映画「エクソシスト」の印象

映画「エクソシスト」(The Exorcist)の公開がアメリカで始まったのは、1973年12月、およそ50年前となります。 それは、話題の映画でした。

悪魔に取りつかれた少女リーガンの首がくるくると360度回るところ、白目をむいて、どばーっと緑色のどろどろ液を口から吐き出すところ、などのえぐいシーンもありながら、ポスターに選ばれた、この映画の決定的なイメージは、エクソシストとして悪魔に立ち向かうため、メリン神父が、タクシーを降り、少女のいる館の前にたたずむ、あの場面。悪魔のいる2階の部屋から、ぼあーっと光が漏れ、これから始まる2人の決闘を思わす緊張感もあります。

過去の数々の映画のポスターの中で、これくらいインパクトがあるものってあまりないのではないでしょうか。これを書きながら、今、ぱっと考えたところで、頭に浮かんだのは、オードリー・ヘップバーンが黒のドレスに長いたばこのスティック(?)を掲げている「ティファニーで朝食を」とか、「風と共に去りぬ」あたり。あと、やはりホラーで、ジャック・ニコルソンが狂気の顔をドアの間からのぞかせている「シャイニング」のポスター。それだけ、映画のイメージをひとつの絵、写真に集結させ、しかも独り立ちさせても、それなりに見れるっていうのは難しいのかもしれません。考えれば、もっと色々思い当たるのか・・・。印象に残る映画ポスタートップ10なんてのをやってみても面白いかもしれません。

なんでも、エクソシストのこの場面は、ベルギーの芸術家、ルネ・マグリットの絵「光の帝国」から影響を受けたものなのだそうです。空は青空なのに、前景の木々と建物が夜のように暗く、それが、街灯と窓からの明かりで照らされている絵です。マグリットは、この「光の帝国」シリーズを全部で27描いているそうで、きっと、こだわりがあったのでしょう。うち17枚が油、残り10枚がガッシュ。一瞬ぱっと見るとありそうな風景、でも実際はありえない、不思議な風景。影響を受ける・・・というか、人間、かつて見たもの聞いたものの印象が頭のあちこちにひっかかっていて、何かの拍子で出てくるものです。映画監督に限らず、クリエーターの人たちが色々、外のものを吸収しようとするのは、こうした数々の印象の断片を脳の中にコレクションして、何かを作るときに、そうしたものが、引き金として、役に立つからでしょう。

実に久しぶりに、エクソシストを見たので、こういう話をしているわけですが、改めて、ホラーというジャンルを抜けてもいい映画だなと思いました。というか、夜中にトイレに行けなくなるような怖さはないですね、この映画。どちらかというと、人間ドラマとしてみました。これを見た直後に、今まで見たことがなかった「ポルターガイスト」を見て、それと比べて、ますます、よく見えるというのはありますが。

何がよかったかと言われると、登場人物がすべて、2面的でなく、ちゃんと肉付けして描かれていることでしょうか。それぞれの過去を持って、それぞれの生活をし、たまたま起こった悪魔の事件に巻き込まれる、といった具合に。彼ら一人一人の人生を追ってみても、それなりに面白いんじゃないかと思える。脚本を担当し、原作者でもあるウィリアム・ピーター・ブラッティは、キンダーマン警部がお気に入りキャラだそうですが、私も、人の好さそうな彼が出てくる場面は、テンション高いドラマの中でほっとできる要素となっていて好きですね。また、悪魔の場面以外でも、映像がいいですし、いわゆる、スターを一切採用しなかったというのも、ある意味、話に集中できて、利点になっているかもしれません。

一方、ポルターガイストは、平面的に描かれた、ごく典型的な良きアメリカの家族が、家の中で物がどかどか動くのに、ギャーギャー騒ぐだけの映画・・・という感想を持ちました。実は、最初の30分だけ見て飽きてしまい、途中飛ばして、最後の5分を見て、「あ、全部見ないでよかった」と思った次第。

エクソシストのオープニングは、メリン神父が参加している北イラクの遺跡発掘シーンなのですよね。この部分は、きれいさっぱり忘れてました。

映画の中で、目をそむけたくなったのは、リーガンが悪魔に取りつかれているシーンより、彼女が、病状判定のため、脳の血管造影を経験する場面。首筋にぶすりと針を突き込む医療手段が、それは恐ろしかった。実際、公開当時、この場面で気分を悪くする人が続出したようです。

エクソシストと悪魔のバトルが始まると、二人の牧師の吐く息が寒さで白い。これは、部屋の温度を0度以下に下げて、本当に寒い中での撮影だったようで、役者は大変だったでしょうが、臨場感はばっちり。

当時、「オーメン」、「キャリー」、「サスペリア」など、オカルトブームがありましたが、そのどれと比べても光っている。オーメンは話自体より、あの薄気味悪い、不協和音の教会音楽が怖くて耳から離れず、キャリーは最後のドッキリ場面でちょっと怖かった程度、サスペリアは、「決して、ひとりでは見ないでください」のコピーしか覚えていない。怖いといえば、西洋の映画では、やっぱり上にも書いた「シャイニング」が怖かった。特に、ホテルの廊下を男の子が三輪車で走る様子、そして、廊下のむこうに惨殺された少女たちがたっている場面。あれは、女の子たちの顔の気持ち悪さもさることながら、子供の目線で廊下を追っていく撮り方の上手さかなと思います。

一般的に言うと、日本の幽霊のほうが怖いかな、という気もします。うらめしやーって雰囲気のやつが。「リング」のおねーちゃんが、テレビの中から這い出してきて、自分の前に立って目をむいたら、本当に、「ぎゃー」と叫んで、心臓まひで死にそうな気がしますよ。墓場なども、西洋の墓場より、なぜか、卒塔婆が並ぶ日本の墓地のほうが、私には、薄気味悪い。

「エクソシスト」も、2,3と続編が作られたようですが、評判はいまいちですね。やめときゃよかったのに、っていう結果のようで、こちらは見ようとは特に思ってません。ご本家は、いつかまた、見ることもあるかもしれません。

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