実写映画「ジャングル・ブック」

「ジャングル・ブック」(The Jungle Book)というと、何と言っても、ディズニーのアニメ版が有名ですが、やはり、ディズニーによる実写版映画が最近封切りされていたので、見に行ってきました。楽しかったです。午前中の回を見に行き、ひっそりした館内には、私を含め観客は4人だけ!しかも全員大人!一番後ろのど真ん中の席に陣取り、ちょっとしたプライベート・プレヴューみたいな感じでした。

実写・・・と言っても動物たちは、本物ではなく、CG。これが、野生動物のドキュメンタリーかと思うほど、それは良くできているのです。私は、ディズニーの3Dアニメの登場人物の、あのビー玉の様な目玉が気持ち悪くて、いまひとつ好きになれないのですが、本物そっくりのここらはいけます。モーグリ役の男の子は、本物の人間(ネール・セティ君)ですが、アニメのモーグリ同様、ざんばら頭にくりくり目玉で、可愛い。アニメでも思ったのですが、モーグリは、腰の周りには、ちゃんとフンドシ風の布を巻いてるんですよね。「この布、どこから手に入れたんじゃ。それに、野生の子なら、振りチンでも、恥ずかしいという感覚はないはずなのに。」と、どうでもいい事も考え。モーグリを小さく見せるためか、動物たちは、ややサイズを、実際より大きめに作ってあるようです。熊のバルー、蛇のカーも、ぬるぬると大きめなら、サルの王キング・ルイに至っては、キング・コング並みの巨大さ。

こういうのを映画館で見るのがいいのは、ちゅちゅちゅという鳥の鳴き声、狼の遠吠え、滝の音などが、自分を取り囲むように聞こえてきて、ジャングルにいる臨場感があること。途中、飛び上がるような場面もあり、小さい子供には、ちょっと怖いかもしれません。

ストーリーは、ラドヤード・キプリング(Rudyard Kipling)著、原作の「ジャングル・ブック」よりも、やはりアニメの方に近くなっています。(原作の筋書きに関しては、過去の記事を参照下さい。)

狼たちに育てられた人間の子、モーグリは、虎のシア・カーンに命を狙われたため、ジャングルを去り、人間の村に移る事となり、クロヒョウのバギーラに付き添われ、人間の村へ向かう・・・その途中で、象の群れ、バルー、カー、キング・ルイを含むサル達に遭遇する・・・という流れは、アニメとほぼ同じで、アニメからの人気ミュージカル・ナンバー3曲も組み込まれています。バルーの歌う「The Bear Necessities」、モーグリを誘惑して飲み込もうとするカーの「Trust in Me」、そして、キング・ルイの「I wan'na be Like You」。アニメのジャングル・ブックを見て育った世代には、懐かしいところでしょう。これ、みんな声を出してる俳優たちが歌っているということ。ちなみに、声は、バギーラがベン・キングズレー、バルーはビル・マーレイ、カーが色っぽい声のスカーレット・ヨハンソン(女性のカーというのもなかなかイメージ的に良かったです)、キング・ルイはクリストファー・ウォーケン。時に、こういう声だけの吹き替えも、俳優は、自分の体から解放され、やっていて楽しんいでしょうね。スカーレット・ヨハンソンは、「her/世界でひとつの彼女」の中で、コンピューターのオペレーションシステムであるサマンサとして、声だけで、大の男を魅了し、その彼女となる役として記憶に新しいですし。

今回のジャングル・ブックが、アニメから、筋が少々離れるのは、虎のシア・カーンが、モーグリが狼の群れとジャングルを去ったことに満足せず、どうしてもモーグリを殺したい、そこで、モーグリを、再びジャングルの中心に引き寄せるために、狼の統領であるアキーラを殺してしまう、というもの。アキーラがシア・カーンに殺された事を知ったモーグリは、人間の村から松明を盗みシア・カーンの待つ狼たちの根城に戻って、対決となる・・・というクライマックス。この時、松明の火の粉が落ちて、森林の火災が発生してしまうのですが、これには、カナダの大火災のニュースがだぶって頭に浮かびました。シア・カーンに、「おまえは、火を使って、野生を滅ぼす、典型的人間だ」の様な事を言われ、なじられたモーグリは、恥じて、松明を川の中に投げ込んでしまう。他の動物たちに助けられながら、モーグリは、一人、シア・カーンを燃える森の中の枯れた木の上におびき寄せ、やがてシア・カーンは、木から燃える炎の中に転落して死亡。その後、モーグリは、ゾウ達を指示して、川の水を迂回させ、森林の火を消して、めでたし、めでたし。アニメでは、最後は、人間のかわいこちゃんに心惹かれて、村へ戻るモーグリですが、こちらでは、ジャングルで、またしばし、動物たちと一緒に平和に暮らす・・・という結末。すでに続編が予定されているという話なので、続編で、モーグリは、人間の村に帰るのかもしれません。

モーグリは、水を飲むのに、バケツの様なものを作って使用したり、バルーのため、崖の上にある蜂の巣を取るのに、巧妙な仕掛けを作ったりするのですが、バギーラは、それを「トリック」と呼んで、感心せず、モーグリに、トリックを使うなといつも叱っていたものの、深い穴に落ちてしまったゾウの子供を、モーグリがつるをロープ代わりとして、助け出すのを見て、バギーラの、「トリック」に対する見方が変わっていくのです。要は、映画のメッセージとして、人間の知識、科学、技術といった「トリック」も、善意を持って、自然の保護、生態の維持、などの良い方向に使用すれば素晴らしきもの、という事でしょう。最後に、ゾウ達を指揮して、火災を消し止めるなんてのもね。

人間の営みが自然の破壊に繋がる、という象徴に火が使われているわけですが、キング・ルイは、この火に執着を持ち、モーグリを身近に置くことで、火を操る技術を身につけ、ジャングルを支配したいという、アニメにはない野心を持って描かれています。

さて、ディズニー映画の「ジャングル・ブック」は、これが3作目。1作目は、おなじみ1967年のアニメで、2作目は、1994年の、CG無しの本当の実写の「ジャングル・ブック」。この2番目の実写は、アニメと今回の映画よりも、更に、原作からかけ離れて、完璧に違うものになっています。それなりに、アドヴェンチャーものとして見ると、かなり面白く、見て損はない映画ではあります。ただし、この映画も、純粋に子供向けにするには、わりとエグイ場面もあり、特に、砂地獄で、悪役の一人が死ぬところなど、悪夢を見る子供もいるかも。

モーグリは、子供というより、青年になってからの話で、風体は、ターザン。また、インド駐屯のイギリス軍将校の娘キティーが、性格の悪いイギリス人の兵隊と結婚を前提としたお付き合いをしていたものの、モーグリに惚れてしまう、というのは、

1992年の、ダニエル・デイ・ルイス主演、「ラスト・オブ・モヒカン」(The Last of the Mohicans)ののりです。これ、封切りしてすぐに、映画館で観たのですが、「No matter how long it takes, no matter how far. I will find you!  どんなに時間がかかっても、どんなに遠く離れていても、必ず君を見つけ出すぞ!」と、愛する女性に言い残したダニエル・デイ・ルイスが、ざーっと流れる滝つぼの中に飛び降りるシーンを、友人が、それは何度も、「素敵~、かっこいい~。こんな事言われてみたい~。」と騒いでいたのを覚えています。家柄の良いイギリス人美女が、キザで性悪のイギリス兵より、心暖かく勇敢な野生的男性を選ぶ、というやつ。この「ジャングル・ブック」の中でも、同じように、モーグリが、一時キティーのもとを去って、滝つぼに飛び込むシーンがあったと記憶します。パクりかな。

モンティ・パイソンのジョン・クリーズが、イギリス人の科学者として、野生の子で人間の言葉を解さないモーグリが、イギリス駐屯基地に連れてこられた際に、英語と、マナーを教えるという役で登場し、コメディータッチを加えていました。

黒ひょう、熊、蛇、サル、そしてシア・カーンも、一応みんな登場するのですが、確実に脇役風で、言葉は一切発しません。モーグリは、最後に父を殺したシア・カーンと遭遇し、眼力で(!)シア・カーンを抑え、人間ではなく、動物として、シア・カーンの尊敬を買い、共存する、という事になっています。そして、当然、悪いイギリス兵たちは皆命を落とし、最後に、モーグリとキティーとは結ばれる・・・と。

ともあれ、今回の3作目のディズニーの「ジャングル・ブック」、都会の雑踏から離れ、しばしジャングルにどっぷりつかり、リフレッシュして映画館を出ました。バルーの歌うように、「Forget about your worries and your strife」(心配も奮闘も忘れ)です。

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