ピクチャレスク

地平まで広がる野山と風にさわぐ木々、古代ギリシャ・ローマ風の衣装をまとった人々、そして遠くに見えるのは古の廃墟。17世紀フランス画家でローマで活躍したクロード・ロランやニコラ・プッサンの絵にはそんなものが多いです。

特にクロードの絵は18世紀のイギリス貴族にそれはもてはやされ、競って購入され、ターナーやコンスタブルなどのイギリス風景画の巨匠も彼の絵にかなりの影響を受けています。

そんな絵の風景はまた、18世紀初頭、以前の人工的なヨーロッパ宮廷風のフォーマルなガーデンに背を向け始めたイギリスの貴族、富裕者たちの理想郷でもありました。出来る限り自然に見えるような庭、遠くに広がる田舎の風景に溶けていくような庭、ランドスケープ・ガーデニングの始まりです。

庭園に水を導入するのも、幾何学的形をした池や噴水を作るよりも、有機的S字形の流れと池を作ったほうが良い。ロンドンのハイド・パークにあるサーペンタイン(蛇)湖も、そんな風潮を反映し、1730年代に、ジョージ2世の妃、キャロライン女王の依頼で作られたもの。人工でありながら、人工に見えない、世界初の湖なのだそうです。

そして遠くに廃墟なんぞが垣間見られれば尚よろしい。その廃墟が本物ならば、言う事なし。そうそう、クロードの絵のように。イギリス各地に、ピクチャレスク(Picturesque、絵のような)と呼ばれる庭園が、そんな思惑の人々によって作られ、残されています。

絵:Landscape with Cephaulus and Procris reunited by Diana
by Claude(London National Gallery)
1749年から57年にかけて造形されたリーヴォー・テラスもそんなピクチャレスク・ランドスケープ・ガーデンのひとつ。眼下の谷に建つ、12世紀の修道院、リーヴォー・アベイの廃墟を望む高台の庭園です。周辺の土地と、近くにあるダンカム・パークという屋敷を所有したチャールズ・ダンカム氏が作らせたもの。

優雅にカーブした高台を歩きながら、リーヴォー・アベイを13の違った角度から眺められるようしつらえてあるそうです。13の異なった絵画ということでしょうか。全部写真取ってみようと思いましたが、途中でどれがどれかわからなくなりやめました。

高台の片端まであるいて行くと、丸屋根の神殿が迎えてくれます。ローマ近郊のティボリにあるヴェスタのテンプルを模して作ったそうです。

高台の別の端には、とんがり屋根の神殿が建っています。こちらは、フランスのニームに残るローマ時代の神殿を模したもの。この中は、地階は台所、1階はイタリア人画家の手による、古代神話がテーマの天井のフレスコ画も豪華なダイニング・ルームとなっており、高価そうな家具も食器もそのままに飾ってありました。ダンカム氏、お客様を連れて、高台を散策し、風景を堪能した後、ここで食事をもてなしたようです。ということは、料理人や給仕人も一緒に連れて来たわけで、遊山ひとつも、計画が大変。

新古典主義と称されるこのふたつの建物に、建築界にもあった、古代ギリシャ・ローマへの憧れ、そしてその頃の建物を忠実に再現しようとした当時の風潮が。この手の建物は、西洋各地の銀行、博物館、美術館、記念碑などにも見られますが。

自分が広大な敷地を持っていたら、個人的には、お花がいっぱいの庭園にしたいところですが、まあ、こういうのもありかな・・・と。当時のランドスケープ・ガーデンのデザイナーは、貴族のクライアントから、かなりの高額を請求して、それは儲かったようです。

Rievaulx Terrace and Temples (National Trust)

余談:
上記、フランスのニームは、ジーンズに使われる生地、デニム発祥の地だということ。持っている辞書によると、デ・ニーム(ニーム産)というのが、短縮されデニムと呼ばれるにいたったそうです。

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