梅とウィルスの日々

万葉の時代は、花見と言うと、桜花ではなく、梅花であったといいます。すでに温かみを帯びて来た空気の中で開く桜より、まだ寒いうちに咲き始める梅を見上げた時の方が、「ああ、やっと、冬も終わり、もうすぐで春だ。」と強く感じるのは確かです。

今回の、2月初頭から3月初頭の日本への帰国は、新型コロナウィルスが日本国内で蔓延していく中、滞在後半に予定していた、東北の知り合いを訪問する事もキャンセルとなりました。とにかく、長時間、公共交通機関に乗らない方がいいかも、混んだ室内も避けるべきか、さて、それでは、何をしよう・・・と思った結果、梅の花見をテーマに、主に実家から簡単に行ける場所で、観光客の数も少なそうな場所をめぐる日々となりました。

季節ごとにめぐる花暦も、よく見かける鳥なども、当然ながらも、国によって違うものです。イギリスでは見ない、梅の花の蜜を吸いながら枝から枝へ飛び移るメジロの姿を、何回か眺めることができたのも嬉しかったです。

日本より緯度が高いイギリスに比べ、晴れた日は、日差しがぐっと強く、冬でも外に干した洗濯物も乾くのには感激。帰国して2日目に、日焼け止めクリームを購入しました。そして、青空を背景にした、早春の花は、ウィルスの事を忘れさせてくれます。私がいない間、今年のイギリスの2月は、過去最高の雨量を記録したとかで、ぐちょぐちょであったそうですが。

成田山の梅まつりにも、足を運びました。これは週末だったのもあり、参道から、かなり賑わっており、

梅園の中も、それなりの人でした。それでも、人が切れる時はあるもので、しばし、梅の花と香りと私だけ、という瞬間も。

梅の花と香りを独り占め、というと、松戸の戸定邸が良かったですね。梅と言うと、水戸の偕楽園がすぐ頭にあがりますが、偕楽園へ行くには、電車に乗っている時間が長そうなので、すぐあきらめ、その代わりというわけではないですが、水戸家出身の最後の将軍、徳川慶喜の年の離れた弟、徳川昭武の邸宅であった戸定邸を訪れることにしたのです。慶喜も、幾度もこの場所を訪れているという話です。

この邸宅を訪問後、梅園もそぞろ歩き。ひっそり、しっとりとしたこの梅園が特に気に入り、ここには、滞在最初のころと最後のころ、2回足を運びました。

2回目に訪れた時は、ほぼ満開。にもかかわらず、どんよりとした日であったため、他に誰もいない園内で、ゆっくり花見をしました。コンビニから買って来た、あんパンと、カレーパンとお茶で。アンパンもカレーパンも、しばらく食べていない身には、ご馳走なのです!

最初の訪問で、戸定邸の内部を見学した際に、ボランティアガイドさんが、梅は生命力が強く、梅園には、茎が樹皮のみであるのに、延々と毎年咲いている木があると教えてくれ、そのド根性梅も、しっかり見物しました。支えがつけられていますが、確かに、その幹は、厚さ3センチもないような「樹皮」でした。

ひな祭りの装飾があった戸城邸内
ちなみに、この戸定邸に住んだ徳川昭武は、江戸幕府崩壊直前、15歳にして、渋沢栄一などに伴われ、慶喜の代わりに、1867年に行われたパリの万博に参加するべく、渡欧しています。彼らが日本を離れているこの間に、大政奉還が起こってしまうのですが。

2024年からミスター1万円札となる渋沢栄一の事をちょっとは知っておこうと、去年の秋、ちょうど「小説 渋沢栄一」を読んだばかりで、昨日、また本を手に取り、徳川昭武のお供として、パリ万博とヨーロッパ訪問をした部分を読み返しました。この際、彼らは、イギリスにも来ています。この渡欧に刺激された渋沢栄一は、鉄道や銀行システムの導入を初め、日本近代化への尽力を始めるわけです。

邸宅の庭から望める江戸川のむこう側は東京の金町、そこから江戸川に沿って少々南へ歩いたところが、寅さんの故郷である葛飾柴又。

柴又は、今回の帰国で、羽田空港以外、唯一、東京都内で訪れた場所です。帝釈天はもちろん、

レトロな寅さん博物館などにも入り、こちらも楽しかったです。

矢切の渡しは運航をしていなかったので、江戸川を船で渡れなかったのが残念。ただし、東京側の江戸川沿いをかなり長距離歩きました。

さて、梅花に話をもどし。千葉市にある青葉の森公園の梅園もきれいでした。成田山の梅より、本数は少ないはずなのですが、植えてある密度が高いのか、一斉に咲いているというインパクトはより強かったです。

ここを訪れたのは、たしか、学校閉鎖になった直後であったため、家族連れでにぎわっていました。それでも、他人との距離を適当にとりながら楽しめる程度。とにかく、ひろーい公園ですので。

カワヅザクラも、見事に咲いていました。

こちらは、松戸市にある21世紀の森。やはり、かなり広い園内の一角にあった梅園。

こちらの園内は、人がまばらで、時に、速足で散歩をする地元の人っぽい高齢者を何人か見かけたくらいでした。

ウィルスの嵐が吹き荒れる日々の余暇は、こうした、あまり名の知られていない、戸外ののんびりできる場所で、健康的に歩き回り、花を愛で、自然を満喫する、それが一番かもしれません。病気に対する抵抗力もつくし、心が晴れるし。精神まで病んだら、たまったものではありません。

今年は、桜の開花が早く、3月半ばには、関東でも咲き始めるとかで、私も、滞在を伸ばして、桜も見て行きたいと思いもしたのですが、予定通り、先週、イギリスへ戻りました

日本にいたら、今度は桜を求めて、少々ひなびた、自分なりの、マイお花見スペースを探して、歩き回ったかもしれません。母親に言わせると、「わざわざどこかに出かけなくとも、うちのそばの、立派なしだれ桜を、買い物の行帰りに見るだけで充分。」なのだそうですが。実際、毎年、その下で、弁当を食べている近所の人もいるようなのです。

今回、この季節に訪れて良かったことは、梅の他には、実に久しぶりに、私と同じ年のお雛様を、自分で飾りつけすることができたことですね。それこそ、実家のそばの桃の花が色づくころに。オリジナルの飾りケースが壊れてなくなってしまっているので、段ボール箱などを使って段をつくり、空いている所に、置けるものを適当に並べる、いささか、いい加減な飾り具合とはなりましたが。祖母が、あちらこちら見て回った結果買ってくれた、愛らしい子供の顔をしている、我が家のお雛様は大好きです。いずれは、イギリスへ持って帰ることになるかもしれません。

今は、欧州のウィルスの嵐がひどくなりつつあります。制限されていく生活の中で、自分なりの、心を病まない過ごし方を模索していきます。

日本の梅を思いながら、大宰府に流される前に、菅原道真が詠んだという歌を借りて締めくくりにします。これを詠うと、イギリスにも日本の梅が飛んできてくれないかな。

東風吹かば にほひおこせよ 梅の花 主なしとて 春を忘るな

*当記事、最初の写真2枚は、市川市じゅん采池緑地。

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