ダーウィンとみみず

以前、「ダーウィンが迎える博物館」でも書いたよう、今年は、チャールズ・ダーウィン生誕200年。「種の起源」出版150年で、何かと話題にあがり、関連のテレビやラジオのドキュメンタリーも沢山見聞きしました。


そんなラジオ番組のひとつで、ダーウィンが一番最後に出版した本は、みみずの研究だったという話を聞きました。その題名たるや、「The Formation of Vegetable Mould through the Action of Worms with Observations on Their Habits」とそれは長たらしいもの。イギリスの土壌を豊かにし、その風景を築いたのは、地下で土や枯葉を消化して排出する無数の、一般人には気にもかけられないみみず達だと。

地下で、腐っていく植物の残骸をシャリシャリ食べては排出し、次代の植物の為の栄養を再生しているみみずの恩恵で、今年も、初夏の植物が風にゆれています。また、不毛だったニュージーランドのある土地に、みみずを導入したところ、土地が豊饒になったという話も聞きました。

木の数が減り、都市が拡大するにつれ、土に含まれるカーボン(炭素)の量も年々減り。農地も毎年毎年多量の穀物野菜を集中的に栽培することで、土壌の栄養が減っているという事です。世界的に、土が、何を育てる力も無い、ただのダスト(埃)と化してしまっているとしたらそれは恐ろしや。

ダーウィンのこのみみずの研究は、ソイル・サイエンス(土壌科学)のさきがけだと言います。
 当時の労働階級の多くが工場等で働き、生活に追われていた中、あくせく働かなくとも生活でき、ビーグル号に飛び乗ることも出来たダーウィンはこの上なく、ラッキーではあったわけです。金の心配をせず、研究に専念できた。

彼の、母方の祖父は、陶器のウェッジウッドの創始者ジョサイア・ウェッジウッド。父方の祖父は、医師、自然哲学者のエラスマス・ダーウィン。妻も、いとこであったウェッジウッド家出身のエマ・ウェッジウッド。何もせず、のほほんとしていても生活できたのでしょうが、幸運な境遇と、与えられた時間を非常に有効に使った人ではあります。

「種の起源」は構想から出版まで20年の歳月がかかったという話です。議論の裏打ちに証拠を集め、それを、みみずよろしく、慎重にしゃりしゃりと消化し分析し。また、彼の書く文章は、一般人が読んでも理解できるよう、比較的難しい専門用語を避けているという事です。自己満足に陥らず、読み手が理解しやすい文を書く、これもわりと時間がかかるでしょう。比較的短い珊瑚に関する本の出版などにも、13ヶ月がかかったなどと言います(構想から、すべての研究時間をいれるともっとかかっているのでしょう)。

ひとつの事を徹底的に理解する、ひとつの意見を述べる、ひとつの物事を執筆するのには、多数のものを取り入れ、それをしっかり消化吸収するのが必要。特に、豊穣な土地の様な、自分なりに価値があると思えるものを生み出したければなおさらの事。1のアウトプットには10のインプット。

内容よりもスピードが多々要求される現代において、このダーウィン風みみずモードは、大切なのではないかと感じる今日この頃です。

(動物の写真は、動物園にて撮影。私のペットではありません。)

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