春を告げるイングリッシュ・プリムローズ

イングランドでは、ラッパ水仙のまぶしい様な黄色もそろそろ盛りを通り越した感があり、気がつくと、庭では、チューリップの蕾が色づき始めています。

町に買い物に出た帰りに、商店街のそばの教会の墓地を横切りました。そして遭遇したのは、墓石のまわりに集まって咲いていた、クリーム色のプリムローズ。ラテン学名「Primula vulgaris」 。英語では、Primrose、English Primrose、Common Primroseと呼ばれるもので、イギリス原生の野生の花です。プリムローズは、よく日本語でサクラソウと訳されていますが、イングリッシュ・プリムローズは、日本のいわゆるサクラソウ(Primula sieboldii、 Primula japonica)とは、同じサクラソウ(プリムラ)属でも、別種のものです。

プリムローズが大好きな人物として、まず、頭に浮かぶのは、ビクトリア女王お気に入りの首相であった、ベンジャミン・ディズレーリ(Benjamin Disraeli)。女王は、よく、ディズレーリにプリムローズのブーケを、プレゼントに贈っていたようですし、ディズレーリの葬式にも、傷心の女王は、プリムローズの花輪を送ったと言われています。このため、折しも、プリムローズが満開の時期に当たる4月19日のディズレーリの命日は、プリムローズ・デイなどと呼ばれています。

また、こちらの有名園芸家も以前、ラジオで、一番好きな花を聞かれ、「ひとつだけ選ぶのは、難しいけど、多分、春を思わせるプリムローズかな。」比較的、地味な雰囲気の花ですけれど、たしかに、3月4月に野や森林を歩き、(または、私の様に墓場を歩き)、プリムローズの群生を見つけるのは、うれしいものです。最近、特に、町に住んでいると、プリムローズが一気咲きをしているのを見れる場所が限られている気がしますし。ブルーベルなどと同じく、自分の庭に植えたり、販売しようという目的で、野生のプリムローズを、根こそぎ掘って盗んでいく人がおり、数が減少しているという話も聞いた事があります。一応、法で守られているはずなのですが。ラテン名の「Primula vulgaris」の、vulgarisは、「一般的な、よくある」の意味なのですが、名とは裏腹に、あまりお目にかかれなくなってしまったら、寂しいものです。こういう花泥棒は、罪ですよ!

プリムローズは、田舎道の道端や、こうした墓場の様な人気のない草むら、森林の間に間に咲き、色は、前述の通り、ほとんどの場合、黄色がかったクリーム色。まあ、これだけ咲いていれば、全滅することはないでしょうか。

冬からこの季節にかけて、盛んに庭で栽培される、カラフルなポリアンサス(プリムラポリアンサス)は、このイングリッシュ・プリムローズや、他のヨーロッパ原生のプリムローズを、ガーデニング用に、交配、開発したもの。プリムラポリアンサスも、ご先祖様と同じく、寒さに強く丈夫。パンジーと共に、まだ他に鮮やかな色の花が咲いていない、早春の庭をぱっと明るくしてくれる重宝な花です。

私以外は誰もおらず、鳥がぴーちくぱーちく唄うだけの墓地を更に奥へ進むと、普通のプリムローズに混ざって、少し色のついたものが、咲いているのに目が留まりました。まれにピンク系のものがあるという話ですので、それでしょう。または、墓石のまわりに誰かが植えたポリアンサスが混ざって生えてきたのか。淡い色で、綺麗でした。

イギリスの教会の墓地は、大体において静かで、自然が楽しめ、ちょっとしたオアシスです。古めかしい墓石に刻まれた名前などを、読んだりして、かつてのこの町の住民達の生活などに思い巡らせるのも一興ですし。

今は誰も訪れなくなった墓にも、プリムローズは毎春、忘れず顔を出します。

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