医療崩壊が起こった時、誰を救うか?

イギリスのロックダウンが始まってから1週間以上が経ちました。感染の急増は続き、死者も増え、特に感染者の多いロンドンでは、ロイヤル・ビクトリア・ドックわきにある、巨大イベント催事場であったエクセル・センターが急遽、軍によって、多くのベッドを備える病院と変身。ナイチンゲール病院と命名され、1~2週間後にやってくるのではと言われる、感染ピークに備え、今週金曜日から患者の受け入れに入ります。このロックダウンを、国民がきちんと守ったと仮定しても、その効き目が見え始めるのは、まだ先の話です。

とにかく、政府の対応が遅かったため、イギリス医療機関のNHSでは、医者や看護婦が、新型コロナウィルスの患者を治療する際に、感染から身を守るための、マスク、ゴーグル、エプロン、手袋さえがいまだ足りていない状態。エプロンなどは、サンドイッチ屋さんでサンドイッチを作るのくらいにしか役に立たないような、ぺらぺらのものだという話。自分で買い求めたり作ったりしている医療関係者、介護関係の人たちもいる、というありさまです。

イタリアでは、すでに多くの医師たちが命を落としていますが、イギリスでも、きっと、同じことが起こってしまうのでしょう。そうとわかっていながら、選んだ職業だから、人命を救うため、と働かなければならないのは、それは、怖いと思います。重症化する要素のひとつとして、どれだけウィルスを浴びてしまったかというのがあるそうで、ほんのちょっとウィルスをもらうだけなら、軽症で済むものも、医療関係者の様に、重症患者をつばのかかる距離で、何人も何人も観ていると、たとえ若いお医者さんたちでも、体が戦いきれず、やられてしまうのだそうです。その上、人一倍のストレスもあるでしょうから。政府はそんな人たちに、「NHSで働く人々はすばらしい。」と口でほめるだけで、彼らを守るための装備もそろえていない。この状況では、ある意味、国が、重症となった比較的高齢の病人たちの命の方に重きを置き、まだ社会で働いている医者たちを犠牲にしていると、言えなくもないです。

また、感染を判明するためのテストも滞っており、コロナ感染の疑いのある風邪の症状を出している医療関係者ですら、テストを受けられずにいるため、医者、看護婦の4分の1の人員が、現在、念のために自己隔離していて、現場で働けない状態。なんで、こんなに、テストの容量が少ないのかと聞かれても、政府はあれやこれやと毎回違った理由を並べて、らちが明かず。これに比べて、質実剛健の国ドイツは、イギリスとは比べ物にならぬほどの大量のテストを行っており、そのため、感染数は、かなりのものでありながら、陽性判明後、ただちに対処できるため、死者が少ない。もともと、「晴れているうちに屋根を直す」というお国柄から、イギリスや南欧諸国に比べ、政府の負債もぐっと少ない上、医療施設も整っているようです。大体、ボリス・ジョンソンと、メルケル女史の顔つきと、そのバックグラウンドを比べただけで、どっちが信頼できるか、わかります。政治家としても、人物としても。かたや、口ではぺらぺらと、意気の上がりそうな、戦時中のチャーチルまがいの事を言って、やることはのろく、ずさん。かたや、寡黙でも、やることはきちんとやる。ドイツの初期の感染者は、スキーリゾートなどで感染した比較的若い人たちが大半であったので、今のところ、死者が少ないという話もありますが、老人層に感染が広がっても、あの政府は、状況に応じ、柔軟に理知的に対処しそうな気がします。

イギリスで、新型コロナウィルスの患者が増える一方、他の病気にかかって治療を必要とする人たちが、二の次となってしまい、癌などの大病にかかっても、全快の可能性が低い患者は、治療を受けられないという話も、浮上しています。

だんなが所属するテニスクラブの知り合いは、すい臓がんと判定され、病院で治療を始めるはずが、病院がコロナ騒ぎでてんてこ舞いとなってきたのも手伝い、自宅でずっと様子を見ることとなってしまっています。ロックダウンになる前に、一度、テニスクラブにやせた姿を現し、プレーできるような元気さはなかったものの、ベンチに座って、周りの人たちとあいさつをし、みんなのプレーを眺めて帰って行ったそうです。コロナ感染がピークを迎えてしまうと、もう、病院での治療はあり得ないと、半分諦めているようで、だんなは、「あれは、クラブメンバーへのさよならのつもりだったのかもしれない。」と言っていました。今の段階で、免疫力の弱い人が病院に入院すること自体も危ないですしね。それでなくても、かなりガタが来ていたNHS。コロナの影響での、こうした、他の治療の延期、キャンセルは増えていき、コロナの死亡人数には上がらない、陰の、こうした間接の死者の数も増えていくのでしょう。

現段階で、過去24時間内のイギリスでの新型コロナによる死者は、今までで最高の393人。総計で1801人となっています。明日はまた跳ね上がっているでしょうが。

北イタリアやスペインでの、崩壊状態に近い病院は、コロナに感染した重症者全員を同じように扱う事はできず、集中治療室での治療を行った場合に、最も回復する見込みの強い人、基本的に若く、他に疾患を持たない人を優先せざるをえない状態であるといいます。この医療関係者たちにとっては、究極の「誰を救って、誰を見捨てるか」の選択を、イギリスでも行うことになるのでしょう。免疫力の弱いうちのだんななども、万が一感染して重症化したら、おそらく、見捨てられてしまう部類だな、と。

まあ、それもあって、70歳以上と、重症化しやすい人たちは、最低3か月、家から出るなのお達しが出ているわけです。自分の身はできるだけ自分で守ってくださいと。入院しても命の保証はしませんよ、と。普通の体の私なども、医療機関がこれでは、これから1年は、どんな病気にもなれないと思っています。

新型コロナウィルスに感染し、全く症状が出ない人というのがいるようですが、そういう人たちも、他人に感染させてしまう可能性があるのだと言います。咳してる人なら、ぴょっと飛びのいて避けられるけど、症状の無い人はわからない。それが怖いですね。自分は、ぴんぴんだから大丈夫とか、ちょっと鼻が出てるくらいだからいいだろう、なんて混んでる場所を練り歩いたり、じーちゃん、ばーちゃんのところに遊びに行ったりして、周りの人を感染させる事もあるわけです。ので、ソーシャルディスタンシングと呼ばれる、他人と話したりするときは、できるかぎり2メートルくらいの距離を置く事が大切となってくる。また、イギリスでの過去24時間の死者の中には、他に何の疾患もなかった19歳も含まれているというので、若い人も油断しないように。社会を守るために、出来る限り、ソーシャルディスタンシングを実行しましょう。日本が気を緩めすぎて、次のイタリア、スペイン、合衆国、またはイギリスとなってしまわないように。

それにしても、志村けんが死んでしまったのには、イギリス内での有名人が死んでしまうより強いだろう、喪失感を感じるのには、自分は、やっぱり日本人、それも、昭和の日本人なのだなと感じます。彼がドリフの見習いとして初めてテレビに出て来たのをいまだに覚えてますもの。平成になってからの日本社会をほとんど知らない私には、帰国した時に、馴染みの顔がまだテレビで活躍しているのを見ると、何か、ほっとするものもありました。彼なども、ソーシャルディスタンシングが日本中いたるところで実行され、注意が行き届いていたら、または、本人が自らセルフ・アイソレートしていてくれたら、かからずに済んでいたかもしれませんね。残念です。

ロンドンの地方紙「メトロ」に掲載された、志村けん死亡に関する記事は、下まで。
https://metro.co.uk/2020/03/30/japanese-comedian-ken-shimura-dies-aged-70-coronavirus-12476543/

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