女相続人

オリビア・デ・ハヴィランドと言うと、「風と共に去りぬ」のメラニー役のイメージが強い人です。ヘンリー・ジェームズ作1880年出版の小説「ワシントン・スクエア」を基にした、この「女相続人」で、彼女は、巨額とニューヨークのワシントン・スクエアにある立派な屋敷を相続する予定の娘の役を演じています。ワシントン・スクエアは、19世紀は、裕福で瀟洒な場所だったようです。

19世紀中ごろのニューヨーク。キャサリン(オリビア・デ・ハヴィランド)は、気はやさしいが、容姿は普通、内気で、社交技術が無く、身のこなしなどもぎこちない。家で刺繍などをしている方が、ダンスに出かけるより好きなタイプの女性。父の、スローパー医師(ラルフ・リチャードソン)は、美しく、明るく、社交的であった亡き妻と、似ても似つかぬ娘を比べ、失望を感じずにいられない。

叔母に連れて行かれたダンスで、キャサリンは、モリス・タウンゼント(モンゴメリー・クリフト)に出会う。誰からも相手にされなかったキャサリンに、タウンゼントはダンスを頼み、大層な関心を彼女に見せる。翌日、さっそく彼はキャサリンを、彼女の家まで訪ねてくる、そして、瞬く間に、彼女に愛の告白をし、求婚。タウンゼントを気に入っている、いい加減な叔母さんからもけしかけられた上、男性慣れしていないキャサリンは、色男に言い寄られ、ぽーっとなり、結婚を承諾。

チャーミングな甘いマスクの男が、大してとりえも無い娘に、一目ぼれするなど、これは財産目当てに違いないと睨んだスローパー医師は、タウンゼントの身元を調べたところ、文無しで、仕事と呼べるものも無い事を発見。2人に結婚を諦めさせようと、キャサリンを連れて、ほとぼりが冷めるまで、と、ヨーロッパ旅行へ出る。ところが、初めての恋に夢中のキャサリンは、気を変える様子を見せず、そのまま帰国。業を煮やした父は、ついに、事実、「刺繍しか良いところのないお前に惚れたなどというのは、財産目当てだ」の様な旨を彼女に告げるのです。まあ、私が親でも、娘より、ワシントン・スクエアの家の方がずっと好きそうな、このタウンゼントの事は、諦めさせようとすると思いますけどね。娘の金が手に入るや、湯水の様に使い果たすのは見えている。ただ、彼の言い方が、あまりにも無骨で、娘の心にずっきーん。

父から、全く愛されていなかったと思ったキャサリンは、タウンゼントに、駆け落ちし、その晩にでも、結婚しようと提案。タウンゼントは、馬車で戻ると約束。キャサリンは、夜中に、荷物をまとめ、そわそわ待つものの、待てど暮らせど、タウンゼントは現れず、明け方になってしまう。父に背を向け、駆け落ちなどしたら、キャサリンは、家も失くし、遺産の全額も少なくなりますから、タウンゼントは、さっさとずらかっちゃったのです。これに、キャサリンは、更にずっきーん。彼女の心は、硬く、冷たくなるのです。

父が、不治の病気となり、死に際にキャサリンを寝室に呼んだ時も、彼女は、「今更遅い」と、見取らず。父が死んだ後、また、出現するのが、風見鶏、タウンゼント。彼女の家を訪れ、何故、あの晩、彼女を迎えに行かなかったかの苦し紛れの言い訳の後、再びキャサリンをくどき、その晩、今度こそ、結婚しよう、迎えに来る、と言い残して館を出る。いまや、館の主で、お金持ちのキャサリンですから、タウンゼントは、今度は、ちゃんと約束どおり現れて、ドアをノックするのです・・・が。キャサリンは、それを無視。タウンゼントは、必死にドアをノックし続ける。

最後のタウンゼントは、ざま見ろ、という気がしますが、お父さんは、ちょっと私は気の毒でした。もう少し、娘のいいところを褒めてから、やんわり言えば良かったものを。亡くなった完璧な妻と比較しすぎて、採点が厳しくなってしまったようです。オリビア・デ・ハヴィランドが、不美人か、というと論議の余地アリですが、映画の彼女は、髪は、まるでアイロンでのしたように、びちっと肌に張り付き、垢抜けないお嬢さんを上手くやっていました。

人間、伴侶を探すとき、大体において、自分と同じ程度の魅力と容姿の持ち主を、無意識に探し当て、自分より、魅力度がぐっと上の人間は、最初から考慮に入れないケースが多いという話を聞いたことがあります。似たもの夫婦とは言ったもので、ある程度まで、性的魅力がイコールであることが、長続きと、幸せな結婚の基本となる事が多い様子。それは、お互いの、金銭的バックグラウンドも同じかもしれません。確かに、家庭事情、バックグランド、財力が似通ったものであるほうが、結婚する理由が、「相手が好きだから」だと判断しやすいというのはあります。

映画内で、18世紀後半に書かれた、フランスのラブ・ソング「Plaisir d'amour」(愛の喜び)が使われています。このメロディーは、後に、エルビス・プレスリーの「Can't Help Falling in Love」(好きにならずにいられない)としておなじみになりますが。タウンゼントが、キャサリンにこの曲をピアノで弾いて歌うのです。歌詞は、エルビスの歌とは異なり、

Plaisir d'amour ne dure qu'un moment.
chagrin d'amour dure toute la vie.

愛の喜びはつかの間であるが
愛の痛みは一生続く

キャサリンの場合は、まさに、その通りとなってしまったわけです。

原題:The Heiress
監督:William Wyler
言語:英語
1949年

ところで、オリビア・デ・ハヴィランドは、「レベッカ」のジョーン・フォンテーンのお姉さんだとは、今頃知りました。其々、95歳と、93歳で、在命です。健康な遺伝子を持って生まれたのでしょう。

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