アリスと訪ねる不思議の国

英語の慣用句や掛け言葉、言葉遊びを散りばめたルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」は、児童文学とは言え、未だに、ディケンズなどと並んで、頻繁に会話や討論の中で、文章やキャラクターを引用されることが多い文学です。

子供時代に日本で始めて見て何だか気味が悪いと思った、オリジナルのイラストはジョン・テニエル(John Tenniel)氏によるもの。特に、ろくろ首のような、上のアリスの絵が怖かったのですが、今では、彼のイラスト、とても好きです。プラスティック化した、ディズニーのアリスより、このイラストのアリスの世界の方が、ずっとシュールで原作にあっています。

やはり一番好きな場面は気違いお茶会でしょうか。そして、一番好きなキャラクターはにんまり顔のチェシャー猫。

ご存知の方も多いでしょうが、ちょっとまとめてご紹介してみます。

アリスが不思議の国を歩き回るうち、出くわし、参加する、木の下のテーブルでの気違いお茶会のメンバーは、帽子屋、3月うさぎとドーマウス。

*帽子屋(the Hatter)
ルイス・キャロルがこの本を書く以前から、

He is as mad as a hatter.
奴は、帽子屋のように気が狂っている

という表現が使われていたそうです。
根拠としては、帽子屋はかつて、帽子を作る際、水銀を利用していたということで、その影響で、少し異常な行動をする人物が多かったとか。


*3月うさぎ(the March Hare)
ここでいう「うさぎ」はアリスが一番最初に後をつけて、不思議な国に迷い込む原因となった白うさぎ(ラビット・rabit)とは違い、ヘア(hare)のことです。

ヘアはラビットよりも大型で走るスピードはかなり速い。目玉もギョロットしています。田舎の草原で時折見かけます。
こちらも、

He is as mad as a march hare.
奴は3月うさぎのように気が狂っている

という表現があり、いわれの原因は、3月の春の交尾の季節になると、ヘアは狂ったように跳ね回り、後ろ足で立ち上がって前足を振り回してボクシングまがいの行動を取ったりする事からきています。このボクシングは、オス同士が、メスをめぐっての喧嘩と思いきや、実は、まだ、ロマンスのムードじゃないのに、あまりにしつこくしてくるオスを、メスが「あっちいけ」と追いやっている姿なのだそうです。

以前テレビの自然番組で、ヘアが地べたにじっとうずくまっている様子から、卵を抱いているのではないかと昔の人は思い、卵とイースター・バニーの起こりは、ここから来て、イースター・バニーは、本来はラビットでは無く、ヘアだったというような事を言っていました。


*ドーマウス(the Dormouse :やまね)
お茶会の最中、すぐ眠り込んでしまうため、他の2人(1人と1匹)にひじかけ代わりに使われ、しまいにはティーポットに押し込まれてしまうこのねずみは、10月から4月までとかなり長い期間冬眠する動物です。良く眠る分、他のねずみより寿命が長いようです。

ヴィクトリア時代には、子供たちのペットとして飼われてもいたそうですが、一年の半分は眠っている動物がペットというのも、どういうものでしょうね。まあ、ボールのように丸まって、すやすやしている様子はとても愛らしいですが。今では、数がかなり減少しているという話です。


*お茶会の1シーン
「もっと、お茶をどうぞ。」3月うさぎがアリスに言いました。
「まだ、何にももらってないわ。だから、もっともらうなんて、できないでしょ。」アリスはいささかむっとして答えます。
「それは、もっと少なくもらうことが出来ないという事かね。」帽子屋が口をはさみます。「何も無いところからもっともらうなんて、いとも簡単な事じゃろ。」
「誰も、あなたの意見なんて聞いちゃいないわ。」とアリスは言いました。

“Take some more tea,” the March Hare said to Alice.
“I’ve had nothing yet.” Alice replied in an offended tone,
“so, I can’t take more.”
“You mean, you can’t take less,”said the Hatter;
“it’s very easy to take more than nothing.”
“Nobody asked your opinion” said Alice.

お茶ももらえないお茶会で、一時が万事このような具合に、妙な会話は続いていきます。

以前の英国首相トニー・ブレアー氏は、その耳から耳までにまっと裂けるようなスマイルでも有名で、そのにんまり顔はよく、チェシャー猫の様と表現されていました。彼が去った後もあのチェシャー猫スマイルだけが残る感じがする、などと。

「あなたの猫はなぜ、あんな風に、にんやりしているの?」
「これは、チェシャー猫さ。」と公爵夫人は言いました。「だからだよ。」

“Why your cat grins like that?”
“It’s a Cheshire cat,” said the Duchess, “and that’s why.”

「チェシャー猫のように笑う」という表現も、アリスで有名になったものの、やはりその以前から存在していた表現だということで、語源は、ルイス・キャロルの出身地チェシャーのチーズは、昔、にっこり笑った猫の型に作られていたというのが一番信じられているようです。

そして、現れたり消えたりするチェシャー猫が、尻尾から消えて行き、一番最後に顔そして口が消えるのは、ネコ型のチェシャー・チーズを食べるとき尻尾から食べ、最後に顔と口を食べる習慣だったからだとか。本当ですかね・・・。

チェシャー猫のように笑う人、帽子屋や3月うさぎのような変わり者、ドーマウスのごとくすぐ眠たくなる人、不思議な国に限らず、案外、回りにいるかもしれません。

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