ピーター・セラーズの労働組合宣言!!

ピーター・セラーズ出演の、この白黒映画の原題の「I'm All Right Jack」は、「おいらはよろしくやってるぜ」のニュアンスでしょうか。雇い主側、労組(および労働者側)、が双方共、自分達の利権のみを維持するため、あれやこれやの工作に走り、効率がままら無い当時のイギリス産業界をおちょくった映画です。

戦後のイギリス、労組の力は非常に強く、1950年代には、ストライキにつぐストライキがおこり、生産の効率は悪く、その状態は、60年代、70年代にも続き、ついには、サッチャー首相による、労組の改革を待つ事となります。

さて、映画のあらすじは、

第2次大戦後のイギリス。上流階級のおぼっちゃまスタンリー・ウィンドラッシュ。気が良いけれど、ナイーブで単細胞の彼は、特に働く必要はないものの、産業界のマネージメントの仕事でもしてみたいと、いくつかの会社に面接に出かけるが、すべて失敗。そこで、ミサイル工場の重役をする叔父、トレースパーセル氏が、自分の工場で、ブルーカラー労働者として働く条件で雇い入れる。新しい職場で、スタンリーは、工場内の労同組合のリーダー(ショップ・スチュワード)でもあるカイト氏(ピーター・セラーズ)と親しくなり、彼の家に下宿も始める。

工場の労働者たちには、同じ給料をもらいながら、どれだけラクできるかが大切な問題。マネージメント側は、タイム・アンド・モーションと称される、一定時間内で、どれだけの量の仕事をこなせるかの調査しようとするが、労働者達は、一切、それに協力する様子も見せず。ところが、意欲まんまんのスタンリーは、調査に来た人物に、どれだけ自分が、効率的に働けるかデモンストレートしてしまい、その結果から、マネージメントが、生産率向上を行おうとすると、カイトは、労働者達の不満を受けてストライキを宣言。スタンリーは、他の労働者たちより、一生懸命働いたかどで、組合により、1ヶ月、職場の村八分にされる、という処分を受ける。(この処分は、英語で、何故か「Send to Coventry  コベントリーへ送る」と称されます。)

実は、トレースパーセル氏にとっては、このストライキが願ったり適ったり。スタンリーを仕事に着かせたのも、彼が問題を起こし、ストライキの原因となるのを狙ってのものだった。トレースパーセルの友人、コックス氏(リチャード・アッテンボロー)は、別のミサイル工場を有し、トレースパーセルの工場が、ストライキのために遂行できなくなった中東のある国からの注文契約を、コックスの工場が、吊り上げた値段で代行する話となる。こうして、トレースパーセル、コックスと、この中東の国の代理人モハメッド氏の3人の間で、その差額利益を割ってぽっぽしよう・・・という寸法。それなのに、コックスの工場でも、労働者達が、ストライキを起こし、話が進まなくなってしまう。更には、チェーンリアクションのように、全国的にストライキは広がり、国は膠着状態。

一方、正義感に駆られたスタンリーは、一人ストライキを無視して働き始める。カイトは、面目上、スタンリーを、自分の家から追い出すのだけれど、彼を気に入っていた、妻と娘が、カイトに対して、家事のストライキを宣言し、家を出てしまう。

マネージメント側は、現状解決のため、カイトと話し合い、妥協策に辿り着くが、両者とも、スタンリーの存在が邪魔となる。トレースパーセルとコックスは、スタンリーに、働きすぎで病気になったとして辞職してくれるよう、賄賂を送るが、スタンリーはそれを拒否。スタンリーは、ついには、社会の秩序を乱した罪で、法廷に立つことなり、働きすぎのために精神に異常をきたしていたとして、強制休養となるのです。

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イギリスでは、労働者と経営者の関係は、階級闘争の体を示します。労働者側は、上部は自分達をとことんこき使い、益を独り占めする事しか頭にないから、必要以上の事は絶対やらない、という非常に融通の無い態度を示し。経営者側は、会社の成功に関わらず、自分達の給料には大盤振る舞いし、自分達がぬくぬくしていられるよう階級体制の維持を願い、さらには、労働階級は根本的に怠け者という懐疑心も常に持ちあわせている感があります。よって、双方、己の権利を主張するのみで、双方の益に繋がり、ひいては、産業界の向上につながるような、建設的な歩みよりは一切無し。自分さえよければ、「I'm All Right , Jack !」と後はどうでもいいわけです。

いまだ、この国、日本やドイツなどに比べ、米と共に、社会の上層部と下層部の給与の差は、かなり大きいと言われます。そして、ソーシャル・モビリティーと呼ばれる、労働階級から、上の階級に這い上がる事も、ますます難しくなってきているようです。

*労組のストライキがイギリス国内に広がり、一大騒動を引き起こした1978、79年の冬については、過去の記事「不満の冬」をご参照下さい。

映画内でスタンリーが、おもちゃのようなバブルカーを運転して、工場へ通勤する姿も、面白く記憶に残っています。このバブルカー、冷蔵庫よろしく、ドアは前からかぱっと開き、オープントップなので、車内で立ち上がると、上から頭をにょきっと出せます。バブルカーで、小さな街内をぴこぴこ走り回るには楽しいでしょうが、こういうのでトラックの脇とか走りたくはないですね。

原題:I'm All Right Jack
監督:John Boulting
言語:英語
1959年

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