セント・キャサリンズ・ドック

セント・キャサリンズ・ドック(St Katharine's Dock)は、ロンドン塔(Tower of London)のすぐ東に位置する、かつてのドック(埠頭)。なにせ、ロンドンのシティーから近いですので、今は、高級ヨットの停泊するマリーナ、そして、店舗、カフェ、オフィス、高級アパートと化しています。

前回の投稿で書いた、1802年の、ウェスト・インディア・ドックの建設を皮切りに、19世紀初頭のロンドンでは、船着場、荷上げ場、そして貨物貯蔵場として、テムズ川沿いのドック(埠頭)建設ブームとなります。そのブームの終わり、1828年にオープンしたのが、このセント・キャサリンズ・ドックス。ウェスト・インディア・ドックスなどよりも、ロンドン中心には近いものの、場所が手狭であるため、大型船が入る事ができず、商業的には、大失敗のドックだったようです。

確かに、テムズ川から、セント・キャサリンズ・ドックへ入るための水門は、この写真からも分かるよう、大型船が乗り込むには、ちょいと、幅が狭いのです。

セント・キャサリンズ・ドック建設に当たっては、当時、この場所にあった、12世紀に遡るというセント・キャサリン病院の土台と、セント・キャサリン教会、および、ぎゅうぎゅうに建てられていた1250軒のボロ家を、多くの反対を押し切り、取り壊しています。その際、家から追い出された1万1千を越える住民達には、一銭たりとも、補償が出なかったというのですから、たまったものではなかったでしょう。参政権が無い市民は、泣き寝入りです。それなりの問題はあっても、現在の民主主義の国に生まれてよかったな、と思います、こういう話を聞くと。

一番上の写真は、セント・キャサリンズ・ドックの、かつてのアイボリー・ウェアハウス(倉庫)ですが、その名の通り、ここの倉庫には、像牙(アイボリー)や犀の角などが、荷降ろし後、貯蔵されていたそうです。動物保護、自然保護に余念の無い、現在のイギリスでは、そんな物を売買するなど、とんでもハップンの話ではありますが、この頃は、まだまだ、そういった考慮をする人は、いなかったんでしょうね。世界人口も少なかったですし。人間が自然界を利用し搾取するのは、当たり前、のような。他の倉庫には、タバコ、スパイス、その他もろもろの品が貯蔵され。こうした貴重な品々を守るために、埠頭周辺は高い塀で囲まれ、厳重な門がしつらえてあったそうです。

ドックが最終的に閉鎖するのが1968年で、1970年代には、すでに再開発が始まります。私が、初めてこの国に来た時は、すでに今の姿になっていましたので。

敷地内、ディケンズ・イン(Dickens Inn)と呼ばれる、ギャラリーの付いている、昔のコーチング・イン風のパブがありますが、これは、解体した倉庫の材木を使用した作ったもので、当然、ディケンズの時代には存在しておらず、ディケンズとは、何の関係もありません。それでも、1976年に、このパブがオープンした時には、ディケンズの孫がテープカットをしたなどと言う話です。昔、友達が日本から遊びに来た時に、一度、ここでご飯を食べましたが、サービスはのろく、悪く、食事もいまいちで、まあ、観光客目当てのパブですね。以後、一度も足を踏み入れていないので、現在の満足度はどうかは、知りませんが。こうやって、写真を撮るだけでいいです、私は。

この投稿に載せた写真を撮ったのは、一昨日、気温20度を越した記録的な暖かさのハロウィーン(10月31日)の日でした。学校が休みの週とあって、セント・キャサリンズ・ドックでは、多くの食べ物屋台が立ち並び、好天気に浮かれてそぞろ歩く人で活気に満ち、ちょっとしたお祭りの雰囲気。

マリーナ内には、巨大カバが、プカプカ浮かんで日向ぼっこをしていました。これは、オランダのアーティスト、フロレンティン・ホフマン(Florentijn Hofman)氏によるもので、直径21メートル、木製のカバさんです。先史時代に遡ると、テムズ川にはカバもいた・・・という事実からインスピレーションを受けて作ったものだそうで、その名は、HippopoThames(ヒポポ・テムズ)。カバの英語のヒポポタマスと、テムズを合体させた、お茶目な名前です。9月末から、しばらく、セント・キャサリンズ・ドックのマリーナにご滞在していたようです。

こちらは、ヒポポテムズ君のおしり。

また、ヒポポテムズ君と一緒に、マリーナに浮かんでいた黄金の船は、2012年のエリザベス女王ダイヤモンド・ジュビリーで、女王夫妻を乗せてテムズを下ったグロリアーナ(Gloriana)。実際にダイヤモンド・ジュビリーの式典で、グロリアーナが、多数の船に囲まれてテムズ川を下った時は、雨模様の寒い日でしたが、この日は、やわらかな10月の日差しの中、輝いていました。

さて、この後、私は、輸血を受けていただんなを迎えに、セント・キャサリンズ・ドックを去り、近くの病院へと向かったのですが、その際、ロンドン塔前を通ると、塔の周りの堀に展示中のポピーを見ようと、それは大変な数の観光客が押し寄せていました。お日柄もいいし、学校休みだし、展示期間も後わずかだし。こんな大繁盛になる前に行って、植えるのを手伝い、まじかに見れて、つくづく良かったな~と実感。(ロンドン塔のポピーについては、過去の記事をご参考下さい。こちら。)

テムズ川沿いを、ロンドン・ブリッジにむかい歩くのにも、前後から押し寄せる人の波で、通常の倍くらいの時間がかかりました。この周辺、私が、これだけの人出を見たのは、2000年を祝うために繰り出した、大晦日の花火以来の気がします。昨日土曜日は、また、これにも増した人出だったとニュースで報道されていました。こういう時には、テムズ川上を飛んで行けるカモメになりたい・・・なんて思います。雑踏もどこふく風で、すーい、すいっと。

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