イギリスの中世のお祭り(メディーバル・フェア)


 毎年、このくらいの季節になると、近くの教会(上の絵右手後方)から、Mediaeval Fayre(メディーバル・フェア、中世の市・祭り)開催のお知らせのビラが届けられます。コロナ禍のため、去年、一昨年と、2年続きで、この中世フェアは催されていなかったのですが、今年はちゃんと、やりますよ、とうれしいお知らせ。

うちの町のメディーバル・フェアは、だいたいの場合が、6月後半の土曜日の午後で、教会の敷地内に、色々な屋台が立ち、ちょっとした余興が催され、2ポンドほどの低額の入場料を取りますが、売り上げは、教会建物のメンテ、修復作業費用などに回されます。14世紀に遡る教会なので、きちんとメンテしてもらって、ずっと立っていてほしい。

主催者たちや参加者は、中世風の衣装を着て、昔ながらのフェア(市)の雰囲気を盛り上げ。ちなみに、Fayreとは、 昔の英語のスペルで、Fair(市)の事。日本語の「いち・市」に当たる言葉に、フェア(Fair)とマーケット(Market)がありますが、その違いについては、以前の記事(バーソロミューの市)に書きましたので、ここでは省略します。もっとも、この教会のある小さい丘は、昔はマーケットが開かれていた場所でもあります。

さて、このお知らせのビラには、いつも、屋台で売るための物の寄付を募り、それを回収に来る日時の知らせも書かれています。この回収日は、いつも、週日の6時過ぎで、大体の家庭が家に帰っている時間。この寄付のお願いの記述が、ちょっと面白いので、ここに書き写してみます。

まずビラの、最初の部分に、「このメディーバル・フェアは、教会の年中行事の中でも重要な資金調達のためのイベントでもあり、教会は、他の慈善団体同様、コロナ禍での寄付金の減少に悩まされていました。とはいえ、支援してくれる方々も、物価上昇に苦しんでいる今日この頃、販売品の値段は通常と同様にしたいと思っています。」と書かれてあり、屋台で販売するものの寄付を募る部分に、

Will you please donate a bottle of wine or pop or something? Please note that goods must be within their use-by-date.

ワインや清涼飲料の寄付をお願いできますか?品物は、賞味期限が切れていないものをお願いします。

と、これは飲み物の屋台のための寄付を頼んでいるもので、賞味期間が切れてないものってのは、当然ではあります。続けて、

Items for other stalls- White Elephant; Bric-a-Brac; Books; Jigsaw Puzzles; Toys - are also most welcome - almost anything you can spare (not large furniture or analogue TVs).

Our helpers will be collecting items in this area on xxxxx.

他の屋台のために、不要なもの、装飾品、本、ジグゾーパズル、おもちゃなど大歓迎。いただけるものは、大体の場合何でも歓迎します。(ただし大きな家具類や、アナログテレビはご遠慮ください。)このエリアには、xxxxに回収に伺います。

なんといっても、カッコ内の「アナログ・テレビはご遠慮ください」が可笑しくて、「そんなのを寄付しようとした人が過去にいたのかね」、と、だんなと話題になりました。だんな曰く、「いたんだろう。これを機に、ただでゴミ処理しようなんて奴もいるだろうから。」たしかに、巨大家具や、アナログ・テレビなんかは、いらなくなったら、自分で、車に積んで、そうしたごみ処理場へもっていくか、自治体に回収してもらうかですが、回収してもらおうと思うと普通はお金とられますので。

文章中の、「White Elephant」と 「Bric-a-Brac」という言葉になじみのない方もいると思うので、ここでちょっと説明を加えておきます。

「White Elephant」とは、文字通り訳すと白い象ですが、シャム(現タイ)などで白い象は神聖視されていたそうで、他の普通の象などのように労働や輸送などに使用されずに、大切にされていたとのこと。(上の絵はウィキペディアのWhite Elephantのページより拝借。)そこで、シャムの王様は、気に入らぬ家臣に、白象を送った・・・それというのも、何の役にも立たないけれど、大切なものと考えられている白象を邪険に扱う事も、捨てる事もできず、その人物は、白象飼育にかなりの財産を費やし、時に破産に追い込まれるという、恩恵と見せかけた、婉曲的な意地悪です。そこから、ホワイト・エレファントは、コストばかりかかり実用価値のない品物・建造物・インフラ、必要のない所持品、役に立たないもの、などという意味に使われています。まあ、だから、ビラの意味では、「買った(もらった)はいいが、自分には不要とわかった品物」みたいな感じですね。また、政府が、高額をかけて作ったけれど、誰も使わず、役に立たない高速道路なんてのも、ホワイト・エレファントです。

「Bric-a-Brac」は、骨董品と形容するほどの価値のない装飾品類。飾り棚やら、マントルピースの上に飾るような置物類。どこかへ旅行に出た人からもらう、ちょっとしたお土産なんかもこのたぐいですね。語源は、古いフランス語でアトランダム(無作為、手あたり次第)を意味する言葉だそうで、なんか適当に買い集めた物、といった雰囲気でしょうか。

自分にとっては、White Elephant であれ、ほこりがたまるだけで、特に愛着もないBric-c-Bracであれ、欲しいと思う人はどこかにいるわけで、こちらのイディオムでいわく、

One man's trash is another man's treasure. 

(ある人物には、ごみの様な物も、他の人物には宝。)

町中にあるチャリティーショップや、こうしたお祭りなどで、イギリスでは、中古品をその辺で入手したり、寄付したりするのが比較的簡単で日常茶飯事。しかも、その売り上げでもうかる資金が、何かしらの役に立つなら、それに越したことはない。これは、日本でも取り入れて欲しいなと思う事のひとつです。

こうした中世風のお祭り、村をあげてのフェスティバルなどは、うちの町だけに限らず、イギリス各地で、夏に盛んに催されますが、場所によっては、Fair フェアでなく、Feteと称して催すところもあります。Feteは、文字だけ見るとフィートと発音してしまいがちですが、英語の発音はフェイト。もともとは、フランス語で祭りを意味する「Fête」が語源。また、上述した通り、うちの町のように、Fairという現在のスペルを使わず、中世風の昔のスペルで「Fayre」と書いている場所も多々あります。Fairでも、Fayreでも、Feteでも、コロナの間行われなかった行事が、再開されるのはうれしい事です。

ということで、寄付するための、清涼飲料水のボトルを一本、もう読まない、見ないと、決めた本とDVDをいくつか、まとめて袋に入れました。

実際の、メディーバル・フェアの日は来週の土曜日。教会は、歩いて5分とかからない場所なので、ひやかしに行こうと思っています。出かけた場合の報告は、その後、当ポストの最後に追記として書き足すつもりでいます。

追記 6月25日


2時から5時と比較的短い時間のフェアで、わりと遅く4時を回ってから入ると、いくつかの屋台はもう閉まりかけ。だんなと一緒に教会に行く途中で、近所のおばあさんを誘いに寄ったのですが、彼女は、もうすでに開く2時前に列を作って入ったとかで、植物の屋台で買った夏の花の鉢を5つほど見せてくれました。私が植物コーナーを覗いた時には、もうほとんど、買いたくなるような植物は残っていなかった。なるほどね、こういうのは早めに入った方がいいわけで。ほかの屋台には特に欲しいものもなく、教会の裏で、おじいさんバンドがジャズの演奏をしていたので、ここで、しばらく藁でこさえたベンチでこれを聞いて、ただのんびりと雰囲気を楽しみました。


物を投げてココナツを落とす遊びや、立っている男の子の顔に水にぬれたスポンジを投げてあてる遊びやら(これがわりとおかしくてしばらく眺めていましたが、さすがに写真は撮りませんでした)、と余興も色々あり。昔風アーチェリーコーナーが、大人に人気で、列ができていました。

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