ソファーベッドの修繕

「upholster」(アップホルスター)という、あまり日本の人にはなじみのない言葉があります。ソファーやアームチェアーなどの家具の骨組みの上に、スポンジやら、ばねやらを配置し、その上から、布や皮を張る事を指します。手持ちの英和辞典で引いてみると

1.(椅子・ソファーなど)に覆い(スプリング、詰め物、クッション)を取り付ける

2.(部屋など)にカーテン(カーペット、家具)を取り付ける

そして、そういう作業を行う業者は、「upholsterer」(アップホルスタラー)と呼ばれます。この人たちは、椅子などの布張りのほかに、カーテンやブラインドなどを窓のサイズに合わせて作るなど、主に布関係の室内装飾なども扱います。ここで、また、英和辞典にお世話になると、

室内装飾業者、椅子張り職人

とありました。

フレーム自体はしっかりしているものの、家具の内部のばねやスポンジが時と共にぐたっとなり、また、覆っていた布なども擦り切れてしまった時、捨てて、新しいものを買う代わりに、修繕しようと決めると、この「upholsterer」さんが必要となります。

だんなが約30年に買った、我が家の居間のソファーベッドは、もう、そのまま使うには限界に達していました。布はあちらこちら擦り切れ、アームの部分は下のばねの形が、浮き出て見えるほど。クッションもべたっとなり、せんべい座布団さながらの、あわれな風情をかもしだしておりました。当然、座り心地は最悪。ベッドとして使うのは、泊り客が来た時のみなので、使っても年に1,2回、よって中のマットレスはまだ使える状態だし、フレーム自体はしっかりしている。パーカー・ノル(Parler Knoll)という、わりと名の知れたメーカーのものです。

そろそろなんとかしなければ、と考えていたところ、隣町に、評判の良いアップホルスタラーを見つけ、電話で見積もりを頼みました。ソファーの写真を送ってくれと言われ、送ると、材料費込みで、大体、このくらいが目安です・・・と教えられた金額は、比較的低価格の新しいソファーベッドが買えるほどのものでしたが、安物買っても、何年もつかわからない、なら、直してもらおう、ということに決定。業者も、パーカー・ノルのソファーの修繕依頼はわりとよくある、と言っていました。

話が決まると、それでは、新しい布地を選びに来てくれと言われ、出かけていきましたが、そりゃ、頭がくるくるするほどたくさんの見本を見せられ、決めかねていますと、一日の光線の変わり方、雨の日、晴れの日の違いで、同じ布でもいろいろ違って見えるから、サンプルを持って帰って、部屋に置いて、しばらく考えてみたらどうかと言ってくれ、3冊の分厚い布地サンプルを持って戻り、気に入った布地を言われた通り、朝夕見比べて、わりとすぐに決定。のちに、業者のお兄ちゃん(と言っても、30後半くらいですかね)がやってきて、実際にソファーを見た後、使う布地、新しいばねなどの材料費も込みで、正確な見積書が到着。それにOKを出すと、とりあえずは、材料を発注する前に、費用の半額を払い、材料がすべてそろった約3週間後、作業を始めるため、ソファーを取りに来ました。

このお兄ちゃん、どうしてこの世界に入ったのか、なんて話を聞いてみると、なんでもお母さんが、カーテンの裁断やら、椅子のアップホルスターなどを自分で器用にやる人で、子供のころから、そんなのを見ていて、何となく興味を持ったのが最初。高校時代に、土曜日にアップホルスタラーの工房でバイトをし、それを職業にしたいと決めたそうです。で、大学にはいかずに、ロンドンにあるその手の専門学校で学んで、起業。今では、奥さんも含め、人も何人か使っている、かなり大きな工房経営者です。こうやって、幼少のころから自分の道を「これじゃ!」と決められる人って、つくづくうらやましいなと思います。彼にしてみれば、今は子供のころ夢見た生活をしてるわけですから。まあ、自営業は、いろいろ大変なことはあるんでしょうけどね。

ということで、ソファーを持って行って、約10日で、できあがり、昨日、配達してもらいましたが、まるで違うソファーのよう。まあ、それはそうですよね。同じなのは、中の金属のフレーム部分だけですから。前のソファーは、当時、そういうのが流行ったのか、クッションの下の部分が、カーテンの様な、ひだになってたのですが、最近はちょっとダサいと思われるスタイルなので、アップデートで、きっちりと布を張り、また、簡単に動かせるよう、四隅についている、ごろごろローラーをかくすように、木製の足をつけてくれて、前より、シック。ぴっかぴかのソファーに座ると、気分も違ってくる。

ベッド部分のフレームの裏の布地も交換してくれて、そこに縫い付けてあった、メーカーの名が書いたラベルも、ほどいて、きちんと新しい布地に縫い変えてくれていたのも、気の利いたタッチです。

あんまり奇麗にやってくれたので、だんなが両親から受け継いだ、オークでできたダイニングセットの、ダイニングチェアの座席部分のアップホルスターもやってもらうことにしました。これは、10年くらい前に、私が、スポンジやら、使い古したTシャツやらをつっこんで、悪戦苦闘してやってみたんですが、なんともいびつで、ずーっと気になっていたんです。ただ、座れないことはないし、使った布の模様も気に入っていたので、そのままになっていて。彼に、「これもやってもらいたいんだけど。全部で6つ。」と、この椅子の座る部分を見せた時(座席部は落し蓋式になっているので、椅子全体のフレームからの取り外しが簡単です)、それを手に取って、まじまじと眺め、かすかに、独り言のように、「ぼこぼこしてる・・・」とつぶやいたのが、なんともおかしいやら、情けないやらでしたが。ということで、そのうち、また、ダイニングチェア用の布地を選びに、出かけてきます。

家族代々受け継がれてきたり、幼いころに使っていた、今は古ぼけ、多少傷んでしまっている色々な物(家具に限らず)を、専門家が手をかけて修繕して元に近いコンディションに戻す、というThe Repair Shop(修理屋)というBBCのテレビ番組が、昨今、人気です。依頼者は、もう、くたくたになっていた長い間の所持品が、輝くように生まれ変わるのを見て、目をうるうるさせたりもするそうです。実は私は見たことないんですけどね。うちは、もう、今更、大きな家具を買う事などは、ほとんどないでしょうが、まあ、どんなものにしても、ちょっと古くなったら、こんなの捨てて、新しいのを買おう、と思うようなものでなく、修繕してでも使い続けたい、と思えるものを買いたいですね。

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