ピッチの両端に1人ずつ、計2人立っています。守備側は、ボールを投げるボーラーの他に、キャッチャーにあたるウィケットキーパーがいる他、残りはフィールダーとして、飛んできた玉をキャッチするわけです。ボーラーは、加速度をつけるため、かなり遠くから走ってきて投げていましたが、ボールを投げるとき、肘を曲げないというのがルール。また、一度に、片側から、6回ボールを投げる事を、オーバーと呼びますが、1オーバー終わると、今度は、反対側のピッチから投げる事となります。ボーラーも2人いる場合も多く、1オーバーの後、別のボーラーが反対側から投げる事もあり。

バッツマンの打ったボールがキャッチされずに、ころころフィールドを転がっていくと、その間、2人のバッターは、其々、ピッチ内、自分のいる側と反対の側に走ります。野球のバッターが、ヒットした後に、1塁、2塁と走り続ける代わりに、クリケットでは、ボールが取られて戻ってくるまで、2人のバッターが何度も交差して、ピッチ内を行ったり来たり。1回、反対側に走ると、1ランで1点入ります。また、野球のホームランにあたるもの(ボールが地面にバウンドせずに、フィールドの外へ飛び出した場合)は6ラン。一度、ボールが地面に落ちながらも、フィールドのむこうまで、キャッチされずに転がり出ると4ランが、スコアに加算されます。また、守備側は、ウィケットにボールを当てると、1ウィケット獲得。

さて、ここで、実践。BBCのサイトに載っていた実際のスコアを見ながら、スコアの読み方を学びましょう。まるで、大学の講義ですが。

Nottinghamshire beat Sussex by 7 wickets

Sussex won the toss and decided to bat

Sussex 1st Innings
309 all out (98.2overs)

Nottinghamshire 1st Innings
428 all out (119.2 overs)
Sussex 2nd Innings
263 all out (101.2 overs)
Nottinghamshire 2nd Innings
147 for 3 (44.3 overs)

これをざっと訳すと

ノッティンガムシャーはサセックスを7ウィケットで下す

サセックスがコイントスにて、先攻を選択

サセックス 第1イニング
309ラン オールアウト(98.2オーバー)
ノッティンガムシャー 第1イニング
428ラン オールアウト(119.2オーバー)
サセックス 第2イニング
263ラン オールアウト(101.2オーバー)
ノッティンガムシャー 第2イニング
147ラン 3ウィケット (44.3オーバー)

オールアウトとは、打者11人が全員プレーし、10人がアウトとなりイニングが終了したことを示します。別の言い方をすれば、守備側が、10ウィケット(10のアウト)を取ったこと。打者は全員11人いるわけですが、常時、2人のバッツマンがフィールドにいなければならにので、10人がアウトになれば、たった一人しか残らず、それ以上、プレーできないのです。


オーバーは、ボーラーの投げた回数で、上記に書いたとおり、ボーラーが6回、片側から投げると1オーバー。

最後の、ノッティンガムシャーの第2イニングのスコア、147 for 3とは、ノッティンガムが147ランをした時点で、オールアウトとなるまでもなく、ランの数が多い彼らの勝利が決まったため、ここで試合が終わり、それまでに、取られたウィケットが3という事。
最終結果の「ノッティンガムシャーはサセックスを7ウィケットで下す」というのは、サセックス側が2イニングともオールアウトで相手から20ウィケット取られているわけなので、計13ウィケットしか取られていないノッティンガムシャーが7ウィケットの違いで勝った・・・という表記の仕方をするわけです。

これがまた、先攻のチームが勝利した場合は、例えば、A beat B by 132 runs (AはBを132ランで下す)などと、ランの違いで勝敗を表記。

また、ランの数が少ないチームでも、なんとか最終日の最後までオールアウトとならずに持ちこたえ、バッティングし続けることができれば、引き分けとなるのです。要するに、時間切れは、途中のスコアはどうであれ、引き分け!ふー、ややこしいこと・・・。

その他も、色々ルールがあるのですが、きりがなくなるので、このくらいにしておきます。試合のタイプによっても、違いがある模様ですが、大体これくらい知っておけば、大まかには、観戦しながら何が起こっているか、わかるでしょう。ここまで、居眠りせず、きちんと読んでくれた人には、お疲れ様。あとは、見ながら、ケース・バイ・ケースで、「なーるへそ、こういう事もありか~」と唸りながら覚えていくしかなのです。

野球のルールをほとんど知らなかったうちのだんなが、ニューヨークでヤンキーズがプレーするのを見に行った時、有能なバッターをわざと4ボールで、1塁へ歩かせていたのを、最初は何が起こってるのが理解できなかった、と言っていましたが、当然、クリケットにも、その手のかけ引きが沢山あるわけで、それをまた面白いと思う人がいるようです。

クリケットのボールは、わりと硬いのです。そして、ウィケットキーパー以外は、グラブを着用しないので、速いボールが飛んできたのをキャッチするのは結構痛いのではなどと思います。近所に、かなりのハイレベルで、長い間クリケットをしていた老人が住んでいましたが、彼、バッティングをしている時、飛んできたボールを顔面に受けた事があり、歯が根こそぎ折れたと言っていました。今でこそ、バッツマンは、ヘルメットをしていますが、昔は、頭は無防備だったそうで。初めてこの人に会った時、「年のわりには、なんと立派で綺麗な歯並び!」と思ったら、そういう理由で、彼は、総入れ歯だったのです。

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