炎のランナー

 1924年夏の、パリ五輪にて、陸上の100メートルと、400メートルで、其々、イギリスに金メダルをもたらした走者が2人。前者は、リトアニアのユダヤ人移民の息子、ハロルド・エイブラハムス(Harold Abrahams)、後者はスコットランド人宣教師の息子エリック・リデル(Eric Liddell)。

この2人が、クライマックスのパリ五輪で優勝するまでの姿を追っている映画、「Chariots of Fire(炎のランナー)」、音楽を含め、有名な映画なので知った気分でいながら、最近まで見なかったもののひとつです。

ケンブリッジ大学に入学したものの、常にユダヤ人である事を意識し、何事にも秀でようとするあまり、攻撃的で、野心的なエイブラハムス。彼曰く、アングロ・サクソン中心のイギリス社会の中で、ユダヤ人の自分は、「水飲み場に連れて行ってもらえても、水を飲ませてもらえない」。だから、陸上で栄光を収めるのも、イギリス人として認められるための、「ユダヤ人である事に対する武器」。

エイブラハムスは、後、スポーツ・ジャーナリスト、アナウンサーとして活躍。望んでいた通り、イギリスのエスタブリッシュメントに認められ、その一員となる事に成功。彼の葬儀の場面で、映画は始まり、終わります。

一方、両親の宣教先の中国の天津で生まれた、敬虔なキリスト教信者のリデルは、走るのは、「神を讃えるため」で、走る力は、内面から来ると信じ。誰も悪口が考えられないような、本当に、良い人、だったそうです。

彼は、当初オリンピックの100メートルに出場予定だったのを、その予選が、キリスト教信者にとっては休息の日である、日曜日に当たるとわかると、出場を拒否。代わりに、トレーニングをしていなかった400メートルに出場し、優勝。

リデルは、この後の人生が、さらに映画の様な人。オリンピック後、天津に宣教師として赴き、結婚、子供もできたのは良いけれど、第2次大戦が勃発。日本軍の捕虜となり、終戦あとわずかの時に、中国の収容所内で脳腫瘍にて死亡。収容所にいる間も、他の収容人員のモラルを保つ重要な存在だったと言います。また、英語のウィキペディアによると、英国と日本の間で、捕虜交換の話があり、有名な陸上競技者であるリデルを、英国側は助け出そうとしたものの、リデルは自分の代わりに妊娠している女性を帰したという話が、最近わかったそうです。

映画は、多少、史実とは違った部分もあるようですが、物語の軸になるこの2人のキャラクター描写は、良かったです。

原題の、Chariots of Fire(炎のチャリオット:チャリオットは、古代ギリシャ・ローマの2人用馬車・戦車)は、詩人ウィリアム・ブレイクの歌詞による、それは良く歌われる賛美歌Jerusalem(エルサレム)の一節を引用。イギリス人の愛国心を掻き立てる歌のようです。この緑のイギリスに、エルサレムを築こう、その為に、精神的に戦うぞ・・・といった内容。

我に、輝く金の弓を与えよ
我に、希望の矢を与えよ
我に、槍を与えよ、ああ、雲よ散れ!
我に、炎のチャリオットを与えよ

Jerusalemを聞いてみよう。映画の最後、エイブラハムスの葬儀でも歌われます。彼の人生にぴったりの歌詞、という気はします。


ヴァンゲリス(Vangelis)の音楽を背景に、パリ五輪へ向けてのトレーニングで、イギリス陸上走者達が共に砂浜を走る冒頭のシーンは、設定では、パリに向けて、ドーバー海峡を渡る直前のドーバー周辺のはずなのですが、ロケ地は、ゴルフで名の知れたスコットランドのセント・アンドリュースの海岸線。

また、映画内に、ケンブリッジ大のトリニティー・カレッジの中庭、グレート・コート内を、昼12時の鐘の音が鳴り始めたと共に走り出し、12を打ち終わるまでに一周するレースを行うというシーンがありますが、これは、トリニティー・カレッジが撮影を嫌がった為、イートン校にて撮影されているそうです。

(写真は、トリニティー・カレッジの正門で、創始者のヘンリー8世の像が立つグレート・ゲイト。この門の向こう側が、グレート・コートになります。何でも、ヨーロッパで一番大きい中庭だと言う事です。私が行った日は、中に入れてもらえませんでした。)

原題:Chariots of Fire
監督:Hugh Hudson
言語:英語
1981年

コメント

  1. この映画、何度か見たはずなのに覚えているのはテーマソングとオリンピックで勝利する場面のみ。Youtubeで始まりの葬儀のシーンを見ました。それにしても耳に残るテーマソングです。

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  2. テーマソング、その後、色々なスポーツのイベントなどにも使われてるようですね。
    エイブラハムスの出場する100メートルを、スタジオに行かずに、ホテルの部屋で、結果を待っているコーチが、窓から、英国の旗が揚がるのを見て、喜びのあまり、帽子にこぶしでズボッと穴を開けてしまうシーンなども良かったです。遅れながらも、見てよかったと思える映画でした。

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