ロンドン市場への七面鳥とがちょうのマーチ

...this county of Suffolk is particularly famous for furnishing the City of London and all the counties round with turkeys, and that it is thought there are more turkeys bred in this county and the part of Norfolk that adjoins to it than in all the rest of England.
..I shall observe how London is supplied with all its provisions from the whole body of the nation, and how every part of the island is engaged in some degree or other of that supply.

For the further supplies of the markets of London with poultry, of which these countries particularly abound, they have within these few years found it practicable to make the geese travel on foot too, as well as the turkeys, and a prodigious number are brought up to London in droves from the farthest parts of Norfolk

They begin to drive them generally in August, by which time the harvest is almost over, and the geese may feed in the stubbles as they go. thus they hold on to the end of October, when the roads begin to be too stiff and deep for their broad feet and short legs to march in.

Tour through Eastern Counties of England 1722 by Daniel DeFoe

と、ちょっと引用が長くなりましたが、訳してみます。

・・・このサフォーク州は、シティー・オブ・ロンドンとその他の州に七面鳥を出荷する事で特に有名である。サフォークそして、隣接するノーフォーク州では、イングランドの残りの州を合わせたより、数多くの七面鳥が飼育されている。
・・・ロンドンがいかに、イングランド全土から必要な食物物資を供給されているか、そして、程度の差はあれ、いかに、この島国のあらゆる場所が、そうしたロンドンへの供給にたずさわっているかがわかる。

ここイーストアングリアで多く、食用のため飼育される鳥類を、ロンドン市場へ、より多く供給するため、ここ数年、七面鳥のみみならず、ガチョウを、ロンドン市場まで歩かせるという事を行っている。ノーフォーク州の彼方の地から、それは多くの数の鳥たちの群れがロンドンへと移動することになる。

通常は、収穫も終わった8月ごろ頃に歩かせ始め、ガチョウたちは、移動中に、収穫後の畑に残った茎や葉などを、10月の終わりくらいまで食べてゆく事ができる。10月も過ぎると道は、ガチョウたちが、幅広く短い足で行進するには、硬く深くなってしまう。

ダニエル・デフォー著「イングランド東部を巡る旅」1722年

これは、小説「ロビンソン・クルーソー」で知られる、ジャーナリストでもあったダニエル・デフォーがイングランド東部の州(エセックス、サフォーク、ノーフォーク、ケンブリッジシャー)を旅した時に、サフォーク州、ノーフォーク州の農家で育てられた七面鳥やがちょうが、歩いてロンドンの市場へと連れていかれる様子を描写しながら、もらした感想です。

最近のクリスマスでは、イギリスのあちこちの食卓の定番になっている七面鳥ですが、16世紀にイギリスへ持ち込まれてから、かなり長い間、高価な食べ物であったため、富裕家庭の食物であり、クリスマスの風習が定着していくビクトリア朝でも、ディケンズのクリスマス・キャロルに描かれている通り、貧しい家庭では、一年に一回のごちそうとして、クリスマスに食べる肉も、七面鳥ではなく、ガチョウであったわけです。実際、七面鳥が、一般庶民が日常的に食べられるような値段になるのは、1950年代になってからなのだそうです。

当然、デフォーなどの時代は、食用の動物を大量に、大都市へ移動させる大型トラックなどなかったわけで、こうして、はるばるイーストアングリアの田舎から、七面鳥やガチョウたちは、ロンドンの市場まで、自らの死に向かって、行進するのが常でありました。所々で、水とお食事休憩をしながら。七面鳥は、この旅行中、毎夜、灌木や林などの木にとまらせて眠ったのだそうです。

こうした行進は、当然、鳥類だけに限らず、牛や羊などの家畜も同じで、牛たちは、イギリス各地から歩いて、ロンドンのスミス・フィールドなどに到着し、周辺の屠畜所でさばかれて、販売され。鳥類は、フォーリナー(ロンドンっ子以外のよそ者)が販売を許されたレドンホール・マーケットなどの市で売られていました。ロンドンっ子が、他の地域から来た母国の人間を、今は「外人」の意味である、フォーリナーと呼んだというのも、面白いです。

イーストアングリア地方で生まれ育った七面鳥やがちょうたちは、こうしたロンドンへのマーチが始まる前、なにせ長距離であるため、デリケートな足が傷つかないようにと、足の裏に砂の混じったタールを塗ったりする処置をうけたそうです。場合によっては、ブーツを履いて歩いたとやら。七面鳥やがちょうのためのブーツってどんなもんだったんでしょう。 

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現在に舞台をもどして、

イーストアングリア地方、特にノーフォーク州での七面鳥の飼育は今でも有名です。その辺の野原や、林などの戸外で健康的に育てている農家もあり、品質で知られているものも多くあります。当然、出荷がピークに達する時期はクリスマス。

最近のブログポストで何回か言及したように、EU離脱とコロナの影響で、屠畜場、パッキング工場、配送運転手など、かつては多くの東ヨーロッパからの人出でまかなっていた一連の関連業界が、彼らがヨーロッパへ帰ってしまった事で、人出不足に陥り、すでに、今年は、そういった農家が飼育している七面鳥の数自体が少ないとかで、イギリスの国産七面鳥を入手したい人たちは、すでに購入して、冷凍庫に突っ込み、クリスマスに備えているなんて話もあります。その、例年より減った七面鳥の数ですら、農家によっては、市場にすべて送れない可能性があるようです。

クリスマスまであと2か月ちょっと・・・イギリスの七面鳥業界はどういう事になるでしょうかね。サプライチェーンに支障が出たからと言って、ロンドンまで直に行進させて、勝手に殺して、売りさばくことは、今の世ではできないですから。

コメント

  1. Miniさん、こんにちは
    クリスマスには、七面鳥を食べることができましたでしょうか?
    こちらは、ゴールデンウィークも残すところ1日となりました。記事を拝読してから、デフォーの旅の本の邦訳が読みたくなり、図書館などで探しましたが、残念ながら見つかりませんでした。代わりに伝記を色々、読むことができました。経済の本や、政治のパンフレットを書いたり、諜報活動をしたりと多才というか、波瀾万丈というか。。。デフォーの旅、またご紹介いただけると嬉しいです

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    1. こんにちは、お久しぶりです。最近、ブログ放置状態で。面倒になっていたのと、意味不明スパムコメントが連続で入り、げんなりしていたのもあります。ご訪問うれしいです。
      デフォーは面白い人ですよね。一時はレンガ製造業にも手を出して、彼の会社が作ったレンガを使った建物がグリニッチにあります。この本は翻訳されていないのかもしれませんね。先ほど、青空文庫を見たら、デフォー作品がひとつしかなく、びっくりしました。クルーソーすらないので。こちらは、翻訳者の著作権問題かもしれません。では、そのうちに、この本の事をまた書くようにします。

      GW最後の日をお楽しみください。
      (七面鳥は我が家では食べませんでした。)

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    2. 楽しみにしています!

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