イギリスの藤の花

 藤(ウィステリア、wisteria)と言うと、日本の子供時代の思い出深い花です。私の住んでいた団地内、あちこちにあった公園には、ほとんどの場合、藤棚が付いていたので。私の家と、幼馴染の家の中間地点にある大きな公園にも、やはり藤棚があり、幼馴染と、夕方どっぶり日が暮れるまで遊んだあと、その藤棚で別れることが常で した。藤棚のわきのベンチで、大人になったら、あれしたい、これしたい、こんな団地から出て行って世界を見る・・・云々のたわいない話をしたのも懐かし く。

日本の団地から出て行った今、こうして、イギリスの藤を眺めています。団地老朽化と人口が減ったための、建て直し作業の結果、将来の夢を見たあの藤棚も無くなってしまい、あそこの藤の花は、今は思い出の中で咲くだけです。

藤は、日本、中国などの東洋と、一部北米が原産ですので、イギリスには、18世紀になってから導入された植物です。それでも、レンガや石造りの屋敷や塀を覆って咲いている様子は、かなりさまになっており、はるか昔から、イギリスにいるような、貫禄の面持をしているものもあります。

稀に見る白い藤も綺麗ですね。こちらは、ハンプトン・コート宮殿の菜園の藤。

イギリスで見た藤で一番見事だったのは、5年ほど前に、見に行った屋敷の庭とその長い壁を覆うものでした。あの頃は、このお屋敷、夏の間は、週に何回か、少々のお金を取って、庭を一般公開していたのですが、なんでも、庭を見にやって来た客を装った泥棒に、2回被害にあい、それに懲りて、もう一般公開はやめてしまい、今は、特別に事前に連絡を取った団体ツアーに見せるだけなのだそうです。なんとも残念。泥棒が盗んでいったのは、庭の道具類の他に、何世代かに渡って受け継がれた、かなり古い彫像類があったそうです。5年前に取った写真に、2つほど、素敵な彫像が写っているのですが・・・これが盗まれてしまったのか!代々受け継がれたものなどは、どんなに金を積んでも、買い替えようがないですから、本当に、頭にくるでしょう。この屋敷の、彫刻を含む敷地内の写真は、過去の記事「焦点になる庭園の石像」、「アン女王のレース」まで。

それにしても、田舎にある教会なども、時々出現する泥棒や、vandal(バンダル、無意味に破壊行為に走る輩)の被害を恐れて、礼拝のある日以外は、ドアに鍵をかけ、閉めてしまっているケースが増えています。ですから、せっかく、内部を観賞しようと思って教会を訪れても、ドアが開かずに、がっかり・・・何てことも多いわけで。ごく、一握りの、しょーもない人間の行為のために、他の人間の無害な楽しみが台無しにされる。まあ、世の中って、そういうものです。世を悪くするのは、ほんの一握りの人間。なのに、その影響は大きく、それをコントロールするのは、非常に大変。

庭の中には入れずとも、外塀を覆う、この屋敷の藤を、今年も見に行ってみました。壁がもろくなりかかっているのか、壁の前には近寄れないようにテープが敷かれていましたが。

道路際の壁の藤に顔を近づけて、香りをかいでいると、2人のサイクリストがそばを通り過ぎ、サドル上で喋っているのが聞こえました。
「あ、ウィステリアだ。ビューティフル!」

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