「おやすみなさいフランシス」と「しろいうさぎとくろいうさぎ」

ローラ・インガルス・ワイルダーによる「インガルス一家の物語」シリーズの事を当ブログに書きつづりながら、シリーズのイラストを担当した、アメリカのイラストレーター、ガース・ウィリアムズ(Garth Williams)に何度か言及しました。この他にも、彼がイラストを担当した、ラッセル・ホーバン著「おやすみなさいフランシス」(原題:Bedtime for Frances)という絵本がありましたが、これは、私が子供時代、一番のお気に入り絵本でした。ふと、なつかしくなり、アメリカから古本を取り寄せました。

日本では人気だった「おやすみなさいフランシス」ですが、イギリスの本屋で売っているのは見たことは一度もありません。また、やはり、私が子供の時に大好きだった、米作家ルース・スタイルス・ガネットの「エルマーの冒険」(My Father's Dragon)シリーズ3作も、イギリスの子供の間ではほとんど知られていない感じです。「インガルス一家の物語」シリーズも、後半の4冊は、アメリカから古本を購入して読んだ次第。もっとも、こういった本を外国から、コーヒーを一杯買うのとさほど違わない値段で購入できるのは有難いことで、本当に、インターネット様様です。

今回購入した「Bedtime for Frances」は、色つきなのですが、私が日本で読んだものは、色は、淡い緑と黄色だけでした。この彩色の仕方と色の選択がいまひとつなのは、あとから、本人以外の誰かがつけたものなのではないかと、思います。これがちょっと残念でしたが、いやはや、懐かしい・・・。

The big hand of the clock is at 12.
The little hand is at 7.
It is seven o'clock.
It is bedtime for Frances.

時計の長い針は12を指しています。
短い針は7を指しています。
7時です。
フランシスが寝る時間です。

の冒頭の部は良く覚えています。この後、ベッドへ連れて行かれたフランシスは、なかなか眠れず、部屋の中にトラがいる、巨人がいる、天井の割れ目から何かが出てくるかもしれない、窓のカーテンの動きが不気味だ・・・と色々と心配になり、其の度に、ベッドから這い出し、両親のところに行って、報告をするのです。

私は寝つきの悪い子でした。床に着いてから、軽く1時間は、「明日、早起きして学校行かなきゃいけないのに、眠れない・・・」と、隣の居間から聞こえてくる両親が見ているテレビのかすかな音を聞きながら、悩み。そのうちに、2段ベッドの下から、兄貴に寝息が聞こえ、やがて、テレビが消え、両親も床に着いてしまったりしようものなら、焦りは、クライマックスに達するのでした。それでも、子供の頃は、一度寝入ると、今のように、夜中に何度も起きることはほとんど無かったので、熟睡はしており、毎日元気な子ではありましたが。

そんなこんなで、眠れないフランシスには、とても共感が持てたのです。特に、天井をながめながら、割れ目から何か出てきそうだと思うくだりは、祖母の家に泊まった時に、天井の木目の一部に、人の目玉の様に見える場所があり、暗がりでそれを眺めていると、見返されているようで怖かったのを思い出します。また、ふと目を開けたときに、部屋の隅に何かが潜んでいるような気分も、フランシス同様、何度も味わいました。

この絵本の最後、「寝ないとお父さんにおしりを叩かれる」というくだりが出てくるのですが、子供には、どんなことがあっても、手を上げてはいけない、という最近のこの国の傾向では、ちょっと問題になってしまう部分かもしれません。このために、再発行されなくなる、などという事がなければいいですが。ストーリーも子供の気持ちを良く表して書いていますが、やっぱり、挿絵ですよね、この本の売り物は・・・。

ラッセル・ホーバンによる、あなぐまのフランシスが登場する絵本は、この他にもいくつかあるようですが、他のイラストは、作家の奥さん、リリアン・ホーバンによるもの。ぱっと見ると似ていても、ガース・ウィリアムズの愛くるしいフランシスの顔や表情、彼の絵の全体からにじみ出る暖かさと比べると、奥さんには悪いけれど、ちょっと落ちる感じは否めない・・・。

という事で、「おやすみなさいフランシス」と一緒に、やはりガース・ウィリアムズのイラストで、こちらは、文も本人が書いた「しろいうさぎとくろいうさぎ」(原題:The Rabbits' Wedding うさぎの結婚式)の古本も購入しました。

いつも一緒に遊んでいる白いうさぎと黒いうさぎ。楽しく遊んだ後、時に悲しそうに考え事をしている黒いうさぎ。その悲しさの理由は、白うさぎが、いつか自分の側からいなくなってしまったらどうしよう、いつまでも白うさぎと一緒にいたいというもの。それを知った白いうさぎは、ずっと一緒にいる事を約束し、2匹は結婚。黒うさぎは、2度と悲しい顔をする事はありませんでした、めでたし、めでたし・・・というもの。

愛を知り、その喪失を恐れる、くろうさぎのこの悲しい顔、見てやって下さい。

こちらも、それは綺麗なイラストです。コンピューターで描いた絵本なども最近は多いでしょうが、人間の手で描いた、このふわふわ感触にはかなわないでしょう。この2冊は、これからも、コーヒーブレークに時々手にして、ページをめくり、にっこりしそうな気がします。大人の心も和らげてくれる効果抜群です。

時を経ると共に、数多く出くわした文学、絵、詩、音楽、その他もろもろの中で、脳裏に残り、どうしても好きで、ほとんど、自分の性格や過去の一部になっているものというのはあります。伴侶と同じように。そういった事物事項が、これからの人生も一緒に私に着いて来てくれ、何かにつけて、心を浮き立たせ、支えになってくれる事でしょう。うさぎたちの誓いの言葉の様に、


「Forever and always!」(永遠にいつも!)

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