If-

来週月曜日、22日、おなじみ、ウィンブルドン・テニス・トーナメントが始まります。

今年から屋根が付いたセンター・コート。少なくとも、これからは、目玉の試合は、イギリスの不安定な天気による中断に悩まされる事も無くなり、めでたしめでたし。

センター・コート付属の建物内、選手のコートへの出入り口のそばに、こんな言葉が書かれてあります。試合前にコートへ出て行く選手たちが、必ず目にする言葉です。

"If you can meet with triumph and disaster
And treat those two imposters just the same"
もし、勝利と大敗というふたりの詐欺師に対面し
両者を同じように扱う事ができるなら

「ジャングル・ブック」を書いた英国作家、ラドヤード・キプリングの有名な詩、「If-(もし-)」の一節です。

(写真は去年のウィンブルドンのプログラムから拝借。)
去年の決勝。3年続きで、予想されたとおり、当時ワールド・ナンバー1のロジャー・フェデラー対ナンバー2のラファエル・ナダル。ウィンブルドン始まって以来最長の4時間48分、雨天中断時間を入れると6時間40分の熱戦となりました。英国内だけで、1200万人がテレビで観戦したと言います。

ほとんど球が見えなかったという日没直前の夜9時15分に、過去5年連続のウィンブルドン・チャンピョン、フェデラーを、スポ根漫画のヒーローを地で行くような4歳年下のナダルが3回目の挑戦でやっと破ることで終了。そのドラマ性とプレーの質の高さで、すでに記憶に残る限り最高の決勝だったとの話でもちきり。下手なドラマよりドラマ的。翌日の各新聞もほとんどがナダルの写真を1面に載せ報道。

前年、やはり大接戦となった決勝で敗れてしまったナダルは、表彰式では、スポーツマンらしく、さっぱりとした表情を見せながら、ロッカー室に戻った後、「もうこんなチャンスは無いかもしれない。自分はウィンブルドン・チャンピョンになる事はないかもしれない。」と泣べそしていたのを、コーチである叔父さんに「何言うとるんじゃ!」と励まされたという逸話を聞きました。

BBCのテレビ放映は、試合開始予定時間の30分前から始まり、その放映の出だしに、フェデラーとナダルの両選手が、交互にキップリングの「もし-」を朗読する姿を、両者のプレーのスローモーションをいれながら流していました。なかなか粋な導入で、スタジオに来ていたマッケンローもこれを見て「さすがBBC。この導入のクリップ、上出来で鳥肌がたった」母親が南ア人だというフェデラーの英語はそれは流暢。対するなダルは強烈な巻き舌のスペイン語なまりの英語。それなりに微笑ましいものもありましたが。

テニスほど、選手の心の持ち方が試合を左右するスポーツは無いのではないかと思います。日ごろ培った技術と体力をここぞという時発揮できるのは、ひとえに精神力。否定的な考えを持つと、あっという間にぺしゃり。見ている側でさえ、口から心臓が飛び出しそうだったこの試合、窮地に立つたび、驚くようなプレーで切り抜ける両者の戦いぶりに、キプリングの詩が何度も頭をよぎりました。

という事で、愚訳ですが、この詩を紹介します。日が沈まない国だったイギリスの、帝国主義の香りがする、などとも言われたりしますが、今は、書かれた背景からはひとりだちし、以前、イギリス国民の一番好きな詩、にも選ばれた事があると記憶します。

もし-

もし、周囲が平静を失い、それをお前のせいにする中
お前は平静を保てるなら
もし、全ての者がお前の能力を疑う中
自分を信じていられるなら
そして、その疑いの存在を認識している事もできるなら
もし、待つ事が出来、更に待つことに疲れず
嘘をつかれても、自身は嘘には関わらず
憎まれようと、自身は憎しみに身をやつすことなく
そして、偽善に走らず、賢言をむやみに振りまかず

もし、夢を抱きながら、夢に操られる事がなく
もし、考えながら、思考が目的となる事がなく
もし、勝利と大敗というふたりの詐欺師と対面し
両者を同じように扱う事ができるなら
もし、己の語った真実の言葉が
愚者をだます為、卑劣にねじられるのを聞き
または人生を捧げたものが無残に壊されるのを見
それに耐える事ができるなら
そして、屈み込み、使い古された道具を取り上げ
再びそれを築く事を厭わないのなら

もし、今まで培ってきた勝利の全てを集め
それを、投げ出す覚悟があるのなら
そして、全てを失い、再び、初めからやり直す事ができるなら
そして、一言も自分の失ったものを嘆かぬ事ができるなら
もし、精根尽きた後も
目的のため、心と精神と力を振り絞り
体の中に、「耐えよ!」と叫ぶ意志以外の何も残っていない時も
耐える事ができるなら

もし、群集と言葉を交わしながら、良心を失うことなく
王者と交わりながら、通常の心を失うことなく
もし、敵にも、愛する友にも傷つけられる事がなく
もし、全ての者に耳を貸しながら、感化されすぎる事も無く
もし、容赦なく去っていく一分一分を
長距離走者が走る60秒のように満たす事ができるなら
お前は、地球とその上にある全てのものを手にする事ができるだろう
そして、何より、お前は一人前の人間となれるだろう

If- の原文の詩はこちらまで。

これじゃ、一人前の人間になるのも、一苦労です。

さて、英国のアンディ・マリーも徐々に頭角を現し始め、いつかは、久しぶりの英国のチャンピョンがウィンブルドンに誕生するんじゃないかと言う期待も。スコットランド人の彼、何かにつけて、「自分はスコットランド人だ」というのをアピールするので、嫌がるイギリス人もいますが。マリーが大きな大会でいい線行く度、やはりスコットランド人の俳優ショーン・コネリーなどが、マリーに激励の電話を入れる、なんて話です。こういうスコットランドを愛すると称するスコットランドの著名人、ほとんど母国に住んでるためしがないので、その愛国心には疑問をもってしまいます。

テニスは、未だに、この国では中流以上のおぼっちゃん、おじょうちゃんのスポーツ。サッカーなどに比べて、その人材の間口が狭いので、なかなか数多く良いイギリスの選手が出てこない現状です。

とまれ、「ウィンブルドン効果」という言葉があるとおり、母国のチャンピョンを輩出せずとも、栄誉ある世界的トーナメントを開催することでの経済効果は多少なりともあるようです。

クリームをかけた苺とウィンブルドン。今年も、イギリスに夏が到来です。

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