未婚女性は糸つむぎ

スピンスター(spinster)という英語は、もともとは、糸つむぎ機で羊毛をつぐむ(spinする)女性の事を指した言葉です。この糸をつむぐという役割が、大方、独身女性の仕事であったため、やがては、スピンスターというと、糸をつむいだ事が無くとも、自動的に独身女性を指す言葉となり、18世紀には、更に、やや年がいった独身女性=行き遅れ、オールドミスのような、あまり有り難くないニュアンスも入ってくるのです。


前回の記事に書いた、メルフォードホールという館を訪れた際、館内の居間のソファーの前に、小さく華奢な糸紬が置かれていたのです。なんで、こんなお上品な部屋に糸つむぎ機があるのだろうと、それを、まじまじ眺めていたところ、案内係のおじさんが近づいてきて、色々、この糸つむぎについて語ってくれました。

産業革命などで、毛織物製造の機械化が進んでいくと、家で糸をつむぐなどというのは、お上品な階級の女性の、趣味のようなものになっていったのだそうです。ですから、こういう居間で、刺しゅうなどをするのと同じ感覚で、毛糸をつむいだりもしたのでしょう。そして、案内係のおじさんは、スピンスターという言葉が、糸つむぎをしていたのが独身女性だったからだ、という事を説明してくれた後、まだ紡いでいない羊毛の上に、青いリボンがからまっているのを指さして、「あのリボンの色によって、糸を紡いでいる女性が、結婚相手や求婚者を望んでいるかどうかがわかるようになっていた。」と。

どの色が、何を意味したかは、忘れましたが、例えば、青のリボンをからめると、糸をつむいでいる女性が、室内にいる男性に対し、「私は恋人募集中よ、話しかけていいわよ。うふふ。」というシグナルを送り、例えば、ピンクのリボンがかかっていたら、「私、恋人いるから、寄ってこないでね。」または、「男要らないの。悪しからず。」などという風になったようです。

独身女性がスピンスターなら、独身男性はバチュラー(bachelor)。バチュラーという言葉は、かつては、「騎士になるべく修行中の若い男性」の意味があったそうです。その後、独身男性、さらには、大学の学士号を指す言葉となります。ちょっと惨めな感じが否めないスピンスターという言葉と比べて、バチュラーには気軽なイメージがある気がします。

イギリスの結婚証書には、結婚する両者の名のわきに、年齢そして、コンディション(状況)を記入する欄があり、ここには、過去に離婚歴がなく、未亡人でもなく、まっさらの独身であれば、女性の場合は、spinsterと記入され、男性は、bachelorと記入されます。未亡人の場合は、女性はwidow、男性は widower、離婚歴があれば divorcedまたは、 marriage dissolevedを記入することとなります。要するに、重婚でなく、結婚できる状態であることを明記するのが目的。なんでも最近は、同性愛者の結婚などを考慮して、このコンディションの欄には、単に両者singleと記入するという話を聞いたことがあります。同性愛者の結婚に出席したことがないので、確認していませんが。

そう言えば、昔日本では、25歳を過ぎて、まだ独身の女性はクリスマスケーキだ、などと呼ばれていましたね。24日までは、クリスマスケーキは売れるけど、25日を越してからのクリスマスケーキは誰も買わないので、売れ残り=行き遅れ、というニュアンスで。結構、酷いこと言っていたものです。現在、24歳で結婚する人の方が少ないでしょうから、巷は、売れ残りのクリスマスケーキだらけという事になってしまう。ですから、これも、今では、あまり意味のない表現でしょう。時代と共に、言葉や表現も変わっていくものです。

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