ささやかな喜び

だんなが白血病だと診断され、約1年が経とうとしています。

1ヵ月半前に再発してから、1回目のキモセラピー(化学療法)を終え、1週間、家で休養の予定だったのが、今回は骨髄の回復が遅く、酸素を運んでくれるヘモグロビンなどの数値がなかなか上がらなかったため、2週間の長めの休養となりました。昨日、2回目のキモセラピーの治療開始のため、再び入院。

今回は、骨髄の回復に時間がかかったのみでなく、残念ながらレミッション(寛解)が達成できず、白血病細胞が残ってしまったため、過去2,3日、日常生活に支障が出るほどではないものの、風邪の初期のような症状でした。見た目は相変わらず健康優良児なので、お医者さんにも「あんた、見かけはすごく健康なんだけどね。」などと言われ。骨髄移植を行う予定ではあるものの、その前に、願わくば、寛解を達成するため、2回のみの予定だったキモセラピーを3回に増やす事となり、かなりきつい薬を投与する事となってしまいました。その間、熱や感染の危険がぐっと高くなってしまうようです。

休養中も、激しい運動はぜいぜいしてしまうようなので、ちょっとの体力作りは、良い空気を吸いながらの散歩くらい。見慣れたこんな風景の中を歩くのも、彼には、2回目のキモセラピー後の一時休養で、再び家に戻るまで、しばらくはおあずけです。

入院も長くなると、やはりちょっとした事が嬉しかったりするようです。何はともあれ、自分の家で生活できる、自分のマグカップから、自分で入れた紅茶を飲める、自分の居間で私と一緒に7時のニュースが見れる、「こんな不味い物を作る事が可能なんて!」とびっくりするほど不味いというイギリスの病院食から離れ、好きな物をたらふく食べられる、朝早く起きてまだちょっとひんやりする中、朝露の芝を踏んで庭に出る、自転車に乗って近くの店からミルクを買ってくる・・・そんな事でも嬉しいのです。日本だったら、角の美味いラーメン屋で、久しぶりのミソラーメンと餃子を食べられるのがたまらなく嬉しい、なんていうのもありでしょう。

「死ぬ前に絶対行きたい世界の名所100」とか「死ぬ前に絶対やるべき事100」なんていうようなタイトルの本を書店で見かけたりもします。エキゾチックな場所、エキサイティングな事が色々書かれてあるのでしょう。だんなの自宅休養中に、世界地図を広げて一緒に眺めたりもしました。「よくなったら、車でアメリカ横断でもしようよ。」などと言われ、「私はどちらかというと、キューバ辺りに行きたいけどな。」と答え。そりゃ、今の状態から考えれば、どちらでも、実現すればうれしいですが、実現できなかったら人生不完全、というわけではない。逆に、小さなたわいない事に喜びを感じられる毎日であれば、それは良い人生といえるのではないでしょうか。そういう毎日を送りながら、いつの日か、運よく、すばらしい大旅行へ行けたら、更に得るものも多いのではないでしょうか。

先月、だんなの入院中に見舞いに行った際、隣のベッドに、癌(睾丸腫瘍)で入院している若いお兄さんがいました。なかなかお喋りな人で、世間話や、以前していた仕事の話をしてきました。完治の可能性は半々だと言われているそうですが、飄々とした人で、カフェかどこかで、話をしている気分にさせられたのです。「入院になっちゃったけど、読みたい本がたまってたから、調度いいや。」と、ベッド脇の棚を指して言うので、見ると、確かに本が山積みになっていました。頭で色々なところへ旅できるタイプの人です。「昔は、確実に死んでいた病気なのに、治療で完治の可能性があるだけでも、進歩だと思う。」のだそうです。この人、次回行った時は、別の病棟に移ってしまっていましたが、早く良くなって、できるだけ長生きして欲しい。

さて、入院一日目の昨日の夕食は、やはり2回目のキモセラピーを開始する、同じ病棟で知り合った白血病友達(?)と近くのイタリア・レストランへ食べに行ったそうです。キモセラピーの後、外からのばい菌と戦う好中球の数が落ちてくると、病院食以外は厳禁となるので、今のうちです。このイタリア・レストランで食事中、エルビス・プレスリーのそっくりさんがライブで演奏を始め、本物かと思うほど上手だったのだとご満悦で教えてくれました。もちろん、ご飯も「美味かったー!」と。この白血病友達も、うちのだんなと同じで、大変な食いしん坊なので、同じ病気を持つ仲間意識に加え、食べ物へ対する共通の愛着で結ばれている友情のようです。

人との交流、本を読む、ネットでニュースを読む、病院の周辺をちょろっと散歩、できる時においしいものを食べる・・・病棟内で毎日行われているそんな事にも、ある一定の日常と、ささやかな喜びがあるのです。

コメント

  1. おはようございます。朝はひんやりして過ごしやすいです。イギリスはどんな様子ですか?
    ご主人様の治療はまたつらい試練と思います。でも、勇気をだして進まねばなりません。最近、アメリカ、アップルのスティーブジョブズのスピーチを聞きました。スタンフォード大学の卒業式の祝辞ですが、膵臓がんを煩った時の自己分析には感動しました。なんだか仏教学者のような悟りと信念がありました。命の制限があるからこそ、生き方た問われるなど、考えさせられました。 ご主人様のご回復をお祈りいたします。

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  2. 涼しく秋のようです。

    今回は、キモセラピーで使った薬がきつく、副作用として、消化器官に激痛を感じている状況です。人生に関しての悟りもありますが、実際の身体的痛みは、見ていて本当にかわいそうです。

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