ワーズワースの水仙


I wandered lonely as a cloud
That floats on high o'ver vales and hills

谷や丘の上高く漂う一片の雲のように
私は一人さまよい歩いた

という一説を唱えると、ワーズワースの詩、「Daffodils(ダフォディル・水仙)」の出だしだと、ぱっとわかる人は、この国では沢山いるはずです。スイセン属は、ラテン語の学名で「Narcissus」。英語では、一般的には、「Daffodil ダフォディル」と呼ばれています。大体において、ダフォディルという言葉を聞いて、イギリス人が頭に浮かべるのは、黄色いラッパの形をしたものでしょう。ワーズワースが歌ったものも、この黄色のラッパたち。

ウィリアム・ワーズワーズ(William Wordsworth 1770-1850)。湖水地方コカマス(Cockermouth)で生まれ、やはり同地方にあるホークスヘッド(Hawkshead)の学校で教育を受けた彼。フランスを含め他の地を転々とした後、1799年に再び故郷へ戻り、グラスミア(Grasmere)で、妹のドロシーと共に定住します。

水仙の詩は、1802年4月、彼が、妹と、ウルズウォーター湖(Ullswater)のほとりを歩いていた際、湖畔に沿って帯のように一面に咲いていた水仙(ダフォディル)の美しさにうたれて歌ったもの。一度、この場所を管理している男性のインタヴューをテレビで見たことがありますが、ワーズワースの水仙に向かい、とうとうと、この詩の朗読をする変な人もいれば、自分の庭に、ワーズワーズゆかりのダフォディルを植えようと、球根ごと掘り返して盗んで行く、というずうずうしい輩もいるそうです。

ここで、ざっとワーズワースの「Daffodils(ダフォディル)」を訳してみましょう。

谷や丘の上高く漂う一片の雲のように
私は一人さまよい歩いた
そしていきなり目に入ったのは
一群れの黄金の水仙
湖の傍に木々の下に
そよ風に揺れ踊りながら

銀河の輝く星達のように絶え間なく
終わりない線を描き
湖の傍をぬって
1万はあるだろうか
軽やかなダンスに頭を揺らし

傍らでは波もダンスを踊るが
その輝く波もかなわぬほがらかさで
こんなにも陽気な仲間と共に
詩人の心も軽やかになる
私は見つめ、そして、見つめる
この光景が私の心をどれほど
豊かにしたことか

しばしば長いすに横たわり
うつろな物思いに沈む時
水仙の姿が心の目に鮮やかに浮かぶ
孤独へのなんという慰めか
そして心は喜びに満ち
水仙と共に踊るのだ

詩の原文はこちら

写真は、上から、ホランド・パークケンジントン宮殿わき、そして、セント・ジェームズ・パークで取ったものです。

湖水地方までわざわざ行かずとも、また、ロンドンの有名パークへ出向かずとも、水仙の明るい顔は、イギリス中の、あちこちで目に入ります。春の先駆けのスノードロップと同じく、今年は開花がかなり遅れた気はしますが。

最近、スーパーや花屋で見かける花束類は、ケニア辺りで栽培されたものが輸入されてくることが非常に多いのだそうで、今回のアイスランドの火山灰による航空の大膠着で、ケニアからのこうした花や野菜が、輸送されずに、そのまま腐っていっているという話です。こういうことがあると、毎日の物品をどれだけ海外に頼っているかしみじみわかるのです。そして、そんな大混乱をよそに咲いている、イギリス原生の水仙の姿にますますほっとさせられる気がします。

こちらは、ワーズワースが歌ったものとは、違う種類の水仙です。近くの村の小川の浅瀬を背景に取ったものですが、学名のNarcissusの由来である、ギリシャ神話の美少年ナルシス(ナルキッソス)が、川面に映る自分の姿にうっとりと見とれている姿を思わせ、お気に入りの写真です。

なおスイセン属(Narcissus)は、13の分類に分けられているという事です。ワーズワースの黄色のらっぱ型は、第一分類に属しています。それぞれの分類にどんなス水仙の花が含まれるのかについては、RHS(王立園芸協会)のサイトまで。


コメント

  1. おはようございます
    今日は春らしい日ざしの朝です。庭の小さな花も輝いています。水仙は日本の花と思っていましたが、イギリスではワーズワースとともに大切な花なのですね。私にとっては樋口一葉の「たけくらべ」の最後に描かれる一輪の水仙のイメージがつよくあります。また、フォークソングの「七つの水仙」などせつない恋の歌が浮かびます。水仙がもつ清楚で控えめな姿がそこにあるのでしょうか?でも一面の水仙群というのもあざやかでしょうね。どこの庭にも春をつげる水仙は生命力にあふれています。ただ切り花としては向かないようですね。 野の花なんですね。

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  2. こちらで、スノードロップが咲き出す頃はまだ春というより冬の終わりの感。水仙でやっと春の始まりという気がします。田舎の道端では、クリーム色のプリムローズなどもよく見かけます。もうすぐ、森林ではブルーベルの季節を迎え、5月頭に予定されている英国総選挙の頃には満開かもしれません。

    うちの庭では、水仙は終わり、チューリップもそろそろ盛りを過ぎたようです。夏むけの花の種を育てはじめ、トマトも昨日植えました。戸外に出れる季節は有難いものです。

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