ソイレント・グリーンに描かれた将来

「ソイレント・グリーン」は、1973年に作られたとは思えない映画です。近未来(2022年)のニューヨークを舞台に、地球が、そして、人間社会が、どうなっているかを描いています。米のSF作家ハリー・ハリスンによる小説「Make room! Make room!」(場所をあけろ!場所をあけろ!)を元に映画化されたもの。SFと呼ぶには、あまりにも、現実味を帯びた内容です。

地球の温暖化による環境の破壊、そして、抑制されないまま急上昇してしまった世界人口により、食料と物質が不足した社会。金持ちは、警備厳戒で、快適なアパートメントで生活する傍ら、大多数の貧しい庶民は、殺伐とした町に、野良犬の様に生き、水道も食料も配給制に頼る。特に貴重なタンパク質を含む食べ物ソイレント・グリーンの配給の日は、押すな押すなの群集が集まり、ソイレント・グリーンが切れようものなら、大規模の暴動に発展する。ソイレント・グリーンは、海底プランクトンを集め製造されるという、緑色の乾燥したビスケットの様なもの。ソイレントとは、ソイ(soy 大豆)とレントル(lentil レンズマメ)からの造語ということで、確かに、健康食のイメージある言葉なのだけれど・・・・。

ある日、そのソイレント・グリーンを製造するソイレント社の重役であった人物、サイモンソンが、自宅の高級アパートで殺害される。調査を進めるは、警官のソーン(チャールトン・ヘストン)。そのうちに、サイモンソンが殺害される直前、懺悔を行った教会の牧師も殺害される。そして、ソーンは、上司から調査が打ち止めになったと知らされるのだが、何か背後に怪しいものがあると睨んだ彼は、事件の真相を追い続ける。殺害された2人は何を知っていたのか?

住まいあるものの、決して裕福とは言えぬ警官のソーンも、事件で訪れた高級アパートなどでは、石鹸やアルコール、食べ物などをちょろまかす。貧相なセロリと、リンゴ、それにビーフを、サイモンソンのアパートから取って来た日は、捜査の調査の手伝いをする相棒で同居人の老人ソル(エドワード・G.ロビンソン)と、ビーフシチューを作り、それはすばらしいご馳走にありつくように食べる。ソルは、昔、まだ美しい田舎の景色があり、新鮮な食べ物を食べられた時代を覚えており、そんなものの存在を知らないソーンに、昔をなつかしく語る。

また、面白いのが、高級アパートを借りると、装備品のひとつとして、「ファニチャー」(家具)と呼ばれる若い女性が付いてくるのです。ソーンは、サイモンソンのアパートのファーニチャーであったシャールと恋におち、次の借家人が入るまで、彼女と、ひと時の夢の様な時間を共にする。

ソーンを助け、文献によって調査を行っていたソルは、その過程で、ソイレント・グリーン製造の真相に気がつき、社会に絶望し、「ホーム」へ行く事に決める。ホームとは、世の中が嫌になった人間が、安楽死をさせてもらえる公共機関。自殺用の薬を飲んだ後、音楽を聴きながら、目の前のスクリーンで今は存在しない、美しい田舎の風景を眺めて死んでいくソル。国が、市民を優しく扱うのは、死ぬ事を決めた、このホームにおいてのみ。多すぎる人口のため、自ら死を選んでくれる者は、国には願ったり適ったり。

ソルの最後に間に合うよう、ホームに駆けつけたソーンは、スクリーンに映る、生まれて始めて見る自然の景色の美しさに涙する。そして、死に際のソルから、ソイレント・グリーンの秘密を聞かされ、証拠を見届けるため、町の汚物処理場へ。表向きは汚物処理場のこの場は、実は、ソイレント・グリーンの製造工場。ホームから、そして、多くの場所から運ばれてきた死体が、ここで加工され、ソイレント・グリーンへと形を変えていっていた。

「Soylent Green is People!」(ソイレント・グリーンは人間だ!)というソーンの叫びで映画は終わります。

70年代にすでに予告された、この悲惨な将来は、現在、地球のあちこちで、すでに始まっている気配もあります。地球温暖化による水不足、以前の豊かな地が砂漠と化し。また世界人口の急増は止まる様子を見せず、食料の高騰による暴動も起こり。貧しい者は、異臭を放つゴミの山で、生活の糧となるものを拾い上げる。今のところは、いわゆる発展途上国のみで起こっているこんな事情が、やがて先進国の問題と化す事が無いという保証は無いのです。盗んできた一本のしなびたセロリを、有り難がって食べる日がくるかもしれない。貧富の差が大きく、犯罪がはびこる地域では、富のあるものは、家の回りに警備厳戒な、柵や塀を立て、城砦の雰囲気を漂わす家に住むなどという事情は、すでに先進国でも見られることですし。

今まで、国内外からの多額の借金で富裕の幻想の中に生きてきたアメリカ、及び、他の先進国が、実際に自国内で、個人で賄える物のみで暮らす事を余儀なくされたとき、人肉を食べるまでには至らずとも、今まで当然と思っていたものが手に入らず、貧しくなる人物の数が上昇し、社会不安や、映画に描かれるモラルの崩壊も起こりえるかもしれません。

原題:Soylent Green
監督:Richard Fleischer
言語:英語
1973年

コメント

  1. はじめまして。日本のもなみと言います。
    実は以前から、イギリスの歴史とか映画とかのお話を拝見させていただいていました。

    「ソイレントグリーン」は、中学のころに「ジョニーは戦場へ行った」と二本立てで見ました。
    どちらも衝撃的でしたが、あまり話題性がなかったのか、知っている人もほとんどいませんでした。
    しかし、今でもソイレントグリーンは、怖い言葉の印象が残っています。
    ストーリーもほとんど覚えていませんでしたが、今回あらすじを見せていただき、そうだったのかと改めて思い出しました。
    田園交響曲の花畑のシーンが忘れられません。

    これからも、イギリスのお話、映画のお話楽しみにしています。

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  2. はじめまして。コメントをありがとうございます。

    私は、「ソイレントグリーン」は地球がぐちゃぐちゃになり、人肉を食べるに至る、という大まかな筋書きだけ知っていて、最近、やっと実際に見たところです。同じSFでも、「猿の惑星」などより、現実味のあるずっと良い映画だと思います。soylentgreenispeopleというハンドルネームで、ネット上の新聞の記事にコメントを入れている人を見た事がありますし、一部、密かな人気はある映画のようです。

    「ジョニーは戦場へ行った」は、見た記憶がないので、そのうち、探してみます。見て気に入った映画は、皆、ここに書いて記録しよう思いながら、どんどん時が経ち、たまっていってしまっています・・・。

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