毛織物業のお役立ち植物、チーゼル
この、トゲトゲ卵型、巨大アザミのような花は、チーゼル。夏には、トゲの間からラベンダー色の小花を咲かせます。日本ではチーゼルの他に、オニナベナ、または、ラシャカキグサとも称されているようです。
英語では「Teasel」とつづられ、発音は、チーゼルというより、ティーゼル。学名は、Dipsacus fullonum。学名の後半部分の、「fullonum」は、「毛織物縮充工(に関する)」の意味があります。ちなみに、この毛織物縮充工(英語でfuller)とは、毛織物を洗浄、収縮、起毛する処置を行った人物の事。かつて、イギリスの毛織物業界では、起毛のために、このトゲトゲ頭のチーゼルがずっと使われてきたので、その用途がそのまま学名になっているわけです。
先月訪れたラヴェナムのギルドホールで、昔の毛織物業の工程を説明する展示物がありましたが、チーゼルの頭をいくつか切り取ってくっつけ、それにハンドルをつけた起毛用器具が展示されていました。
中世のイギリスで、羊毛が毛織物へと変身するまでの過程をざっと書くと、
羊毛を洗い、泥や油を洗い落とす・
羊毛を質と長さにより仕分けする。
羊毛にブラシをかけなめらかにする。
つむぎを専門とする女性(spinster)へ羊毛を持っていく。
つむぎ終わった糸を、染色業者へ。
染色された糸を機織りへ。
織りあがった布は、毛織物縮充を行う水車小屋へと持ち込まれ、そこで、毛織物縮充工は、まず、布を尿や、水と石鹸にひたし、厚みが出るまで布を叩き、洗い流す。
布は、戸外で、木枠にはりつけられ、既定の形と幅に伸ばされ、干される。
仕上げに、チーゼルを用いて起毛させ、表面が均等になるよう、飛び出た部分などを刈り込む。
となります。
中世の時代に、ラヴェナムのような毛織物業を専門とする村や町に住んでいたら、住人のほとんどが、上の過程のどこかに携わって生計をたてていたのでしょう。チーゼルも、染色用に使った植物もそうなら、おしっこもそうですが、とにかく、身の回りで簡単に手に入るものを見つけては、「これはいける」と使用し、慣習となっていた様子もわかります。
秋も深まり、散歩中、にょっきりと背の高いチーゼルの茶色く乾燥した姿が時に目に入ります。さすがに、昨今の織物工場では、チーゼルは使用されていないでしょうから、今は、ちょっと寂しげな風景に味を添えるだけ。それでも、見るたびに、ウールを連想してしまう植物ではあります。
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