水仙畑で花を摘むのは

東京でも、もう桜の開花が始まったとか。イギリスには、日本のように、はっきりした桜前線の様な物はありませんが、やはり、春の花が最初に咲き始めるのは、イングランド南西部のコーンウォールなどの地。

コーンウォール州は、切花として販売する水仙(ダフォディル)の一大生産地として知られており、現段階で、世界水仙市場において、イギリスのマーケットシェアは、なんと95%、そのうちの78%は、コーンウォール産であるという事。そこでの収穫期間は、12月と早くから始まり、4月頃まで続きます。ところが・・・

今年は、その広い、コーンウォールの水仙畑で、収穫と出荷に大幅な遅れが出、多くの花が開いてしまい(出荷は蕾のうちにやるのが必須)、そのまま朽ちてしまっているというのです。理由は、ブレグジット。今年1月からの、EUからの人間の自由な行き来が規制されたため、十分な労働者が雇えていないのです。

ダフォディルに限らず、ここずーっとイギリスの農家では、収穫は、主に東欧からの季節労働者や移民に頼っていました。その人たちが、来れない、または、来にくくなって、今年の労働者は、例年の半分近くまで減ってしまっているようです。水仙農家は、地元のイギリス人も雇用を試みたものの、応募してくる人もあまりおらず、実際、働き始めても、天気が悪い、疲れる、などで、2,3日で来なくなってしまう事が往々。もともと、ブレグジットの要因のひとつが、東欧からの移民が多すぎる、あいつらが、俺たちの仕事を盗む、といったような反移民感情だったので、なんとも皮肉。

(ついでながら、東欧のおねーちゃんたちなんて、イギリス人よりすらっと痩せていて、こぎれいで、よく働きそうで、気が利きそうな人が多い気がするんですがね、私は。)

収穫されず枯れるダフォディル

食物を育てる農家は、それでも、政府による緊急処置として、ある程度の数の海外労働者を雇えるようなスキームを使用することができるそうなのですが、花の栽培者には、それは適応されていないため、今回の窮境に陥っています。

昔は、農家での季節労働もイギリス人が全部やっていたのです、当然ながら。ケントの田舎を舞台にした、H.E.ベイツの小説「The Darling Buds of May」でも描かれているように。ホップ摘み、いちご摘み、さくらんぼ、りんごなども、イギリス人の季節労働者や、ロンドンの労働階級の家族などが総出で田舎に滞在したりして、行われていた。大学生が、小遣いかせぎにやっていた事などもあったでしょう。思い返すと、私も、日本での学生時代、知り合いがひとり、夏の農家の手伝いに行き、レタスだか、大根だかを収穫などをやっていました。「大変だったけど、面白い経験ではあった」と。

先進国は、やわ、というか、退廃的にになったのでしょうね。重労働は、外人にやらせ、そのくせ、そうした外人を嫌う。外人が入るのが嫌なら、これからは、仕事が無い母国民をいやおうなしに、そういう労働に強いるか、産物の値段が労働不足のために高くなっても、文句を言わず、我慢すべきでしょう。現在、ダフォディル1束は、スーパーで1ポンド。このまま、人手不足が続くと、この値段は維持できない、と水仙農家は語ります。仕方ないですよ、外人も嫌だ、自分たちで摘むのも嫌だ、高値も嫌だなんて、どう考えても調子が良すぎる。

コーンウォール最大手のダフォディル農家の採用広告を見ると、週6日勤務で、週労働時間は48時間、時給は、最低賃金の時給8ポンド72ペンスが保証され、摘んだ量によって上乗せ賃金をもらえるようで、東欧労働者の中では、非常に素早く働き、一日に200ポンドくらい稼ぐ人もいるようです。これを母国に送付して貯めれば、わりと儲けられるというのはあるのかもしれません。

一方、現在のイギリスでは、家の値段や家賃が高いので、イギリス人が、長期にわたって、こうした季節労働だけで生計を立てていき、いずれは家も買いたいとなると、なかなか大変ではあります。そういう仕事も特にいとわないという人でも、実質上それだけは、普通の生活はできない。この国の社会悪の根源は、もとをただすと、高騰したままの家の値段、という事が多い気がします。なのに、政府は、この期に及んで、必死に家の値段を下げないための方策ばかり出している!

ブレグジットで労働者確保を危ぶまれているのは、農業のみでなく、介護師もそう。これから益々、他人に面倒を見てもらわなければ生きていけない老齢者が増える中、こちらも、今まで頼みの綱だった東欧からの人が減ると、花摘み以上の重大問題。コロナ禍で仕事を失くし、求職をするイギリス人若者の中でも、介護だけは嫌だ、と条件を付ける人は多いという話です。イギリスでは資格を要せず、低給料でありながら、重労働であり、今回のコロナでは、看護施設内での感染率も高かったですから。こうした看護師なども、外人を簡単に雇えないとなると、イギリス人にアピールする仕事となるよう、しっかりとした資格制度を整え、人が胸を張ってやるような仕事に変えていく他、賃金を上げるべきでしょうが、そうすると、そのための税金も当然上げる必要が出て来る。

こうした事は、イギリスのみならず、これからの先進国で、ますます問題となっていくのでしょうね。あれもいや、これもいや、と美味しいとこだけ取ろうとし続けるのは、もう無理な段階に達しているのかもしれません。

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