燃えるロンドンとイギリスのアンダークラス

8月4日木曜日に、ロンドン北東のトットナムにて黒人青年が警察によって射殺される。8月6日土曜日に、この事件に関して、青年の遺族達がトットナムで平和的プロテストを行う・・・これが、今回3夜に渡って続いたロンドンでの暴動の名目上の理由です。この平和的なプロテストに、暇で、やる事も無く、何かエクサイティングな事を求めていた地元及び周辺の、いわゆるアンダークラスの若者たちが加わり、目抜き通りの店を破壊し、内部の物を盗む、車や建物に火をつける、の破壊行動を初め、暴動と化し。何でも、この乱痴気騒ぎの中には、10歳くらいの子供や、女性も混じっていたというのですから、たじたじです。

暴動は、3夜に渡り、ロンドン各地に飛び火し、ハックニー、エンフィールド、クロイドン、クラッパム、そして、日本人派遣社員家庭なども多く住むイーリングにまでも広がります。暴徒は、ブラックベリーのメッセージの交換で、次にどこを襲撃するかを決めたりなどしたようです。やがては、バーミンガム、ブリストル、リーズ、ノッティンガム等の地方都市でもコピーキャット(まねっこの)暴動が起こり、4夜目にあたる昨夜は、ロンドンはとりあえず静かになったものの、マンチェスター、リバプール等で問題が起こっていました。

上の地図は、BBCのニュース記事より拝借。

上の写真は、クロイドンの創業1860年代の、家族5世代に引き継がれてきたという家具屋。第一次世界大戦、第2次世界大戦の空襲を逃れたのに、今回、暴徒に放火され、焼け落ちてしまい。こんなのは、お金だけの問題では無い、地方のひとつの歴史の破壊行為でもあります。ライブで、この建物が焼け落ちるのを見ながら、口はあんぐり。また、エンフィールドでソニーの倉庫がごうごう燃え上がる様子も、まるで戦場。ロンドンでの暴動などは、時々起こることはありますが、これだけの規模のものは、覚えていません。(写真は、テレグラフのサイトより。)

イギリスは階級社会だなどと言われます。おおまかに、アッパークラス、ミドルクラス、ワーキングクラス。そして、一番問題の、社会の底辺が、アンダークラス。このカテゴリーには、家族3世代、一切働いた事が無い家庭なども多く、教育もまともなものを受けておらず、職が無い、というより、職につける技能が一切無いのです。実際、お父さんは、刑務所で、お母さんは麻薬に溺れ、売春をしている・・・などというびっくりするような家庭もあるよう。カウンシル・フラットと呼ばれる低所得者層用の公共のアパートに住み、大体において、家賃は地方自治体によって支払われ、その上、生活補助を受ける家庭がほとんど。なのに、子供の数が多いのも、また特徴。そして、兄弟姉妹達が全て、お父さんが違う、なんていうのもよくある話です。大都市内のこうしたアンダークラスが多く居住するカウンシル・フラットが集まる団地には、ギャングのグループなどが結成され、子供は小さいうちから、そのギャングに参加して違法行為に走る事も問題となっています。

最近良く、日本は格差社会になってきた、などと嘆く人の話を聞いたりしますが、イギリスそして、おそらくアメリカのそれに比べれば、日本などまだまだ、かなり平等な国です。また、貧しくても、子供をきちんと育て、教育によって社会のはしごを這い上がる努力をする親が、ずっとこちらより多い気がするのです。そして、今のうちにそれを維持するようにしないと、英米の様になったら、もう、その処置が大変な事になるでしょう。こちらは、お金がない=やる気が無い=物事に興味が無い=努力しない=無くす物がないので犯罪に走る、の図式と化している感じです。

日本との比較・・・と言えば、日本で地震があった際のこちらのニュース報道で、車やスーツケースなどが、あちこちに散らばっている仙台空港を映し、「それでも、looting(略奪、強奪)は、一切起こっていません。ここは、日本ですから。」の様な事をキャスターが言っていたのが、ふっと頭を過ぎりました。

冒頭に書いた、警察に射殺された青年なども、すでに子供4人いたとやら。違法の拳銃を所持しており、ドラッグ・ディーラーだったという話も出ています。ミドルクラスの子供の数が減る中、アンダークラスの子供ばかり増えて、しかも、親が一切しつけや教育を行わず、全く親と同じ運命を辿っていくとしたら、そのうち、イギリスはアンダークラスだらけになってしまう?それでなくても、その数や、いまや、かなりのものがあるのに。

こうした、アンダークラスの子供と青年達が、何か楽しいことはないかと、破壊行為に便乗し、店から好き勝手、色々な物を盗み取り、放火して家が燃えるのを見て、楽しむ。自分達の破壊しているビジネスや、放火した家の持ち主が、自分達が何もせずに生きていけているお金の元、税金、を払ってくれているのだと気がついているのやら。そういえば、この人達、貧しいなどと言いながら、首からは金のチェーンをかけ、ピアスなどをし、ナイキのスポーツウェアで身を包み、携帯やスマートフォンなど、私よりいいのを持ってたりする。社会の底辺とは言え、彼らも、また、イギリス全体にはびこる、人間の価値と成功の価値が、身の回りの所有物で判断される、物質社会、消費社会の落とし子なのでしょう。

ディケンズなどの時代は、貧民は、社会の助けが一切無く、それはひどい生活をしていた。それを、見かねた幾人かの人々が、貧民の生活の向上、社会がある程度の責任を持って不運な庶民を助けるよう、働きかけ。やがて、各階層が一致団結して戦った大戦後、「ゆりかごから墓場まで」と良く称されるイギリスの福祉システムができあがったわけです。最近の世情を見ていると、アンダークラスに、ただ単に金を与え続けるだけのシステムは、効き目が無いという感じです。世代ごとに状況が向上することは一切無く、そのための努力も一切見られず、さらには、行政側も、金を与えるだけで、後は野放し状態で、そんなクラスが存在する事を忘れていたい。よって、何の規制をしくこともなく、見返りとしての自助努力も要求しない。振り子時計の振り子が、昔、片側に揺れすぎていたのを直そうとしたのはいいが、今度は、逆方向に戻しすぎた状態と言えるでしょうか。今、またその調整をして、調度良いバランスにしないと、時計は止まってしまう・・・それくらいならいいけれど、内部爆発して、ゼンマイやらねじやらが飛び散ってしまう。

昨夜夕飯の少し前に、近所に住む、だんなの友人が遊びに来てお茶をしていったのですが、彼はもともと、ハックニー付近の東ロンドン出身で、ロンドンから引っ越してかなりになるのに、いまだ、ばりばりのコックニー・アクセント。彼曰く、ハックニーは昔から、ガラは良くなく、自分も若いころは、色々喧嘩したり、騒動を起こしたりしたが、当時は、自分達が殴り合いの喧嘩をしても、建物に被害を加えたり、一般の人を巻き込んで怪我をさせたり損傷を負わせるような真似は、ほとんど、誰もしなかった。今回の暴動、物事や一般の人間に対する尊敬の念の欠如からきているとしか思えない、などと言っていました。ハックニーに、もう何年も住んでいる彼の義理のお姉さんは、帰宅途中、この暴動で立ち往生になったそうで、テレビのニュースにちらっと映っているのを見たのだそうです。彼女、こんな怖いことは一生無かったと、ほとんど膠着状態になったそう。彼の両親は、まだ、東ロンドンの、来年オリンピックのメイン・ヴェニューとなるストラトフォードに住んでいますが、彼はいつも年を取ってきた両親に「ロンドンは、もう火薬箱みたいなものだから、離れた郊外に引っ越したら」と勧めているそうです。

来年のオリンピックを前に、とんだイメージダウンのニュースとなりました。オリンピックにより、比較的貧しいストラトフォード地域の再生ができる・・・などと言いながら、ぴかぴかの建物を幾つも建てたところで、そこに住むある一定の住民の、社会や自分の人生に対する態度が変わらなければ、再生も何もあったものではないのです。暴徒がオリンピックスタジアムに火をつけなかっただけでもみっけものです・・・今のところは!

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イギリスに着いてまだ1ヶ月と言うマレーシアからの学生が、暴動に巻き込まれ、怪我をして血を流しているところを、助けるふりをした暴徒達が、リックサックから物を盗む・・・というUチューブのビデオがニュースで取り上げられ話題になっています。ビデオはこちらまで。ここまでモラルが欠如していたら、もう、人間じゃないですね。

コメント

  1. こんばんは
    ニュースを見て気になっていました。やはり、そうゆう事だったのですね。腐ったみかんは取り除くしかない。なんて言う台詞は間違っているなんて、攻撃されますが、人に迷惑をかける方が悪いのであって、排除されるのは道理にかなったことですよ。解決にはそうとう時間がかかりそうですね。

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  2. アンダークラスに生まれた子供が、親がした事を繰り返さないように、悪循環を断ち切るのが、今の社会の仕組みでは難しいようです。国が、教育に費用と時間をかけるなら、大学などの高等教育より、幼稚園、小学校の段階での早期教育に力を傾けるべきでしょうが。きちんと子供を育てられないような親に、ただ補助金を出し続けても、解決どころか、問題が永遠に続くだけの感じです。

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